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クエスト受付2

受付だけで2話になってしまいました。

 昼、2階の教室に3人集まりナナに集計してもらいつつ、ディクソンとアビゲイルは抽選箱を作っていた。昼食は買いに行けないので酒場に出前を頼むことにした。

「今の所うまくいってるな、抽選もこの調子だとだいじょうぶそうだ」

「マスター油断は禁物です~」

「にしても初日の受付からこんな騒ぎだなんて・・・・明日からのクエストどうなるの?」

「ゴブリンや狼が出てきて、そりゃもう大騒ぎさ」

アビゲイルはそれは大変だなとディクソンを同情の目で見た。

「冗談だ。そんな目で見るな、お前も行くんだぞ」

「え!?」

「俺一人で25人も守れるかよ、お前も行くんだ、もちろん参加者に予備冒険者もいるから安心しろ。お前より他の参加者みんな慣れてる」

「剣持ってない・・・・」

「訓練で使った刃無しの剣があるだろ、木よりあれで殴ったほうがいい。明日あれ持ってけ」

「ええー・・・・・」

かっこ悪いなと思いつつ、弱い自分に反省する。自分の剣をまだ持っていないのだ、仕方ない。

「そういえばロイドは? 手伝ってくれないの?」

「あいつ昨日手伝えって言ったら、しばらく何もしたくないとか言いやがって」

アビゲイルは先日のエルマとロイドのやりとりを思い出した。

「ロイド君は無理です~。エルマちゃんにフラれたそうです~」

「えっ!」

もう広まっているの? 驚いていたらナナが続けた。

「一昨日広場でアビーさん達がいたとこでフラれたって、酒場で昨日誰か言ってたそうです~」

「そうか・・・・じゃ無理だな」

「広まるの早すぎない・・・・・?」

みんなロイドに同情したのか、しばらく何も話さなかった。


「お疲れ様! 出前を持ってきたよ!」

 ウルバが出前を持って教室に入ってきた。皿の上の布巾をよけるとカリカリに焼いた鶏肉にチーズ、クレソンやルッコラをを挟んだ大きなサンドイッチがあった。あまりにボリュームにみんな驚いた。

「こんな豪華なの頼んでないぞウルバ」

「いいんだよ! 今日は受付のルールが変わってみんな喜んでるよ。うちのアルも喜んでね、これは応援の意味もこもってるらしいよ」

言いながらウルバはみんなにコーヒーを注いでいった。アビゲイルにとっては久しぶりのコーヒーでそれだけで嬉しかった。

サンドイッチも噛むとスパイスの効いた鶏の肉汁がじゅわっと溢れてきて、パンにぬったマスタードとバターと相まって最高だった。

「うまーすんごいおいしい・・・・・」

「がんばったかいがあります~」

3人ともサンドイッチを口いっぱいに頬張り

「うまかった、ありがとなウルバさん」

「いいんだよ。午後の抽選もうまくいくといいね、皿はあとで取りに来るよ」

 肉を食べたせいか3人とも元気を取り戻し、抽選の準備を急いだ。


 午後2時抽選会が始まった。集計結果を見るとやはり各山菜が採れるエリアの初日は人が集まった。抽選は人数の多いグループ、少数グループ、個人と分けて枠数を決めて各グループごとに抽選クジを引いてもらった。すると一番人気の日に参加したくても出来なかった女性陣のグループや、今まで初日を避けてきた老夫婦などに当選者が出て抽選会場はおおいに盛り上がった。

「抽選はこれで終了だ! 明日明後日参加する人はこのあとすぐに掲示板に貼っておくから再度確認してくれ、それ以降は明日貼っておくからな、人数が空いているところは後日申し込み出来る、これは早いもの勝ちだぞ! 以上」

参加した人々から拍手が湧いて無事に終わったかに見えたが、そうではない者もいた。今まで力ずくで奪ってきた連中だ、血の気の余った若者達やまだやれると勘違いしたじじい達は運が悪く、ことごとく初日を逃した。

「日頃の行いだよ!」

「そうだ今までのツケさね!」

当選して気分がいい女性陣にからかわれたのが彼らの怒りに火を点けた。男たちが賛成していた女性を突き飛ばしてしまった。

「うるせえ! 何が抽選だ! 納得いかねえぞ! 今まで早いもの勝ちでうまくいってたじゃねえか! なんで受付日に急にルールが変わるんだよ! ディクソン、卑怯だぜ!」

「そうだそうだ! やり直しを要求する! なんなら俺ら全員あんたの相手するぜ!」

若い連中が文句を言い出した途端にブーイングが起こった。抽選に賛成した人々から文句が出たが、数回怒鳴られてしまい怖くて何も言えなくなってしまっていた。

「これはやばいのでは」

カウンターに押し寄せる怒った人々を見てアビゲイルはあせった。ディクソンは突き飛ばされた女性を起こし、怪我がないか確認してる。なんだか静かだ。

「ディクソン! なんか言ったらどうだ、相手しろ!」

「俺たちでめちゃくちゃにしてやるぜ!」

文句を言うのは20人位だが、みんなで騒いで強気になって大声で怒鳴り始めた。とにかく大騒ぎできる理由はなんでもいいようだ。

「ちょっとまって! いくら人数が多いからってディクソンに誰もかなうわけ無いじゃん! 冒険者ギルドのマスターなんだよ?」

アビゲイルも必死に止めるが全く効果がない。

「うるせえ! だったらお前が相手しろ! 新米冒険者さんよ!」

怒りの矛先がアビゲイルに向いた、瞬間。

 ドガァアンッ!!

 ものすごい衝撃音がギルドに響いた。見ると酒場主人のアルがテーブルを拳で撃ち抜いていた。テーブルはそのままゆっくりと倒れ、粉々になってしまった。

「うるせえぞ・・・」

あまり大きい声ではなかったが、その低い声はギルドにいた全員に聞こえた。

「お前ら、毎年大暴れしやがって。いい加減にしやがれ・・・・・アビゲイルの前に俺が相手になってやる、かかってこい」

「アル! その前に俺だ! 女にまでくだらねえ喧嘩売りやがって! 並べ! 山菜の肥料にしてやる!」

 ディクソンも本気で怒り出し、剣を抜いて木の床に突き立てた。2人の怒りぶりは半端ではない、怒気が伝わってきて自分に向けらた怒りではないのに背筋が震える。騒いでいた男たちはみんな静かになった。ディクソンとアルが本気で怒るとは思っていなかったらしい。悪ふざけもいいところだ。

「やるのか! やらねえのか!」

さらにディクソンが凄んだが、誰も何も言わなくなった。言えなくなったというべきか。

「文句がねえなら帰れ! バカ野郎どもが!」

 騒いでいた連中は本気で怒られてしまい、叱られた子供のように小さくなりながらギルドから出ていった。突き飛ばされた女性も怪我はなく、無事だった。

「お、終わった?」

「終わりだ」

 こうして山菜クエストの抽選会は終わった。ナナとアビゲイルは終わりと聞いた途端力が抜けてそのまま座り込んだ。

「「はああ~良かった~」」

ほっとしすぎて2人でハモってしまうぐらいだった。

 ギルドにいた他の人々も去り、後片付けを3人でしているとそこにアルがやってきた。

「夕飯、店に食いに来い。俺のおごりだ」

そう言うとすぐに酒場に戻っていった。


 アビゲイルは一度教会に戻り、夕食に誘われたことをいうと神父達は喜んで送り出してくれた。酒場に行くとディクソンとナナはもうナッツをつまみに飲み始めていた。驚いたことにさっきまでギルドで騒いでいた連中も他のテーブルで飲んでいた。

「おう、来たな。先にやってるぞ何飲む?」

ワインをぶどうジュースで割ったものを頼んだ、アビゲイルは前の世界ではあまり酒が強くなかったからだ。飲み物とともにウルバが料理も運んできた。ライ麦パンにチーズが数種類、豚肉の炭火焼きにはボイルした根菜類。そして葉野菜のサラダ。

 乾杯したあとにエールの泡を口につけたままディクソンが話しだした。

「いやあ、今日は久しぶりにキレたな。この村に来てはじめてかもしれん」

「それはないと思います~。マスター何度かキレてますよ。それよりアルさんが怒ってるの初めてみました~」

「俺もだ、なかなか怖かったな。まあそのおかげであいつらも静かになってよかったぜ」

ディクソンは少し離れたテーブルにいる連中を見ながら言った。騒いでた人たちはしょんぼりしていた。

「それにしても、あんなに怒られたあとによくここに来てるよね」

「たぶんアルが誘ったんだろ?」

「へえ、アルさんいい人だね」

「そんなことないよ、怒った自分が恥ずかしくてみんなに気を使ってるのさ。いつもはよく食べて飲んでくれる気のいい連中だからね」

エールのおかわりを運んできたウルバが言った。続いてアルもまた料理を運んできた。クリームシチューだった、上にはチーズがとろりとのっている。

「ディクソンもアルさんも、今日は助けてくれてどうもありがとう」

「いいんだよ、気にするな。その分明日頑張ってくれよ」

「明日はいつもどおり行けばいいの?」

少し考えたあとディクソンは答えた。

「ちょっと早く来てくれるといいかな、明日からのクエストを手伝ってくれる予備冒険者たちを紹介する。少しだけ荷造りもあるから手伝ってくれ」

「わかった」

 明日は一体どうなってしまうんだろうか? 不安を覚えつつアビゲイルは熱々のクリームシチューにライ麦パンを浸した。

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