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村内クエスト

 教会のかまどはなかなか大きい煮炊き出来るところが2つ、一つの場所に大きい鍋が2個は置ける。オーブンも2つある。おそらく大きな集会や外からお客が来たときなどに対応できるようになっているんだろう。

そのうちの一つ普段使いのかまどの前で、アビゲイルは魔法でお湯を沸かそうとしていた。

 一昨日の晩に指先に火を灯す魔法が出来るようになっていたアビゲイルは、コンロの火をイメージすればお湯くらい沸かせるのではと思ったのだ。だがなかなか難しい。前の世界で使っていたコンロの丸い火をイメージするのだが、火がすぐに消えてしまったり、どんどん弱まってしまう。一定の大きさで長時間火を灯すことが出来ない。

「まだ早いのかなあ・・・」

もう少し魔力を練る練習をしたほうがいいようだ。魔法を使わずに朝食の準備をした。匂いにつられるように神父達が食堂に集まってきた。

 朝食を食べながらオスカー神父に質問してみた。

「魔力の練り方で何かいい練習方法ってありますかね」

「一番いいのは呼吸法かな? 下腹部に意識を集中しながらゆっくり深呼吸する、リラックスしてね。何かしているときでも全身に魔力が巡っているイメージを持つといい。そして魔法を使っていくのも大事だ。さっきかまどの前で火魔法を使おうとしていただろう?」

見られていたのか。ちょっと恥ずかしいな。

「料理に使えたらと思って」

照れながらアビゲイルは答えた。

「面白い練習法だな。君らしいかもしれない。料理は火と水を使うからいい練習になるかもしれないね、だが食堂を壊さない程度にしておくれ」

「はい、気をつけます」

「そういえば探索魔法が使えたはずだね、あれは歩きながら魔力を練るのにいい練習になるかもしれない」

 探索魔法は周囲の建物や生命を感知するための魔法だ。魔力によって探知範囲が広がり、この魔法が鍛えられると、探知魔法という敵や罠、隠し扉、宝箱を発見するものや、地図製作魔法などに上位変換されていく。

「この魔法はさっき言った呼吸法に合わせて自分の周りを意識することで魔力が拡散して周囲を探知できるようになる魔法だ。自分の背後だけ見たり、前後左右をまんべんなく見たりとコントロールできる。魔力を練ってイメージするにはいい練習になると思うよ」

「わかりました、早速試してみます」


 冒険者ギルドに向かうまで、言われたように魔力の流れをイメージしながら歩く。気のせいかもしれないが、指や足先がじんわりと暖かくなってきたような気がする。これを続けていけばどうにかなるだろうか?

ギルドについて挨拶しつつ掲示板を眺める。昨日見た掃除のクエストが残っていた。まずはギルドの掃除から受けようか。

 掃除は2階の応接室と教室を頼まれた。教室は以前アビゲイルが冒険者ギルドに来たときにディクソンとナナの3人で話した場所だ。初心者向けに座学を行う所らしいが、ほとんど使われていない。ホコリも窓の汚れもかなり溜まっていた。

「やりがいがあるぜ・・・・・!」

口元をタオルで覆って気合を入れた。アビゲイルは掃除も好きだ。汚れた息子の部屋を掃除するのが楽しかった。無造作に置かれた息子たちのお宝をベッドや学習机の上に並べるという嫌がらせもちょっとやっていた。嫌がらせが効いたのか息子たち自身である程度掃除をするようになってしまって残念だった思い出がある。

 まずは窓をすべて全開にして教室のテーブルや椅子をディクソンに頼んで一緒に運んでもらい、積まれていた剣や本をすべて廊下に移動させてから天井のホコリをホウキで落としていく。アビゲイルは身長が高いので問題ない。

上から順にはたきやホウキを使ってホコリをどんどん落としていく、最後に床を掃いてゴミを集めてから。今度は水拭き。床もモップでこすり、窓もきれいに磨いて、汚れを落とした机や椅子などを教室に戻した。

 そして掃除の合間もずっと魔力を意識して練り、時々休みつつ探索魔法の練習をした。ギルドの2階を掃除していると足元に人の気配を感じるようになってきた。1階にいる人を探知しているようだ。

(どこにいるかがだいたいわかるな・・・・誰かはわかんないけど)

「よし、こんなもんか・・・・」

 応接室も同様に掃除をした、こちらにはあまり荷物もなく教室よりも小さい部屋だったので、すぐに終わってしまった。教室同様、応接室のソファなどを運ぶのを手伝ってくれたディクソンがきれいになった部屋を見て喜んだ。

「あーすっきりしたぜ、空気もきれいになったみたいだ。ありがとよ。報酬はナナから受け取ってくれ」

昼前には終わったのだが報酬は1200ゼムとまあまあだ、もう一つの広場の掃除も午後にやろうと思い、受けることにした。

「ありがとうございます~。報酬は午後のクエストとまとめます?」

ナナに聞かれてそうすることにした。


 昼食はいつもどおりギルドで食べていたら、酒場で昼食を食べてきたディクソンが戻ってきた。

「今日の酒場の昼飯、新メニューが出てたぞ。クリームシチューっていう牛乳を使ったやつ。あれアビゲイルが教えたんだって?」

「そうだよ、もう今日から作ってるんだね」

「うまかったぞ、上にチーズを載せるとまた美味かったなあ。2杯も食っちまった」

 さすが料理人、もう工夫している。評判もいいようでアビゲイルもホッとした。

(今度酒場に食べに行ってみたいな)


 午後も探索魔法を使いつつ広場の清掃をした、こちらは草むしりとゴミ拾いくらいなのでギルドの掃除より早く終わりそうだ。噴水周りの草をむしり集めていると後ろから何かが近づいてきてるのがわかった。探知魔法の効果だ、ゆっくりこっそり近づいてきている反応が小さいので子供のようだ。

(カミラだ)

背中を向けていても誰なのかわかった、どうやら驚かせようとしているらしい。少し離れたところに立っている人はたぶんエルマだろう。探知魔法のおかげなのかカミラが笑いをこらえつつ近づいてきているのがわかる。なかなかに便利な魔法だ。

カミラがあともう少しで肩をたたく、寸前アビゲイルは振り向きカミラを捕まえた。なぜわかってしまったのかという驚愕の顔をしたカミラを見てアビゲイルは吹き出し、カミラをくすぐった。

「また驚かそうとしたなぁ~! このこのこの!」

くすぐられて笑い転げるカミラをエルマは笑った。

「よくわかりましたねアビゲイルさん」

「探知魔法の練習をしてたから、近づいてくるのがわかったんだよ」

「なるほど、カミラももういたずら出来ないわね」

 清掃クエストの途中だと話すと二人は手伝ってくれた。草むしりは終わっていたので、あとは掃き掃除だけである。3人で今日の夕食は何がいいかと話しつつ、和気あいあいと掃除をしていたらまた背後から今度は嫌な感じがした。

振り向くとそこにはロイドが立っていた。アビゲイルをまた睨みつけている。

「こんなじじい共がやるようなクエストしか出来ねえのかよ、情けねえ」

ロイドはどうにかアビゲイルにマウントをとろうと必死らしい。

「初心者でEランクだもん、当たり前じゃん。無鉄砲に木の剣でゴブリンなんか退治できないでしょ。どこかの誰かさんと違って仕事を選ばないんですあたくし」

「はっ新米過ぎて仕事が選べねえだけだろ」

「うん」

ここぞとばかりにバカにしてきたが、まったくそのとおりなのでアビゲイルは別に傷つかなかった。素直に返事するしかない。

「嫌味言いに来ただけなら、聞いててあげるから掃除続けていい?」

「ふざけんなよ? でかすぎて頭に血が回ってないのかよ」

アビゲイルののんびり加減にロイドは呆れた。

「エルマ、カミラ、ちょっとゴミ袋持っててくれる?」

頼んだがカミラしかゴミ袋を持ってくれない、エルマはどうしたのかと見るとロイドを睨みつけていた。アビゲイルに向けた言葉の数々に怒り狂っているらしい。顔が真っ赤だ。

ロイドはそれに気づいていない、エルマが自分を見ていると気づくとなんだかもじもじしだした。

(あれこいつ・・・・・もしかして)

「おい、エルマ。こいつの手伝いなんかせずに、よ、よかったら一緒に酒場に行かないか? 新メニューが出て人気なんだってさ」

(こいつエルマが好きなのか、だから私達のとこに寄ってきたんだな。うーんこの不良が優等生を好きになる展開・・・・・・)

 前の世界で読んだ漫画や小説ではこういうパターンはあまりうまくいくことはない。というか誘うタイミングが悪すぎる。

「シチューがなくてもさ、何かおごるぜ」

「いらない、話しかけないで」

バッサリ断られてしかも話しかけるなとまで言われてしまった。そこでようやくロイドはエルマが怒っていることに気づいた。

「何怒ってるんだよ」

その言葉でエルマはさらに怒り出した。

「一生懸命働いているアビゲイルさんを馬鹿にして、そんな人と一緒に食事なんか行くわけ無いでしょ。会うたびにあなたに声かけられるのはもう嫌だから、今度から話しかけないで!」

「!!」

(あ、フラれた)

 ロイドはショックで言葉もなく、立ちすくんでしまった。これはしばらく動けそうにない。突けばその場で砂になってしまいそうな感じだ。よっぽどショックだったようだが、いまアビゲイルが慰めると火に油を注ぎかねない。無視してゴミ袋にゴミを詰め込み。3人でギルドに帰った。


 ギルドに戻るとナナが笑顔で迎えてくれた。

「お疲れ様です~。ゴミも草もこんなに集めていただいてありがとうございます・・・・・って何かあったんですか?」

まだ怒っているエルマとそれをみてびびっているカミラを見てナナは訪ねた。

「いや・・・特にたいしたことは」

ロイドのことは黙っておくことにした、失恋話が広まるのはかわいそうだ。

「そ、そうですか。ではこちら今日の2つのクエストの報酬です~」

合計で2400ゼムももらえた。掃除による爽快感と報酬が思った以上に良くて、アビゲイルもほくほくだ。

だが、エルマはまだ腹の虫が収まらないようだ。好かれている相手をふるのもなかなかしんどいだろう。もともとエルマが怒る原因はロイドのアビゲイルへの悪口だ。怒ってくれたお礼に何かしてあげようと思い。アビゲイルは以前約束していたパン作りをしようと考えた。

「ナナ、明日はちょっと予定があるからギルド来るの休みたいんだけどいいかな?」

「構わないですよ~。ギルドの仕事は好きなときに受けてくれれば構いませんから、それに今週アビゲイルさんは頑張ってますから、そろそろ休んだほうがいいです~」

「ありがと」

 報酬を受け取りギルドをあとにした3人はそのまま買い物に行く。

「アビゲイルさん、明日お休みするのね。私達も学校が休みだから、家でみんなでのんびりしましょう」

「それなんだけどさ、今からパン屋さんで酵母を買って明日みんなでパンを作らない?」

「ほんとう? カミラもパン作りたい!」

「わあ、楽しみだわ!」

エルマの機嫌が元に戻ったようで安心した。

3人は足早にパン屋に向かった。日が傾き、路地に3人の影が並んだ、一番小さい影が嬉しそうに何度も跳ねた。 


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