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皿洗いクエスト

 剣と鞘の代金22000ゼムを用意するため、今週もまめに働くぞとアビゲイルは気合を入れた。といっても今日は午前中は剣の打ち合わせだったので午後から仕事だ。ギルドの掲示板を見ると先日聞いた酒場のアルバイトが貼られていた。

(皿洗い・雑事など昼からでも可)

「昼からでもいいんだ、このクエスト」

「酒場の皿洗いクエストですか、そうです~。かなり忙しいみたいですよ?」

「じゃあお弁当食べたらすぐに行こうかな」

神父達には酒場のクエストに参加すると話しておいてある。朝のうちに野菜スープをたっぷり仕込んで置いたので彼等の夕食は問題ない。明日のために豆を水に浸してきたので、明日の分もだいじょうぶ。

「昼からだと2000ゼムになりますよ~」

「おお、いこういこう」

アビゲイルは急いでサンドイッチを食べて酒場に向かった。にしてもアルバイトみたいなものは本当に久しぶりなのだがうまくやれるだろうか? 


「こんにちはー。酒場のクエストにきましたー」

「いらっしゃ・・・あら、アビーさん昼からやってくれるのかい?」

配膳していたウルバが気づいて聞いてきた。

「今日は昼からできますので」

「助かったよ早速皿を洗ってくれるかい? あそれと今度からクエストのときは裏の厨房から入っておくれ」

「はい、わかりました」

 厨房に向かいアルとパトリックに挨拶してからすぐに流しに向かった、昼時で店は非常に混んでいて汚れた皿は山積みだ。とにかく洗うしか無い、流しから溢れて積んであった皿は油が乾きかけていて水では落としにくかった。普段なら新聞紙やスクレイパーで油を拭ってからお湯で残った油を流しつつ洗剤でザブザブ洗っていたのだが、ここでは水道は水しか出ないし洗剤は泡立ちの悪い食器用石鹸だけで、汚れを落とすのはなかなか大変だった。

(水を出しっぱなしにするのもなんだが申し訳ないな・・・・お湯があればなあ。水魔法でどうにかならないかな?)

 皿洗い作業は手を休めることなくひたすら洗い続けながら手から水が出るのをイメージしてみる、すると少しずつだがちょぼちょぼと水が溢れてきた。

「お、いいぞいいぞ」

水道の蛇口を少し閉めてこちらの水流を弱くして、魔法の水を使って皿を洗うことにしてみた。手からあふれる水は水道の水よりすこし温度が高いようでぬるかった。

(がんばればお湯もでるかなあ? とりあえず今は水が安定してでるように続けてみよう)

 割れないように気をつけながら皿を洗う、洗い終えた皿は流しの左側にある大きな水切り台に載せていくがアルとパトリックがどんどん持っていって貯まることがない。魔法は休み休み洗い物が落ち着いてきたときにだけ使っていった、最初は集中しないと難しかったのでそちらに気を取られて皿を割らないようにと用心したのだ。

ようやく汚れた皿がなくなりすべての食器を洗い終えた。昼の時間がすぎて店内が落ち着いてきたようだ。

「アビゲイルさん、おつかれさま。いったん休憩しよう」

パトリックが声をかけてくれて一休みとなった。

 厨房の真ん中にある大きな調理台でアルとウルバ、3人でお茶を飲んでいるとパトリックが茹で卵やパン、それに数種類のハム、マッシュポテト。それとこれから午後のお茶の時間に出すのか焼き立てのクッキーを出してくれた。

「今のうちに少し食べておいてくれ、これから夜の仕込みでそのまま夕方店を開けるから」

「食っておかないともたないぞ」

「ありがとう」

 クッキーはまだ熱く、バターの香ばしい香りが漂った。口に含むとほろほろと砕けて甘みもちょうどいい。パンにハムとマッシュポテトを挟んで食べようとしていたらアルが余ったマヨネーズを持ってきた。

「夕方また作るから食べきっちまおう」

「やった」

パトリックは嬉しそうだ、たっぷりとパンに塗りハムを挟んでかぶりついた。

「んーうまっ。マヨネーズ最高だわ、作るのは大変だけど」

「若い人には特に人気が出たね」

「そうなんですか、あ、茹で卵あるからたまごサンドできますね」

アビゲイルはボウルを借りてそこに殻をむいた茹で卵を数個入れてフォークでつぶし、マヨネーズ、塩コショウを加えて混ぜた。

「パトリック、これパンに挟んで食べるとおいしいよ」

「おおーいいですね、どれどれ・・・・・・うっま!」

パトリックは最初のたまごサンドを食べきってまた新たに作って食べ始めた。

「ポテトサラダと同じように作るんだな。日替わりでランチに出してみるか」

アルはパトリックの食べっぷりを見て、なにやら考えているようだ。

「それにしても卵の消費量すごくないですか?」

少し前から気にしていたことをアルたちに聞いてみた。

「ああ、前の倍は使ってるね、養鶏農家の人たちは卵が前より余らなくなったと喜んでいたよ。卵は生まれたらすぐに食べないといけないからね」

「食べきれずに捨てるのもったないですもんね」

「うちも余った卵はこうして茹でたり焼いたりして、食べちまうんだけどね。たまごサンドにして売っちまうのもいいね」

「パン屋にちょっとパンを増やしてもらうか」

自分が教えたマヨネーズで村が少しだけ活気づいているのがわかって嬉しい。アビゲイルもたまごサンドを作って食べだした。久しぶりの味でおいしい。

「そういえばさっき水道から水を出さずに皿洗ってなかったかい?」

 ウルバがアビゲイルの皿洗いの仕方が気になって聞いてきた。

「あ、水魔法の練習してたんです。手から水出してお皿洗ってたんですよ。お湯とか出せないかなと思って」

「へえ、お湯が使えれば洗うのも楽だね。でも魔法は使いすぎると倒れちまうから気をつけるんだよ」

「はい、まあちょっと余裕がでてきたときだけ使ってるので多分だいじょうぶです」

うんうんと頷きながら聞いていたアルも少し気遣ってくれた。

「夜のほうが忙しいから練習はなれるまで昼だけにしたほうがいいかもしれないぞ」

「わかりました、そうします。まず皿洗いに慣れないとですもんね」

アルは答えずうんうんと頷いた。

「夜に休憩するときはうちのメニューから好きなものを選んでいいからね」

「ホントですか、わー今から楽しみだなあ」

たまごサンドを食べながら夕飯を考えてわくわくしているアビゲイルを見てアルは笑った。

「あんたの食い気は見てて楽しいぜ」

久しぶりにアルが笑ったのをみてパトリックとウルバは驚いていたが、すぐにそうだそうだと同意して一緒に笑っていた。

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