餃子作り2
お久しぶりです
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餃子作り後半戦。アビゲイルは生地をボウルから取り出し、打ち粉をしたテーブルに置いて適度な大きさに切り分けた。切り分けた生地を今度は太めの棒状に丸めていく。カミラが手伝うと言い出して面白半分に粘土をこねるように遊びだしたのでエルマの雷が落ちた。
「カミラ! 食べ物で遊ばないの!」
怒られるとカミラはすぐに周りの大人に助けを求めるようにキョロキョロと見つめてくるが、本当にダメなときは助けない。
「そうだよ、食べ物は粗末に遊んじゃダメ。材料を作った人にもこれから食べてもらう人にも失礼でしょ」
「はあい・・・・」
小さく返事してアビゲイルの後ろにまわり、腰のあたりに顔をうずめる。最近カミラはこんなふうによく甘えてくる。
「あー、ダメダメ。今作業中だから。離れてカミラ」
注意されるとすぐ離れていく、だが顔は未練が残っている。カミラはまだ甘えたい年頃だ。お姉ちゃんが怖い存在なので他に甘えられる同性がいないのだろう。いつもなら頭をなでたり出来るのだが、今は作業中で手が離せない、申し訳ないが離れてもらう。
離れてもらったところで包丁で棒状にした生地を今度は親指の先くらいの大きさに切っていく。
「これ、丸めていって」
アビゲイルが頼むと3人で手のひらでくるくると丸めていってくれる。
「軽くでいいよ」
小さく丸まった生地が2~30個くらいになったので、ここで包み方を教えることにした。まずは生地を手のひらでおさえ、ひらたくしてから生地をまわしつつめん棒で丸く伸ばしていく。すぐに円形の生地が出来た。
「お、うまいもんだな」
「真ん中が少し膨らんでるけどいいの?」
「うん、これでいいの、でこの生地にこのくらい具を載せて、水をつけて半分に畳んで、ひだを作るながら閉じていく・・・、はいこれで出来上がり」
出来上がった餃子を打ち粉を振った皿に置く、長年包み続けているだけあって、アビゲイルの餃子はきれいな形をしている。
「ほー、これを焼くのか」
「そういうこと、皮を作っていくから包んでいって」
せっせと皮を作っていたが、どんどん皮だけ増えていく。初めての餃子作りに3人とも苦労しているようだ。
「難しいのね、このひだを作るとこが」
「ひだの数は少なくていいから、隙間が出来ないようにぴっちりしめてね、焼く時に皮が破けてたり隙間が開いてるとそこから旨味が逃げちゃうから」
「ちょ、もっかい教えてくれ」
アビゲイルはゆっくりと何度も丁寧に教えた、エルマは包むたびにうまくなっていく。ディクソンも遅いがまあまあの出来だ。カミラは無言でもくもくと作っているがひだがなく、半分に折って端をぎゅうぎゅう抑えている。
「カミラ・・・・まあそれでもいいんだけど。それカミラが食べるんだよ?」
「えーやだぁ!」
「じゃあ教えた通りに頑張って」
「むずかしい~」
ちょっとべそをかきそうな顔をしてぐずる。カミラにはまだ難しかったなとアビゲイルはちょっと反省した。皮づくりを中断してカミラに丁寧に教えることにする。
「ほらカミラ泣かないで、また教えてあげるから。こうやってひだを作るときは裁縫の運針のときみたいに皮を寄せて、畳んでいくの、ほらね」
「うん」
何度も一緒に作ってようやく形になってきた、ひだは3個とか2個だが、隙間がなければいいので問題ない。
「うまくなってきたね、急がなくていいからね」
カミラはどちらかというと褒めて伸びるタイプのようなので、小出しにほめていく。機嫌が良くなればカミラは頼まなくても頑張ってくれる。いい子なのだがたまにテンションが上がったり面白がってしまいエルマの雷が落ちる。これがいつものパターンだ。もう少し大きくなれば落ち着いてくるだろうから、今はなだめつつ色々覚えていってほしいとアビゲイルは思っていた。
「エルマはどう? あ、もう大丈夫だね、上手に出来てるよ」
「良かった、さっきカミラに言っていたやり方でやると上手くいくようになったわ」
「先生俺のも褒めて」
「え、どれどれってひだが一つしかないじゃん。なにこれ」
ディクソンの作った餃子はひだの数がどんどん減っていって1個だけになっていた。だが、ぴっちりしまって形もきれいだ。
「なんか評価しづらいな・・・・・ぎりぎり手抜きみたいな」
「そんなことないです先生」
二人のやりとりを見てエルマとカミラは笑っている。
「ま、いいか。じゃあまた皮をどんどん作っていくから包んでいって」
「はーい」
残りの生地をすべて丸く皮を作っていく、あっという間にすべての皮を作り今度は包んでいく。鼻歌まじりに包むアビゲイルの餃子作りの早さにみんな見とれている。
「早いな、おい」
「慣れればこんなもんだよ」
具と皮の量を調節しつつどんどん4人で包んでいってようやくすべての餃子が出来上がった。数は213個、少し多くなったが少なくなるよりはいい。
「すごい数ね」
「でも食べるときはあっという間になくなるんだよ・・・・・」
「よっぽどうまいのか?」
「ちょっと足りない調味料もあるから、食べてからのお楽しみですな。よし焼くぞ!」
オスカー達のぶんを焼いていく、一人どのくらい食べるだろうか? エルマがサラダをつくるというので一人12~3個くらいだろうか、大きめのフライパンに油をしいて加熱しつつ餃子を並べていく。
「焼いていくのか、ふむ」
気づくとオスカーが後ろに立っていた。どうやら仕事が終わったらしい。
「生地に肉の具を包んであるんだね、若い頃修行時代に食べたものに似てるなあ」
「食べたことあるんですか」
「名前は知らないけれど、こんなふうに包まれていてカゴで蒸していたなあ。肉も羊だったような・・・・・。東方の教会に修行に言った時にそこの修道僧が作ってくれてね。確か彼は・・・・・東から来た商人から教わったと聞いたよ」
「じゃあ、たぶんこの餃子の仲間ですね。これも蒸したり茹でたりして食べますから」
「アビゲイルさんはずいぶんいろんな場所の料理を知ってるねえ」
「ほんとですね」
前の世界は自宅で世界の料理を普通に食べていたのだが、それがとてもすごいことなのだなとアビゲイルは感じた。
フライパンはちりちりと音をたてて、餃子を一つひっくり返すときつね色になっていた。アビゲイルは熱い鶏ガラスープをフライパンに注ぎ、火を中火にして蒸し焼きにしていく。
「スープをここでも使うのか」
「別にお湯でもいいよ、今日のスープはちょっと思いついたからやってみてるだけだし」
「生地も?」
「うん、生地はぬるま湯で練ればいいよ、ディクソン作ってみたいの?」
「美味かったらな」
鶏ガラスープと焼けた餃子からにんにくの香りが漂い、台所の色んな場所から腹の虫の鳴き声が聞こえる。息子たちに作ったときも、帰ってくるのが早かったり、出来たと呼べばいつもより早く食卓についたりと餃子の旨さと香りは食欲をくすぐるようだ。
「うーん、いい香りだ」
小麦粉を水で溶いておいてフライパンのふちから流すとじゅわっと大きな音と湯気が立ち込める、少しそのまま加熱して今度は油を少しいれて餃子の羽を作る。
「くっつけるのか?」
「こうするとパリパリした皮になっておいしいんだよ。ま、これもなくてもいいやつ」
「ふーん」
フライパンに皿をかぶせてひっくり返す。
「いよっと。ハイ出来上がり~。神父様たちのぶんね」
「いただきま~す」
「俺も味見したい、オスカー1個くれ」
「いいとも」
取り皿に1個、フォークと共に手渡す。ディクソンはそのままポイと口に放り込んだ。
「あ、熱いよ?」
言うのが遅かった、噛んだ途端に肉汁が溢れ相当熱かったのだろう、慌ててはふはふと冷ましているが声が出ない。
「はやふひえ」
「ごめん、みんなも気をつけて。あ、好みで酢とコショウで食べてみてよ」
アビゲイルは小皿に酢を入れて、そこにコショウをふってタレを作った。オスカーは酸味のある料理が好きなので、すぐに餃子を浸しほおばった。
「うん、あちち。おいしいよ、このほうがすこしさっぱり食べられていくらでもいけそうだ」
「皮がおいしいわ。もっちりしてて食べごたえもあるわね」
「酢もいけるな、このままでも十分だが、うまい。これはいい。俺も今度また作ってみよう」
「お、ディクソンが作ったの食べてみたい」
「カミラも食べたい!」
アビゲイルも一つ食べてみたが、生地にスープを入れるのは成功だったようだ。噛むほどに旨味がひろがり、熱い肉汁と絡んでおいしい。
「うん、おいしい。もうちょっといろんなスパイスで試してみよう」
「食べて思い出したが、昔食べたのはクミンがよく効いてたね。にんにくは入ってなかったなあ」
「へえ、今度そっちも試してみましょうか」
「おお、楽しみだね」
「アビゲイル、この餃子酒場で焼こうぜ。このままスープと餃子持っていってアルに厨房を借りよう」
「え、仕事のじゃまにならないかなあ?」
言っているそばからディクソンはスープの入った鍋をかまどから降ろして、餃子も皿にひょいひょいと移している。
「新作料理を作ったって言えばだいじょうぶだよ、俺が頼んでやる。これは焼きたてのほうがうまいだろうしな」
「まあ、無理なら教会戻って焼けばいいか」
「よし、お前はスープ持っていけ、餃子は俺が持つ」
「じゃあいってきま~す」
「いってらっしゃ~い」
厨房を借りるのであれば、アルさんたちにも焼いてあげようかなと思いつつ、暗くなりかけた夜道を酒場までのんびり向かった。




