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鶏ガラと魔法2

 ブイヨンを作ってはみたが、反省することもいくつも出てきた。

煮込む時間が長いため、燃料代(薪)がかかる。野菜を使うが出汁をとったあと食べられない。骨と煮込むので灰汁で汚れているし、ザルで濾すときに潰してしまうので野菜カスになってしまう。

 作ってみてわかったが確かにこれは貴族のスープだった。出汁が欲しくて作っては見たが、時間と効率が悪い。前の世界ならまだ気にならない燃料代もかなり気になってしまう。薪代がどのくらいかわかっていないし。自分で購入した薪ではないので使いすぎてしまったことが申し訳なかった。

「作り方に改善の余地あり」

アビゲイルはつぶやいた。

 悩んでいるとカミラとエルマが食堂に飛び込んできた。

「すっごくいい匂い! もうできてるの?」

飛び込んできたカミラはそのままアビゲイルの背中に突っ込んできた。そのまま背中にぶつかってアビゲイルは流し台に腰を軽く打った。

「ぐえ」

 それを見てエルマが怒り出す。

「カミラ! 危ないでしょう! アビゲイルさんが包丁やお鍋を持ってたら怪我するところよ! あやまりなさい!」

突然怒鳴られてカミラはビクッと震えた。かなり驚いている所をみるとこれはかなり怒られているらしい。カミラは声も出なかった。

アビゲイルはカミラの頭をなでながら顔を覗き込んだ、今度はアビゲイルに叱られるのではと怯えている。これ以上怖がらせるのは良くないと思い、アビゲイルは優しく声をかけた。

「そうだよカミラ~、びっくりしちゃった。かまどや台所周りは危ないからふざけちゃ駄目だよ? いまは何も持ってなかったけど、今度はわからないからね」

 カミラは小さくうなづいてアビゲイルの足にくっついてきた。エルマがまだ怒っているのが怖いのだろう。カミラをまだ睨みつけている。

「エルマ、カミラももうわかったみたいだから、そのぐらいにしてあげて」

「でも」

「カミラももうわかったよね?」

「・・・・・ごめんなさい」

「いや~もう、そんなにいい匂いした? 外まで漏れてるのかな? まーいい出来だからしょうがないな」

わざと明るく振る舞ってアビゲイルはおどけた。それを見てちょっと笑ってしまったエルマは拍子抜けしてしまい怒るのをやめてしまった。

「今夜の夕食はもうできてるの? アビゲイルさん」

「いや、これから。よかったら手伝って」

「うん」

「もうちょっと待っててねカミラ」

笑いかけるとカミラは小さくうなづいた、落ち着いてきたようだ。

「よーし作るぞー」


 キャベツは半分を4等分、玉ねぎは4等分、じゃがいも人参を大きめに乱切りして、ベーコンも人数分に厚く切る。

すべて鍋に入れてブイヨンを注ぎ、ローリエを1枚足して煮込む。最後に塩コショウで味付け。ポトフの完成である、最初は凝ったものを作るとブイヨンの出来がわかりにくいので、シンプルなポトフを作ったのだ。

 ポトフだけでは物足りないので、買ってきた牛乳を使ってオムレツも作った。オムレツには茹でたブロッコリーを添える。

「オムレツって難しいものだと思っっていたけど、アビゲイルさんが作ってるのをみるとすごく簡単そうね」

「コツを掴めばあっという間に出来るよ、フライパンは中火でしっかり熱して」

説明しながらフライパンにバターを落とし、ある程度溶かしたあとに牛乳と塩コショウを加えて混ぜた卵液を流す。卵をゆっくりかき混ぜながら半熟になるまで火にかける。フライパンはときどき揺すって火が均一に回るようにする。

「いい匂い」

バターの焼ける匂いにつられてカミラも覗き込んでくる。エルマが危ないと思ったのか台に乗ったカミラを後ろから抱くようにおさえた。そんなエルマもフライパンの中で形が整っていく卵を見つめて少しうっとりしているようだった。

「こうやってフライパンのふちで形を整えて、裏返して少し焼けば、ほら出来た」

そう言ってアビゲイルはオムレツを皿に移した。すかさずカミラがそこにブロッコリーを添える。

「おお~ありがとカミラ~。気が利くね」

アビゲイルが褒めると嬉しそうにカミラは照れた。

「あとふたつ焼くんだけど、エルマやってみる?」

「うん」

少し緊張した様子で作ってみたが、慎重な性格だからか少し焦げてしまった。

「焦げちゃった・・・これ私が食べるね」

「大丈夫このくらいなら、初めてなのに上手だよ。これ私が食べていい? エルマの人生初のオムレツ」

「え、これでいいの?」

「うん、むしろこれが食べたい」

 自分が教えて作ってくれたオムレツを食べたいとアビゲイルは素直に思った。誰かと一緒に料理するのは本当に楽しいし、しみじみ自分は料理が好きなのだなと感じた。作るにも食べてもらうにもこんなに喜んでもらえるのはいい気分である。

「次はもっとうまくいくよ。感覚を忘れないうちにもう一つ焼いてみなよ」

「また焦げたらどうしよう」

「それは私が食べたいね。君の初挑戦を味わいたい」

いつの間にか後ろにいた神父が手を上げた。それを聞いたエルマはさらに気合を入れて焼いた。気合をこめたおかげか、ふんわりと美しいオムレツが焼き上がった。

「すばらしい、おいしそうだ」

「よーし食べよう食べよう!」


 はてさてブイヨンのお味は・・・・・。

「おいしい、うんいい味出てるなー。やっぱりあるなしで違う・・・・」

と他の3人を見るとカミラとエルマは夢中でポトフを食べていた。カミラはすぐに飲み干し、中に具が残っているのにスープだけおかわりしようとした。

「カミラずるい、ちゃんと具も食べてからにしないさいよ」

「そうだカミラ行儀が悪いぞ」

二人におこられてしぶしぶ具を食べ始めたが、早くおかわりがほしいのかそれもいつもより急いで食べだした。具は人数分よそってしまったので鍋の中はわずかにスープだけが残っているはずである。だがたいした量ではない。

 アビゲイルはそれを思い出して、一応カミラに念押しした。

「おかわりはもうスープしか無いんだけど少ないから、全部一人で持っていかないようね」

「はーい」

食べ終えたカミラは返事をしつつスープをおかわりした。前の世界では息子が3人いたアビゲイルはおかわりやおかずの奪い合いをよく見ていて、どんな行動を取るか知っていた。おかわりは弱肉強食早いもの勝ちだ。だが平等に分け合わないと大騒ぎの大喧嘩になるので、先に分け合うことを教えていたのである。

エルマも無事おかわりを手に入れ、夕食は和やかに終了した。

「おいしかった~。ブイヨンてすごいのね。今度これも教えてアビゲイルさん」

「いいよ、でも次はいつ作ろうかなあ、思ったより薪や材料費がかかったんだよね・・・・毎日は無理だな」

「ええー、明日も食べたい!」

これから毎日ブイヨンを使った料理が食べれると思っていたカミラは残念そうだ。

「明日はだいじょうぶ、明日の分はあるから。夕食に使う予定だけど・・・・。あ、そうだ神父さん、お鍋借りていいですか?」

「何に使うんだい?」

「お肉屋さんにブイヨンの話をしたら、食べてみたいっていうので明日少し持っていこうかと」

「ああ、いいよ」

「ありがとうございます」


 アビゲイルは部屋に戻ってから、今日の出来事について手帳に書きまとめていた。

ブイヨンはうまく出来たが、反省点も多かった。一つは材料費、もう一つは時間がかかる。ということだ。インスタントの顆粒コンソメのなんと便利なことか、アビゲイルはしみじみ恵まれた環境で料理していたのだなと感じた。

 電気、ガス、水道の存在は大きい。こちらの世界では調理は薪だが、薪の代金を神父に聞くとなかなかの値段だった。料理させてもらってはいるが、使いすぎや材料を無駄にするのは申し訳ない。なんせ自分はただで食べさせてもらっているのである。

(作っているとはいえ、神父様に私の分多く出費させてるんだもんな・・・・・・)

今後ギルドの報酬で食費も入れていかないといけない。

(せめて燃料代くらいどうにかならないかな・・・・・火か・・・・火?)

「って私火魔法使えるじゃん、これを料理に使えばいいのでは?」

アビゲイルは神父が貸してくれた魔法指南書を開いた。神父が言うには魔力を練り、イメージを放出することで使うことが出来ると言っていた。

(まずは魔力を練る練習をしないとだな・・・・・)

本を読みすすめていくと、体の中心から魔力を練り全身に巡らせるように意識し、自身にとってわかりやすい言葉や形を想像するといいとのことだった。そうして練った魔力を最初は指先集める練習をして、小さな火を作ればいいようだ。

(小さな火・・・・ライターくらいの火かな?)

人差し指にライターの火がカチッと点くことをイメージしてみた。するとすぐに火を出すことができた。

「あれ、出来た。思ったより簡単だな」

すぐに火を消してまた出してみる、ろうそくの火を吹き消して点けてを繰り返した。

「これを料理に使うには・・・・・コンロのような丸い火の輪を作ればいいのか」

とイメージしてみたが、ここでそれに挑戦するのは危険かもしれないと思い止めた。

 明日料理をするときやお茶をわかすときに挑戦してみよう、アビゲイルはろうそくの火を吹き消し、ベッドに潜り込んだ。

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