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クエスト受付

 昨日焼いたパンを弁当にし、アビゲイルは冒険者ギルドに向かった。

「ん? なんだ?」

ギルドに入ると、なんだか今までと空気が違う。いつもは日の当たる席でぼんやりしてるじじばば達がいきいきとしていて、今までいなかった若い人たちもおり、何かを真剣に話し合っている。いつもより人も多い。

「おう、アビー。来たな」

「おはよう、何この盛り上がり」

「お前は初めてだな、山菜クエストだ」

 山菜クエストはトココ村伝統のクエストだ。簡単に言うと山菜狩りの護衛クエストである。

「護衛? 何から守るの?」

「結構いるぞ、狼に熊、時々鹿の群れに遭遇して興奮した牡鹿に襲われたりとかな。だが一番注意しなきゃならんのはゴブリンだ」

「ゴブリン」

アビゲイルは無意識につぶやいた。

「そうだ、山菜とキノコはゴブリンの好物だ。この時期あいつらも集団で山菜狩りをしている。そしてゴブリンにとっては人間も食べ物で好物なんだ」

「え、ゴブリンて人食べるの?」

「食べる。特に女、子供が狙われやすい。その次に老人だ」

 知らなかった、というかゴブリンにも生態系があって何を食べているとか普段どんな生活をしているかなんて考えもしなかった。

ディックの話によるトココ村の周辺には少なくとも2つのゴブリンの巣があるという、北の森と川を挟んだ東の森だという。ゴブリンは集団ごとに縄張りを持っていて時々ゴブリン同士で争うこともあるらしい。

山菜がよく生えている場所はその森の中と川沿いだというから、会わないほうがおかしいのだそうだ。

「なのでこうして春先の何日かはギルド主催の山菜狩りが行われるのさ、一人でいくより安全だし、採った山菜はその日の参加者で山分け。じじばばにとっての楽しいイベントだ」

「予備冒険者でも一人で行くのは危険なの?」

「この村のルールで、山菜狩りなどに行くときは単独行動は禁止している。なぜかというと狼やゴブリンは4、5匹の群れで行動していて囲まれたら終わりだ。あいつらは想像以上にかしこく小狡い、「ゴブリンを笑うやつは死に向かって走ってる」と言われたりする」

なので村のルールで最低2人で行動するようにはるか昔から決まっているのだそうだ。予備冒険者であろうとむやみに森に入るなと言われていて、みんなそれをちゃんと守っている。

薬草採集が町の中や周辺に限られていたり、山菜狩りもむやみやたらといかないのは「近所の他の住民」が恐ろしいからなのである。

「なるほどねえ・・・・」

「で、今日はその予約受付の初日なんだ」

「まだ予約の段階なの?」

「そうだ・・・・・・・」

急にディクソンがしおれてきた、これからはじまる予約受付に心底うんざりしているようだ。今日は他のクエストも無さそうなのでこのまま受付の手伝いをすることにした。ディクソンとナナにめちゃくちゃに感謝された。

(どんだけすごいの・・・・・・)


 山菜は種類によって生えている場所が異なる。そして山菜狩りクエストは一日ごとに行く場所が異なり、人数制限もある。なので一番人気のある山菜を採りに行ける日、その初日が壮絶な奪い合いになるのである。

「どうやってその日の参加者決めてるの?」

壮絶な奪い合いと聞いてどうしてそうなるのかが疑問だ。

「早いもの勝ちです~。なので順番がどうとかすごくもめるんです~。人気のある日は力のある人達が腕力でカウンターに並び出すんですがそこでまず戦争です~毎年怪我人が出ます」

「ええ・・・・・すごいな。でも整理券も抽選もないの?」

「抽選はやろうとしたが、何度か失敗してる。何かいい方法があるのか」

「とはいっても準備がなんにも・・・・これから受付なんでしょ?」

「まあな・・・・・やるか」

「ちょっとまって、あと1日くらい延期できる?」

ため息を吐きながら立ち上がろうとしたディクソンを止めた。

「駄目だ1日延期しただけでも、抗議でこのギルドが燃やされる」

山菜狩りに行く前に怪我人が出ている時点でこのクエストは失敗のような気もするがこれも山菜クエストイベントの醍醐味なのだろうか? とにかく怪我と喧嘩はよくない。行きたくてもいけない人もいるだろう。やはりある程度平等でなくては。

「うまくいくかは自信がないけど、まず詳しい人数を確認しよう。グループ参加は?」

「可能だ」

「まず受付を3つに分けよう。ディクソンは3人以上のグループ、ナナか私で3人以下と一人の希望で」

「私が3人以下やります~」

「よし、最初に希望だけ聞いてそこから抽選にしよう。例えば一日25人の参加なら、1人を5組、3人以内を4~5組、それ以上を2~3組って感じで・・・どう?」

 早いもの勝ちをまず怪我人が出たことを理由にして禁止にし、希望日を全員から平等に確認して、さらに希望人数がオーバーした日のみ3つに分けたグループのなかで各々抽選という形にしたのだ。

「抽選は午後からにしよう、抽選箱を作らないといけないしな。ダメ元でやってみよう。説明はオレがやる、アビゲイル何かあったらフォローしてくれ」

「わかった」


 ディクソンはカウンターの上に立ち上がった。同時に周囲の参加希望者達が色めき立つ、ディクソンの合図とともにカウンターに突っ込もうと気合を入れ始めた、と同時に女性陣や一人で参加するであろう人々はカンターから離れ始めた。やはり平等にこのイベントに参加出来ていないようだ。それを見てアビゲイルはちょっと苛立った。

「聞いてくれ! 今回から山菜狩りクエストの参加受付ルールを変える! 早いもの勝ちは禁止とする! 早く並んでも無駄だ!」

ギルドはどよめいた。突然前触れもなく言われて拍子抜けするものもいれば、文句や罵声を飛ばしくてくる者もいた。この村は穏やかな人ばかりだとアビゲイルは思っていたが違った。そりゃそうだ。今まで会わなかっただけだった。

「禁止の原因は参加したい日に参加出来ないものが多く、人気のある日に同じ奴等が毎年いて平等ではないということ! さらにただの参加受付なのに怪我人が多く強い者しか美味い山菜が食えないということにかなりの苦情が出ているからだ!」

「ほんと?」

「無いこともないですけど少ないです~。みんな諦め気味だったので」

なるほどと納得していたら参加希望の女性たちから同意の声が上がった。

「そうだそうだー!」

それを聞いてアビゲイルはカウンターの下で思い切り拍手した。ナナも気づいて続いた。すると今までの受付方法に不満が溜まっていた人々からも拍手が湧いた。かなりの人数だ。ディクソンもすかさず畳み掛ける。

「見ろ! これだけ拍手があるってことはそれだけみんな不満だってことだ! これを聞いても誰かの恨みを買いながら山菜がまだ食いたいか?」

「いいぞいいぞー!」

 拍手と歓声がさらに大きくなる。ディクソンの声は張りがあってよく響く。なにより地声がでかい。抗議の声も声量でねじ伏せている。いい秘書がいれば政治家になれるんじゃないかとアビゲイルは思った。

「今後は抽選とする! まずは参加人数の確認を行うので受付を3つ用意した! グループで3人以上の場合は俺! 3人以下はナナ! 一人の参加はアビゲイルが受け付ける! もう一度言うが早くても意味はないからな! これ以上文句があるやつは俺を殺してからにしろ! 始めるぞ!」

 ディクソンの圧力が効いたのか、受付は案外スムーズに進んだ。平等に参加できるとわかり、初日や人気の山菜が多く採れる場所の日をみんな遠慮なく書いていく。

「よし、受付希望者はもういないか? 人数を集計して定員を超えた日のみ抽選するぞ! 発表と抽選は午後2時からとする!」

 受付を終えた人々は家に一度戻ったり、いつものようにギルドで弁当を広げ始めた。急にいつもののどかなギルドに戻っていった。

 村人たちの本当の顔を見たようで、アビゲイルは驚きつつも感心していた。


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