第二話 『家族』 その1
※何年ぶりやらの投稿です…。( ゜ω゜;)
高い丘の最上部に、その洋館は佇んでいた。
ホテルのようには大きく無いが、いつ建てられたのか、日本の建築物としては、とても古い建物だった。
その周囲には、手入れのされた広い庭があり、更にその周囲を背の高い壁と急な斜面に囲まれ、その斜面には、一本の道が螺旋を描くように通っていた。
その道を一台の黒塗りのベンツが、ゆっくりと上がっていく。
その光景は、日本とは思えないような景観を醸し出していた。
近所の話好きな奥様連中は、井戸端会議の話題に、よくその洋館の話題を出しては喜んだ。
あんな家に住みたいだの、あれだけの土地が私も欲しいだの、うちの旦那の給料じゃ、一生無理ね、なんて言いながら、黒いピカピカのベンツが通ったときは、溜息を付いて羨ましがった。
特に地主の宇佐木夫妻に関しては、もの凄い食いつきようで、それを傍で見ている旦那や子供に呆れられながらも、構わず毎日飽きもせずに熱中しては、周りの目も見えなくなる程だった。
彼女等の旦那達や子供達からすれば、古くて気味の悪い洋館でしかないのだが…。
そして、10代20代の若者達にとっては、面白い怪談話の格好の的で、本気になって肝試しに洋館へと赴く愚か者も続出した。
黒いベンツは、緩やかに作られた坂道をゆっくりゆっくりと上がって行くと、立派な門を入って、洋館の前で止まった。
ドアが三つ開き、運転席からは、運転手らしき青年が、その後ろのドアからは、英国紳士のような格好をした男性が、更に反対側のドアからは、黒いスーツ姿の、14歳くらいの少年が出て来た。
男性の名は、宇佐木直正、洋館の主だ。
名前は日本人名だが、彼の母親はアメリカ人で、彼はその血を色濃く受け継いだらしく、髪の色は金髪だった。
「ヤマコシ君、これ」
「えっ!?」
運転手の青年に直正がチップを渡している光景をちらりと横目で伺うと、少年は何事も無かったかのように、さっさと建物の方へと歩き出した。
「あ!ソウハ、待って!」
「…ナンダヨオヤジ」
聡波と呼ばれた少年は、呼び止められた事が不満だと言わんばかりな態度で振り返った。
直正は、聡波のそんな態度に全く怯む事も怒る事もせず、ただ慌てて駆け寄って来て、にこりと微笑んだ。
「聡波、いつもありがとうね」
「…フンッ」
聡波は、直正に向かって冷笑を浴びせかけると、それ以上何も言わずに建物の中へと入って行った。
「………」
「………ッッかーーーッ!旦那ぁ、よく耐えられますなぁ!?俺だったら一発ぶん殴ってますよ!叱らなくて良いんですかぁ?」
運転手の山越が、呆れたようにベンツにうな垂れかかる。
その様子を見て、直正は困ったように笑った。
「良いんだよ。女房が言うには、あれは彼なりの照れ笑いらしいんだ」
「えぇッ!?」
山越は、目を丸くして絶句するしか無かった。
「あれ、聡波帰ったんですか」
「…ん」
建物の中に入って会ったのは、9歳くらいの少年だった。
聡波は適当に返事を返すと、そのまま素通りして行こうとしたのだが、服の裾を引っ張られて仕方なく立ち止まった。
「………なに、レン?」
相手が自分より年下だという事を考慮したのか、不機嫌さを少し和らげて振り返ると、ヒマワリのような笑顔とぶつかった。
「お帰りなさい!」
「あぁ、うん」
「お風呂、入るんですよね?」
「え…」
「聡波、いつも帰ってきたらお風呂入ってますから。ちょっと待っててください!」
戸惑っていると、レンは今にもスキップし出しそうな足取りで廊下の奥へと行ってしまった。
「………?」
恥を忍んで、エイヤッッと投稿しました。