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手芸教室

 思わずもらえることになったブラックウルフの皮は一応なめしてもらって、狼退治が全て終わってから売るかその皮で何か作るかを決めることにした。リンにそう頼むと気軽に了承してくれた。

「構わないよ、もう1匹でも狩れたら作れるものが増えるし、売ってくれるにしてもまとめてもらったほうが楽だよ」

「助かります。もしまた何か作れることになったらまたルツに頼みたいんですけど」

「それを聞いたら喜ぶよ」


 午後の巡回をしながらもし次に作るなら何がいいかディクソンと相談した。

「そうだなあ・・・・2枚あればコルセットは余裕だな。あまりでなにか小さな革細工でも作れるかもな。財布とか。1枚なら革手袋とかいいんじゃないか?」

「手袋かあ、いいねえ」

「ちょっと奮発して甲の部分を補強するのもいいかもな。肘あたりまでの手袋にすればまあまあの装備になるぞ」

「夢が広がるなあ」

「夢の見過ぎで油断するなよ」

「わかってるよ~」

 巡回は探索魔法をしつつ、周囲を見ながら進んだが、同じことを数日続けているのでだいぶ慣れてきていた。なので会話も少し談笑っぽくなってしまう。春の午後の陽気はただただ暖かく気持ちがゆるむ、太陽の光も程よく優しく木々の新芽を通してから巡回する二人に注がれて、食後の二人の眠気を誘ってくる。

「あ~・・・・いい陽気だな、何もないなら釣りでもしたい気分になるぜ」

「ディクソン釣りが出来るの?」

「たまにな。晩飯目当ての暇つぶしだからうまくはないがな。ロイドのほうがうまいぞ。アイツたまにアルのとこに売ってるしな」

「へ~、何が釣れるの?」

「鱒とかナマズだな。秋はエビを集めて素揚げで食べたり」

「おいしそう、ムニエルに焼き魚・・・魚食べたいなあ」

「ロイドに頼めよ、エルマが食べたいって言ってたと伝えたら湖の魚みんな捕まえてくるぞ」

「健気だねえ・・・・・」

 緊張感のない巡回だ。数日前が嘘のようである。こういうときこそ油断してはいけないのだが、数日続くと慣れてきて見張りながら雑談出来るようになってきた。ディクソンにそのことを話すとそれでいいと言い、予想外だった。

「ずっとピリピリしてるとここぞって時に思うように動けないからな。体がこわばっちまって。何ていうんだ? 切り替え? そういうのがパッパと出来るのがいいんだよな」

「切り替えかあ」

「冒険者だからって冒険ばっかり考えるのも疲れるんだよな、気分転換みたいなものがあるといいぞ。お前だと料理とかか?」

「今日は帰ってからお裁縫だよ」

「へえ裁縫もできるのか、生活のスキル高いよなお前」

「普通じゃね?」

「剣ばっかり振り回していても疲れるからな、なんかしらの趣味があるのはいいぞ」

「ディクソンでも剣振り回してて疲れることあるんだね」

そう言われてディクソンはちょっと怒ったような感じで弁解しだした。

「あるよそりゃ。ありますよ。ずっと血に飢えてるみたいじゃんかそれじゃ。俺は平和が好きなの」

「そっか、ごめんね」

「まったく、俺は冒険バカじゃないぞ。昔よりはな」

 午後の巡回は和やかな雑談とともに終了した。狼の群れは残り4匹、半分になり手負いがいるので危険なのは3匹。このまま森に消えてくれればありがたいが狩人のゲイリーが言うにはその可能性は低いという。好きに外に出来ない村人たちは退屈極まりない。

(みんな何かしらの気分転換があればいいんだけどなあ)

そう思っても一人ひとり好みが違うのでアビゲイルの気分転換である料理や裁縫は無理に薦められない。精神的にも疲れているだろうからマッサージとかいいのかもしれない。

 巡回が終わったアビゲイルは肉屋や八百屋で買い物を済ませてすぐに教会へ帰った。


「おかえりなさーい」

「ただいま~」

 アビゲイルは帰宅してすぐに食堂に向かい、今日購入した肉や野菜をテーブルに並べていった。これでまた2~3日はだいじょうぶだろう。

「あれ? この布は?」

 たたまれた青色の布を眺めてエルマがアビゲイルに聞いた。

「ああ、それでちょっと作りたいものがあってベアトリクスさんの店で買ってきたんだ」

「洋服作るの?」

 何かを作ると聞いてエルマは目を輝かせた。やはり女の子である。

「ううん、ただ物を運んだり包んだりするときに使う布。端っこがほつれないように縫うだけの簡単なやつ」

「アビゲイルさんお裁縫もできるのかね?」

「まあボタンを着けたり簡単なものを縫ったりの基礎くらいですね」 

「ボタン」

ボタンとつぶやいてオスカーは黙った。何か言いたいことがあるような、言っていいのかどうしようか迷っているような感じだ。

「何かありました?」

「いやボタンがね・・・・着けられるのだなとね・・・・」

「ボタンがとれた服があるんですね?」

聞くとオスカーが少し照れた。ぽりぽりと頭をかきながらおずおずと答えた。

「私だけではなく3人分あってね・・・・」

3人とも裁縫が出来ないようだ、料理も出来なかったので母親から教わることが出来なかったのだろう。エルマは少し恥ずかしそうなオスカーを見ながらアビゲイルに頼んだ。

「アビゲイルさん、よかったらお裁縫も少し教えてほしいの・・・・まずボタンをつけるのとか。簡単な縫い物とか・・・・・ダメかしら?」

「私の自己流でいいならいいよ。簡単な服くらいまでなら作れるし、編み物も」

「良かった・・・・。嬉しい! ありがとう!」

アビゲイルの料理教室に続き、手芸教室もはじまることになりそうだ。教えを請われるのは嬉しいことだが、ますます忙しくなりそうだなとアビゲイルは思った。

「私も覚えたい!」

 カミラも手を挙げた、だがカミラに裁縫ができるだろうか? 針や布はさみはまだ危ないような気がする。オスカーもそう思ったようで。

「カミラにはまだ危ないんじゃないかな? その前に掃除やエルマの家事の手伝いを覚えないとね」

「え~。ちゃんとしてるよ~」

「してない」

エルマがびしりと言い切った。カミラは少し飽きっぽく集中力がない。アビゲイルの知らないとことでエルマをだいぶ怒らせているようだ。少し怒った表情のエルマを見てカミラは怯み、アビゲイルとオスカーに助けを求めたがそれは無駄に終わった。

「ダメみたいだね、まあ確かにもう少しお手伝いしてもらえると私も嬉しいかなー?」

 新しいことに興味を持つことはいいことだが、それで日々の生活や日常でやらなければいけないことがおろそかになることは良くない。もともとおろそかなのでそこをまずしっかりしてほしいというのが3人の希望だ。カミラもそれはわかっているようで、3人の顔を交互に見て許しを乞うていたがやはり無理とすぐに理解したようだ。

「わかった・・・・・」

「まずはエルマから許可をもらいなさい」

「第一関門が厳しそうだな~」

「もうアビゲイルさんっ。私も好きで怒っているわけじゃないのよ」

「はは、ごめんごめん。じゃあ晩ごはん作ろっか。カミラ手伝って」

「は~い・・・・・。でもおいも洗うのはやだよ」

「選り好みしないの!」

 早速エルマの雷が落ちてカミラは舌を出した。それを見てエルマはさらに怒り出してお説教されてしまった。カミラがお裁縫できるまではまだかなりの道のりがあるようで、アビゲイルとオスカーは顔を見合わせて苦笑いした。

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