食堂
案内された部屋は食堂みたいだった 大きなテーブルが中央にあり、窓際に流し台、おおきなテーブルを挟んでかまどがふたつ、どうやら薪で調理するもののようだオーブンもついている。
(生活環境は中世って感じね)
食器も木製と陶器とあるが、木製のほうが普段用のようでたくさん棚においてある。
(教会だからお客さんが多いみたい)
外を見るとまだ明るかった。時計がないのでわからないが多分午後3時くらいだろう。日が少し傾いていた。
窓の向こうには畑が見えた、手入れが行き届いていて、野菜は植えてそれほど経過していないのかまだ小さかった。
暖炉に火は焚かれていない、季節は春頃なのかもしれない。
「お茶でも入れよう」
神父が薬缶を手にすると、かわいい女の子が薬缶を受けとった。
「私がお茶をいれるわ、お父さんは座ってて」
「ありがとうエルマ、じゃあお願いするよ」
(あの子がエルマちゃんか、かわいいな~神父さんの娘さんか いくつくらいだろう? なんだかしっかりしてそう)
オスカーはアビゲイルがじっと見つめているのに気づいて紹介してくれた。
「この子はエルマ、私の娘だよ、そしてもう一人・・・あれどこいったかな?」
「そこに隠れてるよ」
ディクソンが顎で指した方向、扉の影にもうひとり女の子がいた。アビゲイルをじっと見つめている。
「そこにいたのか。こっちにきてふたりともアビゲイルさんに挨拶しなさい」
小さい女の子はアビゲイルから目を離さずに走ってエルマの後ろに隠れながらアビゲイルを凝視した。
「エルマです。はじめまして、この子は妹のカミラです。ほらカミラ」
エルマはカミラを前に押したが抵抗して後ろから動こうとはしなかった。かなりの人見知りのようだ。
「すまないね、カミラは恥ずかしがり屋で・・・・」
「なつくと今度はすげえ鬱陶しくなるけどな」
「もうカミラったら、挨拶くらいちゃんとしなさいよ!」
「うううーいーやー」
姉妹のやりとりはみていて微笑ましい、見ていて思わず笑顔になる。ディクソンもオスカーも二人を見つめる目は優しげだ。
(あーいいなあ姉妹、かわいいわー女の子欲しかったんだよねー。うちは男の子ばかり3人だったから騒々しかったもんね・・・・・)
「はじめましてアビゲイルです。お世話になります。よろしくおねがいします」
「こちらこそよろしくおねがいします」
エルマは挨拶もお茶をいれる仕草もそつなくしっかりしている、マグカップにお茶を丁寧に注ぎ棚から素朴なクッキーを出してテーブルの中央に「どうぞ」と置いてくれた。普段から家事をよくやっているのだろう。
「いただきます」
クッキーを食べてみる、手作りらしい。バターの塩気がちょっと強くて甘みは控えめだ。少しかたくて噛むとボリボリと音がなる。腹持ちの良さそうなクッキーだ。
「私が焼いたんですけど、お口に合いますか?」
恥ずかしげにエルマが聞いてきた。
「うん、お茶もクッキーもおいしいよ」
「良かった」
嬉しそうだ、ディクソンは「ちょっと固いがうまいぞ、携帯用にいいかもな」と変わった方向からほめている。エルマの料理をよく食べているのかもしれない。
ボリボリとクッキーを食べ続けながらディックが少し意地悪げにたずねてきた。
「さてアビゲイルさんよ、今日はここで世話になるとして明日からどうする?」
「えー・・・と。本当にどうしよう・・・・明日から」
のんびりお茶飲んでホッとしている場合じゃなかった。
「ま、そうだわな、わかるのは名前だけ。他のことは思い出せない、金もなにもない着の身着のままでできることは露頭に迷うだけだよな」
「何か仕事を探さないとですね」
「そうだな。自分のスキルは何か覚えているか?」
「スキル? スキルってあるんですか?」
「・・・・・・スキル自体覚えてないのか? スキルツリーは出せないのか?」
「出す?」
ディクソンは頭を抱えてのけぞった。
「まじか・・・・そこまでわかんねえか。それがわからないとどんな仕事に就けるかもわからん。よし明日冒険者ギルドに来い」
「冒険者ギルド」
「そうだ、冒険者ギルドの隣が役場だから、あんたのスキルツリーやレベルが確認できて身分証も登録できる、そしたら自分でツリー出すこともできるようになるはずだ」
「ほほーう」
アビゲイルの返事が間が抜けていて、ディクソンは思わず吹き出した。エルマやオスカーもつられて笑い出す。
「アビゲイルさんはどうやら魔物ではないらしいな、ディクソン」
「心配して損したぜ」
「はあ、どうも」
そう言ったらまた笑われた、とにかく魔物に疑われることはなくなったようで安心した。
「それじゃあそろそろ夕食の準備しますね、ディクソンさんも食べますよね」
「そうさせてもらおうかな、エルマの料理は久しぶりだな、前よりうまくなってるといいんだが」
「確かめてみてください」
エルマがご飯を作っているのか、お母さんはいないのかな?
「あ、よかったら私手伝うよ」
「料理できるのか?」
心配そうにディクソンが聞いてきた。
「多分・・・・・・」
アビゲイルは自信なさげにつぶやいた。