賑やかな夕食
今年の更新は今回で終了となります。続きは来年1月5日ごろを予定しています。
中途半端な状況で続いてしまい申し訳ないです。
今年人生初めての小説でしたが多くの皆様に読んでいただけて感謝しております。
どうかよいお年を。
巡回が終わったので今日の分の報酬を受け取り帰ることにした。ブラックウルフ、狼とほんの少しだけ戦って、その前後にかなり歩いたせいで心と足がかなりだるかった。最近は水魔法でシャワーのように浴びるだけだったので今日は風呂にお湯をはってゆっくり浸かろうと決めた。お湯は自分で出せるから入り放題だ。
教会が見えてきた、2階の窓からカミラが手を降ってくれているのでこちらも大きく手を降る。警報が出てから二人は外に出ていないのでだいぶ退屈だろう。さらにオスカーが勉強や読書を勧めるのでなおさらのようだ。
アビゲイル自身は巡回や他の細々としたギルドの仕事があるので二人に付き合えないのが残念だ。なので夕方、帰ってから夕食を作っている間が姉妹にとって一番のお楽しみというわけである。
「おかえりなさい! 今日はどうだったの?」
毎日第一声で今日は何があったのか、カミラは聞いてくる。今日はディクソンが狼を2匹仕留めたので、神父にも伝えなくてはいけない。同じ話を何度も繰り返すのは今は疲れてしまうので、カミラに神父様を食堂に呼んでもらうように頼んだ。
「おかえりなさい、今日は夕飯どうしましょうか? いちおう畑のカリフラワーでスープを作っておいたわ」
「ありがとうエルマ、それと昨日買ったパンと・・・・って堅焼きパン結構固くなってるなあ」
丸い堅焼きパンは日持ちはするが日が経てばやはり固くなる、スープにひたして食べればいいのだろうが、それでは昨日とほぼ同じメニューになってしまう。
このパンをみるたびにピザを思い出して作ろうかと思うが、残念ながらピザソースが無いので作れない。トマトが無いからだ。どうしたものかと悩んでいるとオスカーが台所にやってきた。
「おかえり、カミラに呼ばれたが何か変化があったのかい?」
アビゲイルは今日ディクソンが2匹狼を倒したこと、出没した場所、そして手負いにしたことなどを説明した。
「うんうん、今の所何も被害はなく順調に数が減っているね、このままうまくいくといいんだがなあ」
「そうですね、でも手負いを入れてまだ5匹いるので油断できません」
「もう、本当に早くいなくなってほしいわ、退屈でしょうがない」
「たいくつ~、もう本読むのあきた!」
行動を制限されるのは本当にうんざりする、いつもは面倒な学校にも行きたくなるほどだ。こういうときはやはり食事が一番楽しみになる。
「今日の夕食なんですけど、みんな何かリクエストあります?」
アビゲイルの質問にみんなですこし悩んだあとそれぞれ思い思いにつぶやいた。
「マヨネーズでサラダが食べたいね・・・・まあこの状況じゃ厳しいか」
「私はクリームシチューが食べたい、アルさんのお店に行けないのは残念ね、夜は特に危ないし」
「ケーキ!」
マヨネーズは時間がなく、卵の鮮度がイマイチなので却下。ケーキはごはんに入らない。クリームシチューなら、ホワイトソースを作れるが今日はもうエルマがスープを作ってくれている。すべてのリクエストは明日以降に延期に・・・・・と思ったがホワイトソースは使える。
「ちょっと変わったご飯にしますか、マヨネーズは明日アルさんのとこで買えるか聞いてみますね。あとケーキはダメ」
「えー! ケーキ!」
家に閉じ込められていて、ストレスが溜まってきているようだがケーキはご飯に入らない。
「さて、オーブンをちょっと温めますか」
「私がやろう、エルマ、アビゲイルさんを手伝っておくれ」
玉ねぎを千切りにしてバターで炒め、小麦粉をまぶし、焦げないように更に炒める、粉っぽさが無くなったらそこに牛乳を少しずつ足して、塩コショウで味をつけて少しぽってりとしたホワイトソースを作る。
「思ったより簡単なのね」
「これをもう少し牛乳やブイヨンで伸ばせばホワイトソースやミルクスープになるってわけ、旨味のでるソーセージやベーコンを使うといいよ」
「今度試してみるわ」
オーブン皿に堅焼きパンを丸のままのせてそこにホワイトソースを厚めに載せていく、そこに茹でたブロッコリーと畑で採れたアスパラ、ソーセージをのせてその上からチーズをおろしてかけていく。
「オーブンが準備できたよ」
「ありがとうございます、ではこのトッピングした堅焼きパンをオーブンに入れます」
入れてからお茶用のお湯を沸かした、かまどはエルマがスープを作ったときから火が焚かれていたのでそのまま使うことにした、スープも温める。しばらくするとオーブンから焼けたチーズの匂いが漂ってきた。ケーキが食べられずにふてくされていたカミラも鼻をひくひくさせている。
「よしよし、もういいかな?」
オーブンの蓋を開けて中の様子を見る。チーズが少し焦げて溶け出し、パンの上から流れ落ちそうになっていた。アビゲイルが慌ててオーブンからパンを取り出す。
「おととと、あちちっ」
「大丈夫?」
エルマも慌てて鍋つかみを用意してアビゲイルを手伝った。
「ハイ出来上がり~。ホワイトソースピザもどき」
「おおお~」
包丁でピザを切り分ける、エルマがナイフとフォークを出してきたがアビゲイルはそれは使わないと言うと驚いた。
「これはね~こうして、手で食べるんだよね」
切り分けた一枚を皿に移してからアビゲイルは手でピザを持ち上げて頬張った。堅焼きパンの生地はオーブンで焼いたぶんすこし固くなっていたがザクザクとした食感が熱いホワイトソースとチーズと相まって美味しかった。
「うんうん、おいしい。みんな手を洗ってから食べてね。私ももう一回手を洗わないと」
うっかりしていた。みんなで流しに向かい順番に手を洗う。早く食べたいのでエルマとカミラが押し合いへし合いして笑い合っていた。数日聞けなかった大きな笑い声を聞いてオスカーと一緒に笑いあい安心する。
「熱いっ。カミラ気をつけて。もう少し小さく切ろうか」
「だいじょうぶっ。アビゲイルさんこれケーキみたいな形ですごくおいしい!」
「あ、そういえばそうだね。良かったたくさん食べてね」
「手で持って食べるのってサンドイッチくらいかと思ってたけど、こういう熱いものを食べるのも楽しいわね」
「う~んうまい、もっとチーズをのせて色々な具で楽しみたいね」
なんとなく考えたものだったがなかなか好評だ、明日アルさんにも教えてあげようかなとアビゲイルは思った。
「本当はホワイトソースじゃなくてトマトソースで作るんですよね」
「へえ、じゃあこれは夏の料理なのかね?」
「トマトを水煮にして保存すれば1年中食べられますよ」
「じゃあ今年は水煮をいっぱい作りましょう。私もお父さんもトマト大好きだし」
夏の楽しみが出来たなあと思ったがカミラは顔をしかめていた。
「ホワイトソースでいいよ!」
「カミラ、トマト嫌いなの?」
カミラは返事をせずにさらに顔をしかめた、大嫌いのようだ。それを見てアビゲイルはにんまり笑った。
「うわあ、いいこと聞いた。夏はいっぱいトマト食べようね~」
「やーだー!」
少しからかっただけだったのだが、ものすごい嫌がりようだ。それを見てみんな大爆笑してしまい、ますますカミラを怒らせた。
「ご、ごめんごめん。明日はケーキにしよう。パンケーキ。だから許して」
まだ3人の笑いはおさまってはいなかったが、カミラは許してくれた。明日は八百屋に寄って野菜と果物も買ってこようと決めた。
賑やかな夕食が終わり、食器を片付けようとすると珍しくオスカーが皿洗いを手伝ってくれた。
「アビゲイルさん、今日はどうもありがとう。なんだか少しすっきりしたよ、笑ったからだろうかね。あの子達も元気になったようだ」
「私もなんだか気分が晴れました。ありがとうございます」
皿を洗いながら二人で窓の向こうの暗闇を見つめる。
「この村に魔物が出るのは本当に珍しいことだ、村の人たちも慣れていないようで不安が募っているだろう」
「本当に平和な村なんですね」
「ああ、こんなに自然に囲まれているのにね。だが村人たちが気をつけてきたからこそ平和だったんだ。森から来るものにはなかなかに無防備だ。今回の件でよくわかる」
森の中はほとんど誰もわからない、今まで誰も奥まで行ったことがなく、この森の先に何があるのかも誰も知らない。窓の向こうに広がる暗闇のようで、人間は台所の明かりがさす程度の僅かな部分しかわからない。
「アビゲイルさん、毎日子どもたちが心配している。どうか無理だけはしないでおくれ。何かあったら、私もつらい」
「ありがとうございます。心配してくれて、でもだいじょうぶ。狼にあったらすぐ逃げろってディクソンに言われてますから」
「それがいい。剣が新しくなったからと試し切りする必要はないからね」
「はい」
皿を洗い終えて、もう一度窓の向こうを眺めた。あの暗闇からいつ魔物が飛び出してくるかわからない、村を守る遠くまで見渡すための光は強いほうがいい。




