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もう一人の冒険者

 日が暮れて来ていた。早く帰って夕食の準備をしなければ。今日はどうしようか、と悩む。と同時にメニューを考えつつ思うことがある。

調味料が少ないのである。味噌、醤油などの日本の調味料は一切ない。出汁もなく、塩コショウ味がメインになってしまう。あとは砂糖で甘みだが、醤油やみりんを足して甘辛くなどは出来ない。

どうにも献立が限定されてしまうのだった。

(せめて、ケチャップとかソース、マヨネーズがほしい。豆板醤とか・・・・作るしかないのかな? 顆粒コンソメとかほしいな~。)

 スーパーに行けば世界の料理を作れる材料がだいたい揃っていた世界から見ると、ここの料理の材料、特に調味料は種類が少ない。おそらく野菜も季節の野菜しかないだろう。冷蔵庫もないし、なんと便利な世界に生きていたのかとしみじみ痛感する。

(ブイヨンくらいなら作れるかもしれないな・・・・・洋風出汁があればちょっとはバリエーションが増えるかな? 牛乳とか手に入るかな?)

色々考えてたらすぐに教会についた、ご飯の支度に悩むところは主婦が抜けてない。仕方がない、エルマとカミラ、神父がお腹をすかして待っている。

 

 食堂に行くとエルマが夕飯を作っていた。カミラもエルマの横で木箱に乗って鍋をのぞいていた。

「アビゲイルさん、おかえりなさい」

「おかえりなさい~」

「ただいま、夕飯作ってくれてるの?」

「アビゲイルさんのようにうまくは出来てないとおもうんだけど・・・・このあいだ作ってくれた塩漬け肉を炒めたスープを作ってみたの」

「なんと・・・なんていい子なのエルマー! 帰ってきたらご飯が出来ているなんて嬉しい! ありがとう!」

嬉しさのあまり勢いづいて呼び捨てにしてしまった。

「あ、ごめんね呼び捨てて」

「いいんです、今度からそう呼んでください」

「じゃあエルマも私に丁寧な言葉は使わなくていいよ」

「ありがとうござ・・・ありがとう。よかったら味見してみて」

「どれどれ・・・・うんおいしい。よく出来てるよ」

「やった」

 褒めるとカミラが地団駄を踏んだ。

「私も一緒に作ったんだよ!」

「そうなの? カミラもいい子ね。すんごくおいしいよ」

頭をなでながら褒めると、はにかんで両手で顔を覆った。照れているようだ。

(あーほんとかわいいな、二人揃ってほんといい子たちだわー。最高)

「賑やかだな、おかえりアビゲイルさん」

オスカーも食堂にやってきた。

「ただいまです」

「いい匂いだな、早速食べようか」

その日の夕食はエルマが作ったスープとパンだけだったが、楽しい夕食だった。

(明日もがんばろう)


 翌朝、昨日と同じように弁当持参でギルドに向かい、ディクソンに中古のナイフが無いか相談した。雑貨屋で聞いた話をすると。

「ああなるほどな、ちょっと待ってくれ倉庫を探してみよう」

「手伝います」

 ギルドの建物裏はテニスコートくらいの広さがあり、その角に石造りの蔵のような建物があった。ここが倉庫らしい。

 斧や剣が無造作に入った箱がいくつかあり、ホコリをかなり被っていて何年もいじっていないようだった。ディクソンが箱をひっくり返して中を確認するとナイフが数本出てきた。なかには錆びついて鞘から抜けないものもあったが、1本昨日雑貨屋で見たような皮の鞘に入ったナイフが見つかった。

鞘から出すと刃渡り12センチくらいのナイフで、柄はなにかの骨で出来ているようだった、握るとなかなか手に馴染む。

ディクソンもそのナイフを握り、慎重に刃に指をあてたり持ち方を変えたりして確認した。

「うん、なかなかいいナイフが出てきたな。柄は鹿の角かな? もう誰のものかわからんからこれを使うといい、研ぎはすぐやらなくても大丈夫そうだ」

「良かった、いくらくらいで買えるかな?」

「別にいいけどな、お前に言われなかったらあと100年この倉庫に入っていた代物だし」

「払うよ。ただでもらうのも悪いし。と言ってもお金無いんだけど・・・・」

「昨日の金は?」

「もう使っちゃった」

しょうがねえなとディクソンは笑った。

「それじゃあ1000ゼムで売ってやる。金は今日からまたクエストで稼げ、薬草を集めるときにナイフを試してみろ。そのあと本当に買うか決めるといい。駄目なら自分で買うまでのつなぎにしろ」

「わかった。ありがとう」


 ギルドに戻るとカウンターに青年がいた。青年といってもまだあどけなさが少し残っているような雰囲気だ。だらしなくカウンターにもたれていたがアビゲイルに気づくと睨みつけてきた。だがアビゲイルは青年の睨みにはひるまなかった。

(こいつ、不良だな。高校生くらいかな?)

前の世界で息子が3人いたアビゲイルにはすぐにわかった。この世間をなめきった、屁理屈の塊のような雰囲気。睨みつけてきてはいるが目にはまだ甘えがある。三男が反抗期にぐれかけた時そっくりだ。

 青年はアビゲイルを睨みつけたまま近づいてきた。ぎりぎりで立ち止まり下から睨みつけてくる、アビゲイルより背が低かった。

「でけえ女だな」

アビゲイルは返事をしなかった。

「なんか言えよ」

びびっていると勘違いしたのかさらにすごんでくる。周囲のじじばばやナナははらはらと二人を見ていた。アビゲイルは無視してディクソンに聞いた。

「この人だれ?」

ディクソンは青年を冷めた目で見ながら答えた。

「前に話したもうひとりのトココ村の冒険者だ」

「あーこの子が仕事が出来ないけど金と名誉を求めて仕事を選ぶ子か」

アビゲイルはわざと大きな声で言った。すると青年の背後でじじばば達が小さな声でささやき出し、笑いだした。

 青年は顔を赤くして怒り出した。

「てめえ! ふざけんなよ!」

今にも殴りかかってきそうになり、周囲は一瞬静まり返ったが殴っては来なかった。威嚇しているだけのようだ。アビゲイルは青年の肩を軽く突き飛ばした。こういう手合には慣れている。青年はそこから動かなかったが突き飛ばされたことに少し驚いたようだった。

「ふざけてるのはどっち? 初対面で挨拶もなくでかい女なんて、失礼にも程があるわ! ディクソンの言ってた通り仕事も出来ないわけだ、挨拶もできないんだから。いいかげんにしなさいよ!」

「なっ」

「文句があるならまず挨拶しなさい。私はアビゲイル。あんたは?」

さっきよりも大きな声で言いながら、仕返しとばかりに睨みつけた。だが青年を見下した目ではなく、親がわがままを言って泣いている子供を見るような視線だった。

 青年は突然の説教をくらい面食らった。しばらく呆然としていたが、また周りが笑いだして我にかえり、捨て台詞を吐きながら椅子を蹴飛ばして足早にギルドから出ていった。

やれやれとアビゲイルがため息をつくと、それをみてディクソンが笑いだし、アビゲイルの肩をばんばんと叩いた。

「たいしたもんだ、お前。ははは! おふくろを思い出したぞ」

「さいですか」

「あいつも少しは懲りただろ。あいつの名前はロイド。村の小麦農家の三男だ」

(あら、息子と同じ三男だ)

「午前中にはほとんど来ないんだが、お前の噂を聞いてやってきたんだな。しょうがないやつだ。にしてもよくびびらなかったな。いい説教だったぞ。ちょっとは効いただろ」

「あなたみたいな大人に怒鳴られたらそりゃあびびるけど、まだ子供でしょ? それに何かあれば止めてくれると思って」

にんまり笑ったアビゲイルを見て、呆れたディクソンは苦笑いになった。

「あいつは今年で17のはずだ。たいしこことはないと思うが、喧嘩を買ったようなものだから、ちょっと気をつけろよ」

「そうだね」

 じじばば達には「えらい、よく言った」「アビーちゃんすごい」とほめられた。この人達から見るとアビゲイルもまだ子供のようだ。中には飴玉を褒美にくれるおばあちゃんもいた。

「よし、では今日も薬草を集めに行くぞ」

「おう!」

もらった飴玉を舐めながらアビゲイルは元気に返事をした。



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