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鶏ガラと魔法

 本日の薬草収集のクエストである程度ゼムを稼ぐことができた。今回は川沿いを歩きながら集めたのだが、川の近くだったからかスライムが多く、どちらかというとスライムの討伐で稼いだ感じだ。

借りたナイフは使い心地も良かったので買うことにした。日銭を稼いでその日に使ってしまうという、なんともいえない状況だが仕方ない。それでも多少お金が残ったので昨日考えていたことをやろうと思い、肉屋へ向かった。


 肉屋は冒険者ギルドの隣にある、肉の解体場を共有しているからだそうだ。

「はい、いらっしゃい」

店に入ると夫婦と思われる二人がそろって挨拶してくれた、肉屋に来たのはじつは2回目だ。前にエルマと一度来ている。

「今日はなんだい? いい鶏肉が入ってるよ」

「あの鶏ガラがほしいんですけど?」

「鶏ガラ?」

「肉をとったあとの鶏の骨です」

アビゲイルは鶏ガラでブイヨンを作ろうとおもっているのである。ブイヨンの作り方を簡単に説明したが、それを聞いても肉屋はぽかんとしている。この村では作られていないようだ。

「ブイヨンねえ・・・・まあ骨付き肉でスープを作ったほうが美味いからな。それを鶏ガラで旨味だけとろうってわけか」

「でも骨だけ煮込んでも濁った汁ができるだけだよ?」

肉屋夫婦はブイヨンも飲んだことがないようだ。

「まあちょっと作ってみたいんです」

「なるほどね、まあやってみるといいよ。鶏ガラはそうだな、1キロ50ゼムくらいでどうだい?」

「はい、ありがとうございます。あと牛乳ください。小さい瓶で」

「あいよ、両方で300ゼムだ、牛乳は瓶を洗って持ってきてくれたら今度から100ゼムになるから、よろしくな」

 店主は鶏ガラを2重にした紙袋に入れてくれた。牛乳はバッグに詰めていく。

「なあ、そのブイヨンてのが出来たら少し分けちゃくれねえか? 味がきになるぜ」

「わかりました、うまくいったら持ってきますね」

「たのむよ」


 帰宅後すぐに準備を始めた。

鶏ガラをまず水で洗う、血の塊や余分な脂肪を取り除き、水にさらしておく。

その間に神父に許可をもらってセロリを少し収穫して、畑の脇に生えているタイムとパセリも少しもらい、洗ってから糸で束ねた。

「今日は何を作るんだい? 鶏の骨をこんなに用意して」

鶏ガラをザルに上げて水をきっていると神父が様子を見に来た。

「うまくいくかはわかんないんですけど、ブイヨンを作ろうと思っていて」

「ブイヨン? そんな高級なもの作るのかい?」

「高級?」

「都で貴族が飲むスープの出汁だろう? 牛や鶏の骨、大量の野菜を煮込んで作ると聞いたことがあるが」

「そんなに大げさなものではないんですけど、へー・・・・貴族のスープなんですか」

「多分材料も大量でかなり大きな鍋で作るんじゃないかな? 素材を選べば家でも作れるのかね?」

「これは自己流なので、骨もこれだけで50ゼムですし」

「ほう安いな」

 鍋に鶏ガラを入れて水を注ぎハーブに刻んだセロリ、玉ねぎ、人参を加えて火にかけた。

「このまま2時間くらい煮込みます」

「2時間? なかなか長いな。もっとも貴族のは1日煮込むらしいよ?」

「はーそりゃすごい」

「貴族の場合は一晩煮込むから燃料代も人件費もかかるんだろう、だから高級なんだな」

「なるほど・・・・って私も2時間くらい煮込むんですけど薪使いすぎです?」

アビゲイルは燃料代を考えていなかったことに気づいてあせった。

「今の季節は薪は料理にしか使わないから大丈夫。冬のも今年はあまっているしね」

「すいません・・・・・」

「構わないよ、ブイヨンは楽しみだが2時間鍋ばかり見ててもヒマじゃないかな?」

「あー・・・・・」

前の世界ではテレビをみたり、ゲームをしたりして時間を潰していたのだがどうしようか? 

「本でも読むかね? そうだ、君に勧めたい本があった、ちょっと待っていておくれ」

 神父がそう言って持ってきてくれたのは魔法の指南書だった。

「これは初心者向けの基礎魔法書だ。いちから書いてあるからわかりやすいだろう。読んでみるといい」

「おーありがとうございます」


 この世界には8の元素があり、それがひとりひとりの魔法と魔法力に影響するらしい。

元素は火、水、風、土、雷、神、光、闇である。アビゲイルの場合は雷と光、そして闇が使えない、闇が使える人間はごくわずかだそうだ。

8元素の魔法はすべて、攻撃と防御の効果を得ることができるが属性相性、魔法力の差によって効果が変わっていく。

 アビゲイルは鍋の灰汁をときどき取り、減った分の水を足しながら本を読みすすめていくと、面白いことが書いてあった。

「魔法には決まった呪文がない」というのである。

 食堂で一緒に本を読んでいた神父に呪文がないのはなぜなのか聞いてみた。

「呪文は使いたい魔法のイメージを固めるためのものだから、一人ひとり好きな言葉を組み合わせていくんだ。だから決まった呪文がないんだよ」

「自分で作るんですか」

「作らなくてもいい、慣れれば呪文は必要なくなるから。最初から無詠唱で練習する人もいる。私もそうだ。神魔法は治療魔法だから詠唱してる時間も患者は命取りになるからね」

「攻撃する場合も無いほうがすばやく攻撃できる」

「そういうことだ。せいぜい一言が二言って感じだな。だが体の中で魔力を練る必要があるから魔法を発するのは剣を降るより多少時間がかかるね」

「魔力を練る?」

神父は本を閉じて両手をアビゲイルに差し出した。

「私の手を握ってごらん」

おそるおそるアビゲイルは神父の両手を握った、その途端神父の手が暖かくなってきて、何かが神父の手の中を流れているのを感じるようになった。

「わかるかね?」

「・・・・わかります、血液が流れているような、すごく温かい風みたいな」

「今私は手の中で魔力を練っているんだ、大きい魔法を使うときは手だけではなく全身で練り上げる、そしてそれをイメージした形にして外に出すんだ」

そう言うと神父の手がうっすら光った、とても優しい光だった。同時にアビゲイルは温かいお湯に全身が包まれたような気分になり、体が熱くなった。

「うわ・・・・あっつ」

「君の体力を回復したんだ、魔力を練るということと魔法として外にだしたのがわかったかね?」

「わかりました、すごいですね」

「君もこれが出来る素質があるんだよ」

「すごい・・・・・」

 生まれて初めて魔法に触れた瞬間だった。今までずっとゲームや漫画、様々なもので見て読んで想像してきたものが現実に存在し、魔法をかけられて回復している自分が今ここにいる。アビゲイルにとってものすごい感動だった。

「まずは魔力を練る練習をしなさい、その本に詳しく書いてある」

「はい、ありがとうございます!」

 礼を言ってからアビゲイルはブイヨンを煮込んでいる鍋を見た、最後の灰汁を取りスープの味を確認したあとに布をかけたざるで漉した。ブイヨンは美しい黄金色でよい香りがした。

「きれいなスープだな、透き通っていていい香りだ」

「味を見てください、うまくいきました」

神父はアビゲイルから皿を受け取り味見した。

「素晴らしい、カップに入れてもっと飲みたいね。ふと思ったが料理も魔法のようだな、おいしいものを食べたものは幸せになる。いい魔法だ」

二人はそのまましばらくブイヨンを眺めていた。


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