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トココ村の薬

 翌日はやっぱり二日酔いになった。アルのおごりのエールが届いたあとに他の客からも討伐と餃子のお礼のエールが届いて残すことも出来ずにすべてを飲んだ結果だ。

「だいじょうぶかい? 帰りもだいぶ遅かったね」

「すいません、酒場で盛り上がってしまって。神魔法って二日酔いには・・・・」

「私は使えないね、そういった神魔法は」

 苦笑いでオスカーは答えた。アルコールや薬品による副作用には効かないらしい。だが乗り物酔いや病気による吐き気には体内のバランスを整えるように使うことである程度効くらしい。

「昔は体内の酒精や薬品を出してしまう神魔法の技術もあったそうなんだが、伝承が途切れてしまって今は使える人がほとんどいないよ」

「そうなんですか・・・・うー頭痛い。 酔い止めの薬とかあるといいんだけど」

「それじゃあシャイナさんのところに行くといい、この村の薬調合師だから。ギルドにいるナナに聞くといいよ」

「はい」

 薬屋があるとは知らなかった。歩くたびに振動で耳から砕けた脳みそが漏れ落ちて行くような気分だった。アビゲイルは頭をあまり揺らさないようにゆっくり歩いて冒険者ギルドに向かった。

「おはようございます~」

 カウンターではナナがいつもように元気よく挨拶してくれた、昨日は酔っ払って大声で歌いながらディクソンに見送ってもらっていたのだが。

「ナナ、あんなに飲んだのに平気なの?」

「ぜんぜん大丈夫です~。」

ナナは大食漢で酒にもかなり強いようだ。今は若いからいいが将来は脂肪と糖を体に蓄えそうで考えると心配になる。

「私は二日酔いで頭が痛くてしょうがないよ、酔い止めか頭痛を止める薬がほしいんだけど。神父様に聞いたらナナに聞けばいいって言われて、なんだっけシャイナさんだったかな?」

「はい、お薬ありますよ~。この丸薬が頭痛に効きます~」

 カウンターの引き出しからナナは救急箱のような木箱を取り出し蓋をあけると中には様々な色の丸薬と、薬包紙に包まれている何種類かの粉薬の束が入っていた。

「えっナナが薬屋さんなの?」

 アビゲイルが驚いて聞くとふるふると頭をふってナナは否定した。

「私じゃなくて私のおばあちゃん、シャイナが作った薬です~。うちは代々先祖伝来の薬を作りながら行商して旅する一族なんです~」

「へー初耳」

「おばあちゃんのお父さんがここを気に入って住み始めたんだそうです~。今は村で薬を作って売りつつ、私の両親やお兄ちゃんは行商して国中をまわってます~」

 こんなに身近に薬屋があるとは思いもしなかった。てっきりシャイナという人が雑貨屋にでも卸していると思っていたのだが。

「雑貨屋さんにも卸してます~。軟膏の詰替とか」

「ナナは行商しないの?」

「おばあちゃんの面倒と手伝いがありますし、女一人の行商は危険だって言われて。結婚するまでダメだって言われてます~」

「なるほどね」

 一粒30ゼムの頭痛薬はなかなかすごい匂いのもので、材料を聞くのもなんだか怖かった。たぶん漢方薬のようなものだろうと意を決して飲み込む。後味もかなりすごい、腐った泥水を飲んだような気分になる。

「オエ」

「味がひどいんですけど良く効きますから~」

 ナナが差し出してくれた水を一気に飲み干してようやく人心地ついた。しばらくすれば効いてくるだろうと思いクエストボードを確認する。しかしモギ草の採集クエストはすべて埋まっていた。聞くと予備冒険者のじじばば達が久しぶりの仕事再開であっという間に受付が終了したのだそうだ。

「1週間仕事がなかったですから、みんな孫にあげるお小遣いが尽きたんです~。しばらく採集クエストは早いもの勝ちです」

「あらら・・・・・って、何だこれ?」

 クエストボードの右端に張り紙があり「魔素不足、魔物材料求む シャイナ」と書いてあった。

「おばあちゃんからのクエストです~。薬の基礎材料の魔素が減ってきてるので募集してます。ゴブリンの死体やスライムの核を持ってきてください~」

「えっ! ゴブリンの死体が薬の材料なの?」

 だとしたら私がさっき飲んだ薬は何がはいっていたのだろう。考えるだけで気持ち悪い。ナナは怯えるアビゲイルを見て笑った。

「違います~。魔素はゴブリンの死体から抽出した自然に存在する魔力の素です~。自然界の鉱石や動植物、魔物からといろんな魔素が抽出出来るんです~」

「肉や骨を砕いて絞るようなもんじゃないぞ、魔法で取り出すんだ。汚いもんじゃない」

 ディクソンも横から説明補足してくれる。ゴブリンを鍋に入れて煮出すようなものではないらしい。

「出汁じゃねえんだぞ」

 今のアビゲイルではスライム程度がいいだろうが、今日は二日酔いで巡回していて何に会うかもわからないので用心してそのまま買い物をして帰ることにした。薬が効くまでもう少し寝たいというのもあった。

 ちなみにディクソンも二日酔いにはなっていなかった。本人いわく鍛え方が違うらしい。ロイドはまだギルドに来ていなかったので、これからディクソンが叩き起こしにいくそうだ。災難である。冒険者は剣と魔法と筋肉と肝臓を鍛えなければいけないらしい。前途多難だ。

「いらっしゃい、アビーさんどうしたんだい。顔色が悪いけど」

 八百屋の店主に心配された、二日酔いだと言うとブロッコリーを勧められた。なんでも新芽が二日酔いに効くのだそうだ。

「理由は知らないけど昔からいうんだよ。スープにしたりハーブを刻んだパン粉をつけてフライにしたりさ」

「へえ、ありがとうやってみます。あとキャベツください」

「あいよ、ありがとう」

 肉屋に行くとまた同じように顔色を見られて心配された。

「そういやあ昨日は盛り上がってたもんな、夜にナナの歌が家まで聞こえてたぜ。二日酔いには卵がいいぜ。俺は塩気の効いた芋のスープとかよく飲むな」

「いろいろあるんですねえ」

「まあみんな経験してるからな、自分の体で覚えた効き目ってのがあるかもな」

 アビゲイルはナナからシャイナさんの薬を買って飲んだことを言うと

「よく飲めたな」

「ほんとだよ」

と感心されてしまった。

「どういうことですか?」

あせって聞いてみる、もしかしたら効かないのだろうか。

「シャイナばあさんの薬はすげえよく効くんだ。腹痛も風邪もあっという間に治っちまう。軟膏や虫除けなんかは俺たちもよく使うんだが飲み薬は味がみんなすげえんだ。さっき飲んだならわかるだろ?」

「だから本当に具合が悪いときに我慢して飲むんだよ。子供がぐずったら、シャイナさんの薬を飲ませるって言ったらみんな泣き止むよ」

「まああの味ならそうなるでしょうね・・・・・・腐った泥水みたいでした。でも朝よりすごい楽です」

「効き目はすげえんだよ」

「あの人のおかげで村のみんなも元気なんだよ、産婆もできるしね」

 トココ村にとって大事な人らしい。絵本に出てくる大鍋をかき回す魔女のような人なのだろうか? にしてもそのよく効く薬も魔素がないと作れないらしい。

(じゃああのクエストをがんばらないといけないな)


 教会に戻り、オスカー達と昼食を食べる頃にはもう頭痛はすっかりおさまっていた。

「シャイナさんの薬はよく効くだろう?」

「ええもうすっかり。でも味がすごいですね」

「そうなんだ、私達も3人揃って風邪をひいたときにお世話になったがもう二度と風邪は引くまいと思ったよ」

 シャイナと聞いてエルマは驚きカミラは飛び上がった。

「薬飲んだの? オエ」

「こらカミラ、食事中に行儀が悪いぞ」

「あの人の薬だいっきらい!」

 カミラはじゃがいもとブロッコリーのスープを飲み干してパンを掴み外に飛び出していった。

「こら!」

珍しくオスカーが怒っている。普段ならごちそうさまと挨拶して食器を流しまで持っていくのだが、今日はそれをすべて放棄して逃げ出した。

「やれやれ、まだ嫌なんだなあ。いやね、風邪をひいたときにシャイナさんに無理やり口をこじ開けれて薬を飲まされてね・・・・・」

「私とお父さんで羽交い締めにしてね」

「うわあ・・・・目に浮かびますね」

「でもそのあとすぐに治ったよ。熱で何日もうなされていたのにね」

「私もあの薬の味を思い出すと嫌でしょうがないわ、もう我慢はできるけどね」

 アビゲイルは朝に飲んだ薬を思い出した。確かにもうしばらくは飲みたくない。だがいくつか持っていれば冒険者には便利そうだなと思い始めた。

「でもまあ薬がないと何かあったとき困りますもんね、よし、明日から魔素集めするか!」

 気合を入れてアビゲイルは牛乳を飲み干した。


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