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吠え声

 翌日アビゲイルは普段通りの時間にギルドに出かけた。到着すると巡回予定の人々がギルドに集まって情報交換したり雑談したりしていた。

「おはようございます~」

 ディクソンがアビゲイルを確認するとすぐに指示が出た。

「おう、アビーおはようさん。すぐに酒場に行ってアルを手伝ってくれ」

「ん、はぁい」

 今日も炊き出しかなと考えつつ酒場に向かう。厨房側の裏口から入っていった。

「おはようございます~。ディクソンからこっちに来いと言われたんですが・・・・・」

「おはようアビゲイルさん。今日もスープを作るから手伝ってくれよ」

 パトリックが教えてくれたが、アルが今日も朝の巡回に出ているので仕込みの手伝いをしてくれということだった。しばらく酒場の昼間のメニューは数を減らして、サンドイッチとスープのセット、もしくは単品。となったらしい。客も少なめで持ち帰りを希望する人が増えているからとのことだ。

「アビゲイルさんはマヨネーズを作ってくれないか? 俺も混ぜるの手伝うからさ、どうも分量がうまくいかないんだよな」

「うん、わかった」

 剣やかばんが作業の邪魔になるのではずして厨房の休憩用テーブルの側に置いた。石鹸で丁寧に手を洗い材料を揃える。白身と黄身を分ける作業から始めた。パトリックと二人ですればすぐに出来るだろう。

「ウルバさんは?」

「今は宿屋のほうの朝食の手伝いをしてるよ。宿屋の飯は朝はじいちゃんとばあちゃん、あと妹がやってるんだ。ちょっと二人共動きが遅いからさ」

そう言ってパトリックはおどけた。

「5人兄弟だっけ、他の兄弟も?」

「俺のすぐ下の弟はベッドメイクしてる妹はその下に二人いるけど一人は宿屋の手伝いその下の妹と一番下の弟は学校。でも休みだから、宿でなんかしら働いてるよ」

「みんなえらいねえ」

「そんなことないよ、うちは普段人雇えるほど儲けがないからさ」

 山菜やきのこの時期が終わると宿屋は暇になるらしい。月に数人の行商人や御者が泊まるだけなのだそうだ。

「なるほどねえ、よしじゃあ混ぜていこう」

 パトリックが率先して混ぜてくれた、途中油を少しずつ足しながらすばやく混ぜていく。

「この油を足していくのが難しいんだよな・・・・・親父は一発で覚えたのにな」

「アルさんは経験が違うよ。パトリックもやっていけば出来るようになるんじゃない?」

「そうなんだよな~」

 笑いながらそう答えるということは自分自身でよくわかっているのだろう。

「パトリックも料理人になりたいの?」

「まあね、妹たちがもう少し大きくなって手伝いが出来るようになったら、都に修行に行きたいんだ。親父が修行していた店があるんだよ」

「わあ、いいね。新しい都の味が楽しめるんだ」

「そうなれるといいけどな」

 マヨネーズが完成し、今度はじゃがいもをざぶざぶと洗う、ついでに水魔法を使って魔法の練習をすることにした。桶にじゃがいもをたっぷり入れて水魔法で水流を作り土を洗い流す。他の野菜も同じように手早く洗った。

「おはようアビゲイルさん、今日もありがとうね」

「おはようございます。じゃがいも終わってますよ」

「よし、じゃあ早速むいていこうかね。お湯は沸いてるかい?」

「もうすぐだよ!」

 アルは巡回に出かける前に二人に下ごしらえの指示を出してくれていたので、ウルバとパトリックは手順も良くすばやくこなしていった。ブイヨンは仕込み済みでウルバが時折鍋を除き丁寧に灰汁をすくっている。

「今日はじゃがいものスープ?」

「ああ、一緒に塩漬けの豚肉を入れるんだってさ」

「うわあ、おいしそう。昼ごはん食べていこうかな」

「手伝いの駄賃に一杯食べていきなよ」

 そう言われて笑顔になるアビゲイルの顔を見てウルバもつられて笑顔になった。

 料理の準備が終わって3人でのんびりお茶を飲んでいるとアルが帰ってきた。準備があるので少し早めに帰れたのだそうだ。

「おう、アビーさん。手伝ってくれてありがとよ」

 ウルバの入れたぬるめのお茶を一気に飲んでアルは休まずすぐに料理を仕込み始めた。1時間もしないで塩漬け肉のスープが完成した。肉は大きめに分厚く切ってあったが柔らかく、噛むと旨味が口中に広がった。もう少し煮込めばこの旨味がじゃがいもに染みてさらにおいしくなるだろう。

 食べているとディクソン達がやってきた。サンドイッチとスープを大声で頼んでアビゲイルの隣に座った。

「食ったらすぐに出かけるぞ」

「わかった」

 アビゲイルはお弁当用に持ってきた堅焼きパンをスープに浸して食べていた。

「なんだそのパン、うまそうだな」

「サンドイッチと半分交換する?」

「サンキュ、しかしなんだかお前と話しているとなんだか気がゆるむな」

「今は努めてそうしてるんだ、考えすぎて緊張すると失敗しそうで」

「なるほどな」

 渡された堅焼きパンをスープに浸さずにディクソンはまず大きく一口かじった。


 本日午後からはディクソンとの巡回だった。初めての巡回だったが、周りに目を配りつつ村の周りを歩く、というだけだったので探索魔法を使いながらただ散歩しているという感じだ。

「昨日から捕まらないね」

「まあ狼達も人間に仲間をやられたから用心してるのかもな、だが人間が敵になったけど獲物であるのは変わらないから復讐がてら狙われやすいかもしれん」

「復讐がてらって」

「そうだろ? 仕返しも出来て腹もふくらむ。一石二鳥だ」

 確かにディクソンの言うとおりだがなんだかあっさりというか、緊張感がないような気がする。そう伝えると。

「お前が言うなよ・・・・。 まあ俺は魔物退治はここに来る前はしょっちゅうだったしブラックウルフも初めてじゃないしな。お前はどうなんだ、スライムとゴブリンを叩いたことしかないのに」

「ディクソンと一緒だし、一応魔除けの香料つけてるし」

 酒場で食事が終わったあとに、香水のように手首に少しつけておいたのだ。

「香水でも使ってるのかと思ってたが、魔除け塗ってたのか。買ったのか?」

「雑貨屋のおじさんがくれた。これって効くのかな?」

「俺は使ったことがないからわからん。だが狼だから鼻っ柱に投げつければいけるかもな」

なるほど、鼻の効く魔物だから当たれば匂いがきつくて辛いかもしれない。

「水魔法に混ぜて使ってみようかな」

「それいいかもな、お前には魔法があるから工夫できるかもな。練習してるのか?」

 アビゲイルは左手をピストルの形にして人差し指の先から熱湯を飛ばした。最初は水鉄砲のようだったがすぐに高圧洗浄機のような水圧になった。

「おお! いいじゃないか。これにさっきの香料混ぜて飛ばせばいいかもしれんぞ。にしても熱湯だせるって便利だな」

「自分でもなんで出せるようになったのかよくわかんないんだけど、火魔法と関係あるのかも」

「薬缶みたいだな」


 トココ村には小さめだが湖がある。その北側を歩いてしばらく行くと西側の放牧地に出た。アビゲイルはこっちにくるのは初めてだった。

「ついでに巡回の道おぼえておけよ」

 今まで北の森側だけ探索魔法を使っていたが、南側に放牧地が広がったので、アビゲイルは自分を中心に円形をイメージして魔法を広げた。今のところもなにもないみたいとディクソンに言おうとしたら少し離れたところから犬の吠え声が聞こえた。

「いぬ?」

 狼か犬かわからなかったので聞いたが、ディクソンはその質問に答えずに走り出していた。

「行くぞ!」

 ブラックウルフが出たのかもしれない。慌ててアビゲイルも走り出した。犬の吠え声は鋭く何度も吠え続けている。走りながらディクソンが説明してくれた。

「牧羊犬は羊や牛を追う時めったに声を出さない! あれは何か別なものが近くにいるんだ!」

 警戒音か。初めての巡回で出くわすとは思ってもいなかった。鞄の中の香料の場所を思い出しつつ、ディクソンに遅れないようにアビゲイルは必死に走った。


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