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新たな名物

 アビゲイルは昨日に続いて本日も休みにした。うなじの火傷はもうだいぶよくなり水もしみなくなった。魔法のおかげなのか治りが早い。

「たぶん君も神魔法が使えるから少しは回復に影響してるのかもしれないね」

火傷の様子を確認しつつオスカーは答えた。

「影響するんですか?」

「怪我や病気は何もしていなくてもその場所が気になったりするだろう? なので無意識にそこに魔力が集まることもあるそうだよ。ま聞いた話だけどね」

そういうこともあるかもしれない、という程度の話だそうだがもしそうならいいことだ。今日も念の為包帯を巻くことにした。治療が終わってからアビゲイルはオスカーに借りていたお金を返した。

「これ、借りていたお金。ようやく貯まりましたのでお返しします。ありがとうございました」

「おや、どうもありがとう。だけどこれを返してまた無一文ということはないかね?」

「大丈夫です。まだ少し残りましたから」

「そうかね、ではありがたく」

オスカーは両手でお金を包み、祈った。

「そうだ、アビゲイルさん。よかったら今夜みんなで酒場に行かないか? 最近酒場の山菜メニューが大人気なんだそうだ。そろそろ山菜の季節も終わるし、どうだね」

「ぜひお願いします」

「よしでは念の為予約しておこう、役場に用事があるからついでに行ってくるよ」

「わかりました」


 昨日殆どの掃除洗濯を終わらせてしまったので、剣の練習を教会の中庭ですることにした。練習用の刃無し剣をうっかり持ち帰っていたのだ。昨日ケーキを渡したときに気づいたのだが、ディクソンは気にするなとあっけなかった。そのまま家でも練習すればいいと言われた。

数種類の構えを繰り返し確認して、剣を振りつづけた。動くたびに汗が散る。この時間中庭は教会の本堂のせいで半分くらい影になってしまっていたが、運動するにはちょうどよい涼しさで心地よかった。動きながら探索魔法を使うようにしていたが、教会には今アビゲイルしかいない。なので中庭の上を飛んでいく小鳥くらいしか気配を感じなかった。

(他の魔法の練習はどうしようか・・・・・神魔法もつよくなりたいしなあ。あせってもしょうがないんだけど、どの魔法を強くするかも決めないといけないかな)

これからどんな冒険者になっていきたいのかとぼんやり悩む。

(とりあえず、今一番強くなってる探索魔法と火、あとは神魔法だな・・・・・・)

 気づくと中庭がだいぶ明るい。昼になり陽が高くなったからだ。もうすぐエルマたちが帰ってくる。昼食の用意をしなくては。

自室に戻って汗を拭き、着替えて食堂に向かった。今日はなんにしようかな・・・・・。

「麺が食べたい」

 正直米も食べたい。それを言ったら醤油も舐めたい。アビゲイルは和食に飢えていた。だがこの世界ではまだ出会っていない。多分トココ村から出ていかないと出会えないだろう。醤油を探す旅をする冒険者・・・・・。

(私らしいな)

情けないが笑ってしまった。本日の夕食は外食なので、昼は控えめにあっさりしたものにしようとアビゲイルは腕まくりをした。


 夜、アビゲイルは神父達3人と酒場に出かけた。そろって外食に行くのは初めてだ、オスカーが予約をしているそうといういことだったが、予約しなくてもだいじょうぶではないかとアビゲイルは考えていた。が、そうではなかった。

「あれ、酒場の前に人が・・・・・・」

「席が開くのを待ってる人たちよ」

「え」

アビゲイルは驚いたがこの時期は当たり前の光景なのだそうだ。アルの山菜料理目当てに村じゅうから人が集まり、さらに遠くの町や村からも人がくるのでこの時期は行列ができるのだそうだ。

 神父が店に入り予約の確認をするとすぐに入って座ることが出来た。

「いらっしゃい神父様、みんな。今日はたっぷり食べておくれよ。新メニューもあるからね!」

メニュー表と水を持ってウルバがすぐにやってきた。オスカーはメニューを見てすぐに注文を初めた。

「子どもたちはぶどうジュースでいいかな? アビゲイルさんはどうする? とりあえず食事は新メニューのコルコギ草のマヨネーズ焼きと山ネギと豚肉のマヨ炒め。クレソンのサラダに・・・・・」

「山菜づくしですね、カミラたちは何か食べたいものある?」

もう1冊のメニュー表を見せながらアビゲイルは聞いた。

「りんごジャムのパイに鶏ひき肉のブイヨンスープ!」

「ハムチーズホットサンドが食べたいわ」

「みんなそんなに食べれるのかな・・・・・。私はワインのぶどうジュース割とコルコギ草のベーコンチーズホットサンドください」

「あいよ! たっぷり食べておくれ!」

頼んだものはほとんど新メニューだった。以前アビゲイルが教えたものや工夫されたものがあり、アルの料理センスの良さを物語っていた。

 店は満員御礼という感じで混み合っていた。休み無しに注文が飛び交い、席は空くこともなくひっきりなしにお客が訪れる。隣の席の夫婦は昼もきていたそうだ。

「すごい混み具合ですね、2人でだいじょうぶかな・・・・」

「だいじょうぶだよ、アルさんとウルバさん、それに2人の子供が5人いてみんなでこの店と宿屋を切り盛りしてる。宿屋はアルさんのご両親がやってるしね」

「へえ、そんなにお子さんいるんですか」

「そうよ、みなさんいい人よ。学校でも優しかったわ」

 数年前まではエルマの学校の先輩だったらしい。どんな人だったか聞こうとしたらもう注文した品々が届いた。

「はいよー、ジュースにビール、ぶどうジュース割ね!  山ネギ豚肉マヨ炒めとクレソンのサラダ、こっちはブイヨンスープね。あと今日のパンは丸パンだよ」

ドカドカとテーブルに並べられていく、みんななかなかボリュームがある。アビゲイルは念の為取り皿を注文した。

「あんたがアビゲイルさん? クリームシチューやマヨネーズを教えてくれありがとな! 今年は大繁盛だよ。俺はここの息子のパトリック。よろしくな」

「この人が私の先輩だった人よ」

 背が高くマッチョなのは父親ゆずりのようだ、声も表情も朗らかで好青年である。

「エルマお前ロイドをフッたんだって?」

「なっ!」

エルマが驚き、一瞬で顔が真っ赤になった。

「このあいだ遅くにロイドが来て俺に話してくれたんだ、すげえ落ち込んでたぞ。まあアイツに問題があるけどな。好きだからって好きな女いじめてたやつが好かれるわけねえもんな」

「ちょっパトリックさん、ここで今その話止めて!」

オスカーもアビゲイルも興味津々だが、確かに聞きづらくはある。ロイドはいじめっこだったらしいが、それは確かにモテないだろう。いろいろ残念なやつだなとアビゲイルは思った。

「おっと悪い、まあゆっくりしてけよな」

顔を真赤にしたままエルマはサラダをもりもりと食べだした。かわいい。

 様々な山菜料理にオスカーは喜んでいた。

「この、コルコギ草のマヨネーズ焼きおいしいなあ。たまらないね。豚肉にもよく合ってる」

「ほんとですね、おいしい。でも明日匂い大丈夫かな・・・・・」

アビゲイルが心配していると今度はウルバが来てホットサンドやパイをテーブルにどんどん並べだした。

「明日温めた牛乳を飲むといいよ。ちょっとは収まるよ。アビーさん、ほんとありがとね。思っていた以上に人気だよ。町から来た人で延泊する人もいるくらいさ。そのぶん村にもお金が落ちるから、みんな感謝してるよ。うちらはマヨネーズの作りすぎで手首が痛いがね。嬉しい悲鳴さ」

「良かったです、でも大変なことになっちゃいましたね。手首大丈夫です?」

「平気だよ、そうだ! 忙しいからあと10日くらい山菜が終わるまで夜に誰か雇おうって話が出てるんだけど、アビーさんどうだい?」

「えっ」

 言われて正直迷う、昼は冒険者ギルドでクエストをこなし、夜はここで皿洗いでもさせてくれたら剣を買うお金が貯まるのではないかと。しかし体がもつだろうか不安だった。

「駄目な日はいいんだよ、あんたはまず冒険者の仕事をしないといけないからね。日雇いでできるだけでもいいんだよ。皿を洗ってくれるだけでもだいぶありがたいんだ」

「アビゲイルさん だいじょうぶ?」

エルマ達はちょっと心配してくれてるようだ、そんなに思ってくれるくらいに働いているだろうか? でも心配してくれるのは正直嬉しい。

「ほんとにしんどくなったら休むかとは思うんですけど、そんなゆるい感じでいいですか?」

「構わないよ! ギルドを通じて依頼するからね。やりたいときにでいいよ」

「じゃあ、よろしくお願いします」

「良かったよ、よろしくね!」

 そのあとすぐにウルバは厨房に戻っていった。アビゲイルは来週も働くぞと気合をいれつつホットサンドにかぶりついた。とオスカーとエルマが見ている。

「え? どうかした?」

「いや・・・真面目なのはいいが働きすぎじゃないかね?」

「そうよ、もうすこしのんびりしてもいいくらいだわ。体壊しちゃうわよ」

「そう?」

 アビゲイル自身は働きすぎという感覚はない。正直前の世界で主婦をやっているほうがしんどかった。年齢もあるかもしれない、若返ったアビゲイルにはこのくらいたいしたことはなかった。

仕事でいえば前の世界と違うのはこちらの世界の方が命に関わる危険が多いというくらいだった。

「スライムに脳みそ溶かされるわけじゃないから、だいじょうぶだいじょうぶ、あははは」

笑いながらホットサンドをかじるアビゲイルを見てオスカーとエルマもつられて笑うしかなかった。

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