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山菜とゴブリン

 山菜護衛クエスト初日、言われた通りに少し早めにギルドに向かった。すでに参加者も数人集まっており、その中には酒場の主人アルもいて、ディクソンと何か話していた。そばには涼しげな緑の目が印象的な女性がいた。

「おはようございます、ごめんね遅かったかな?」

「いや大丈夫だ、おはようさん。改めて紹介しておくぞ、予備冒険者のアルと猟師のセツだ」

「はじめまして、セツです」

アルはいつもどおり会釈だけだった。

「アルさんて、昨日の様子でかなり強い人なんだなと思ってましたけど、予備冒険者だったんですね」

「料理人じゃなかったらすぐにAかBランクになってるだろうな。」

それを聞いた途端にアルはぶんぶんと左右に首を振った。冒険者にはなりたくないらしい。確かに先日のブイヨンへの好奇心を見ると料理のほうがいいのだろう。

 セツはそんなやりとりを表情を変えずに眺めている。おとなしい子のようだ。エルマよりは年上に見える。

「セツには毎年山菜を収穫する場所を確認、案内してもらってる。こいつは探知魔法が使えるから獣や魔物の位置がわかるんだ」

「へえ、すごい」

「お前も探索魔法が使えるだろ、今日はお前も探索してくれ。練習にもなるし、警護も厚くなる」

「かしこまりました」


 参加者が揃ってから、北の森に向かう。みんな大小のカゴを持ったり担いだりして、じじばば達はこれから山菜を採りに行くのが本当に楽しみでしょうがないという感じだ。

「こうして初日に山菜刈りに行ける日がくるなんてね」

「ほんとだよ、今年はキレイな新芽が採れそうだね、いっぱいあるといいんだけども」

「毎年初日に荒らされるから、ほんといやだったよ」

昨日の抽選会でディクソンとアルに怒られた連中は、山菜狩りのマナーも良くなかったようだ。

「昨日のディクソンはいい男だったね~。私が若かったらほっとかなかったよ」

「ほんとだよ~。わひゃひゃひゃひゃひゃ!」

入れ歯が飛んでいきそうな勢いで大爆笑している。入れ歯なんてこの世界にはまだ無いだろうが。一番前のディクソンは聞こえないふりをしているように見えたが、耳が赤い。

 狩人のセツもディクソンと一緒に一番前を進んでいる。挨拶から一言も話さず、森の変化や気配に集中しているようだ。アビゲイルとアルは列の一番後ろ、殿だがその横を大きな黒犬も一緒に歩いていた。

この犬はセツの猟犬だ、前に走っていったり、茂みに入ったり出てきたり、森にいるのが嬉しいのかよく動く。森に入るのが初めてのアビゲイルは少し怖がっていたが、それを察したのか犬はうろうろしてはアビゲイルのとこに戻ってくる。

「セツさんのとこにいかないの?」

犬に聞いてみたが、一度鼻とフンと鳴らしてそのままだった。

 ディクソンとアルは松明を持っていた。スライム対策である、しかし森のスライムはぴょんぴょん跳ねるグミスライムではなくジェルスライムといってドロドロした液体だ。普段は森の木の上や、石の隙間などにいて、標的を見つけると木の上から落ちてきたり、粘る糸を出して獲物を捕まえる。

このスライムはグミスライムより強い酸性の体液を使うので、体液を浴びると大やけどを負う。だが火に弱く、近づけるだけで逃げ出すので松明は必須なのだそうだ。探知や探索の魔法、もしくは火の魔法が使えたなら松明は必要ないそうだが、火が使えるアビゲイルは新米。そして人数が多いのでさらに用心してるのだった。

 護衛している冒険者は、周囲に気を配り、緊張しているようだが、参加している村人たちは緊張することもなく、のどかにみんなで歌を歌ったりしている。温度差が激しい。

「のどかだなあ」

「歌っている方がいい、獣は近づかなくなる」

アビゲイルのつぶやきにアルが答えた。なるほど、熊よけの歌なのかと知る。

「人数が多いとわかればゴブリンも来ない」

人が多いとわかれば返り討ちに合うとゴブリンも用心するらしい。よくできている。


 森の中は湿った空気が濃くて涼しくて気持ちいい。陽の光が木々の隙間をぬって地面にあたっていてきれいだ。何年もこうして山菜狩りに来た人々が歩いて出来た道以外は、森はまったく人の手は入っていないように見える。

「よしついたぞ」

山菜が生えている場所は川のそばの草むらだった。古い切り株がいくつかあったので、山菜が採りやすいように木を伐採したようだ。

 参加者はついた途端にリュックやカバンをおろして一箇所にまとめ、カゴをかついですぐに山菜を採り始めた。

アビゲイルはどれが山菜なのかよくわからなかったが、みんなの様子を見ていてどうやらここには2種類の山菜が生えているようだった。アルはせっせと山菜を集めている人を見てなんだかそわそわしている。

「アルさん、もし山菜を集めたいのだったらその松明持ってますよ?」

「いや、だいじょうぶだ。採るよりも早く山菜料理が作りたいんだ」

そわそわしていたのは料理人としてのようだ、本当に料理が好きなのだなとアビゲイルは思った。

「どんな料理作るんですか?」

アルはその場にかかんで葉先がくるっと巻かれている草を1本もいだ。見た目はコゴミのようだが、コゴミより太く、大きかった。

「これはコルコギ草だ、茹でて灰汁を抜いてサラダや炒めものに使う、香りのいい山菜だ。そしてこっちは山ネギ、こっちは肉と一緒に炒めると美味い、スープにしてもいい。精もつく」

背の低いニラのような山ネギはもいだ瞬間ににんにくに似た強い香りが漂った。

「すごい匂いですね。食べたら次の日大変そう。このコルコギ草マヨネーズで食べたら美味しいかも、粒胡椒とか効かせて・・・・」

「そのマヨネーズってのはなんだ?」

「卵と酢で作るソースです。サラダとかで使うんですけど・・・・よかったらこのあと教えましょうか?」

「ぜひ頼む」

 マヨネーズの作り方を簡単に話そうとしたら背後から嫌な予感がした。振り向くと5つくらい何かいる、そのすべてに笑われているように感じた。

「そっちに何かいる」

アルが背中に背負っていた斧をすばやく抜いて構えた。

 セツ達はアルが身構えたことにすぐに気づいた。ディクソンが駆け寄ってくる。

「何がいる?」

「わからないでも5つくらいそっちで嫌な感じがして・・・・」

「ゴブリンがいる、5匹」

セツが言うとすぐに弓を構えた、と同時に犬の吠え声が響いた。少し離れた場所の藪でギャアギャアとゴブリンが騒ぎ出した。姿をしばらく見てなかったがセツの猟犬がゴブリンに向かっていったようだ。

 あわててアビゲイルも剣を構えたが、何をどうしたらいいのかわからない。オロオロしていると藪からゴブリンが飛び出してきた。

「うわあ!」

驚いて剣を思い切り横に振った、ゴブリンの顎に見事に入りゴリっと砕ける音がした。横に吹っ飛んだゴブリンをディクソンが受け止めるように胴を薙ぎ払った。

 アルは松明と斧をたくみにつかって距離をとり、あっという間に2匹倒していた。予備冒険者とは思えない動きだった。みとれているうちにディクソンとセツで他のゴブリンも倒されていた。他の参加者はゴブリンが居ると聞いた途端に反対側に集まり固まっていた。動きに無駄がなく、本当にこういうことに慣れているようだ。

「ひえ、びびった・・・・」

「最初の振り、良かったぞ。にしても結構広い範囲で探索できてるんだな」

「そ、そうなのかな? でもセツさんがいる方は遠すぎてわからないから、偶然だね・・・・」

「ゴブリンの右耳を切って集めておけ、ギルドへ持っていくと報酬がでる」

「ううぅ、きもちわるい」

「がんばれ、1匹300ゼムもらえるぞ」

この散らばったゴブリンの死体はすべて金だ、金なんだと自分に言い聞かせながらアビゲイルは耳を集めた。そのままカバンに入れるのは嫌だったので、近くの大きな葉を集めて包んだ。

「血のついた手で目をこすったりするなよ」

「はぁい」

 他の3人からすればたった5匹のゴブリンを倒しただけだったが、アビゲイルはもうへとへとになっていた。

「おい、アビーだいじょうぶか? あと4日あるぞ」

「が、がんばります・・・・」

ディクソンが心配になったのか声をかけてくれた。アビゲイルは力なく返事をしたが、あと4日参加するのが決まっているのかと呆れた。

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