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第二話『血塗られた道』 その1

「聡波!!聡波!!」


 辺り構わず無線機に向かって何度も叫び散らす。

 しかし、息子からの応答は無く、直正は、クソッと叫ぶと、焦りを持て余して周囲を見回した。

 仲間達の顔が驚いたようにこちらを見ている。

 堪らず目線を機材に下ろすと、直正はスイッチを乱暴に扱い、更に叫んだ。


「計画通り、全入り口に数名ずつ待機!それ以外は、建物の中へ突入後、指定の位置へ!何かあったら、俺に連絡しろ!」


 冷静さを装いながらも指示を出す。

 了解、と即座に行動を開始し始めた者達の声が幾つか返って来ると、直正は深い溜息を吐いて項垂れた。

 背中を不快な何かが這い上がっては、全身から生温かい汗が噴き出し、全身を凍らせる。 

 彼に限って、何かある筈が無い。

 そう分かってはいるものの、聡波の安否が気にかかっては、過去の記憶が直正を苦しめた。

 本当にこれで良かったのか、本当に彼の言う通りにやって構わなかったのか。


『おい、宇佐木、頼むよぉ…』


 上司の男の、諭すような言葉が蘇る。


『お前のところに匿ってる餓鬼、こちらで使わせては貰えんかねぇ…』

『…それは何度もお断りした筈です…』

『しかしなぁ?能力者だなんて化け物に、俺達普通の人間が敵う筈ぁねぇだろ?分かるよなぁ?なぁ?宇佐木?』


 有無を言わさぬ上司の、優しくも見える冷酷な眼差しが、これは世界の為だと、力無き者達の為だと、静かに語っている。

 その眼差しに、この状況に、あぁ、これはもう逃れられないのだろう、と直正は悟った。

 警察機関であるが故、拒めない絶対正義という肩書が、様々な矛盾を際立たせては、直正の目の前に壁となって表れる。

 ぐるぐると胸の中を駆け巡る感情で、今にも体が震え出しそうだった。


『しかし…、まだあの子達は小さいですし…』

『宇佐木、我々には力が無いんだよ…。すまないが、分かって欲しい…。もう、これ以上犠牲は出したくないんだよ…』

『………』


 悲しげに歪められた上司の顔を見てしまっては、お人好しの直正には、もう何も言う事など出来なかった。











 シンと静まり返った室内で、静かに横たわっていた彼の体が、痙攣するようにピクリと動いた。

 彼の亡骸を中心に広がった大きな血溜まりが、ポコリ、またポコリと気泡のようなものを発して、それがわっと増えて行く。

 ボコボコと音を立てながら増幅したそれは、やがて波紋のように波打ちながら、聡波の方へと吸い寄せられて、それと同時に、綺麗に切断された部分から、意思を持つ触手のように、赤い神経のようなものが物凄い勢いで伸びて行った。

 それは数え切れない程、幾つも幾つも床を這うように伸びていき、まるで離れてしまった互いを繋げようとしているかのように絡み合うと、切り離された胴体と、近くに転がっていた両腕をズルリ、ズルリと引き擦り上げた。


 離れた部分と部分が合わさり、ボコボコと肉が盛り上がっては再生されて行く。


 それは、長いようで、あっと言う間の出来事だった。


「…よ…っと………」


 血色を失った青白い顔で、必死に体を起こそうとするも、いつもの身軽さからは考えられない程体は重く、同時に襲った眩暈と吐き気、それから軽い呼吸困難で、聡波は仕方なく床に崩れ落ちた。

 全身に血を送ろうと、心臓がばくばくと脈打っている。


「はぁ…」


 息苦しさから深呼吸を何度か繰り返し、うつ伏せのまま、ズボンのポケットへと手を伸ばす。

 微かに震える指先に力を込めて、どうにかこうにかイヤホンとマイクを引っ張り出すと、聡波はイヤホンを耳にあててマイクを握り締めた。


「…ばけもの」


 堪らず吐き出すように、一言静かに呟いてから、マイクを口元へと運ぶ。

 誰も居ない室内では、微かな呟きすら遠く深く響き渡りながら聡波の耳へと届いた。

 その呟きから吐き出されたのは、腹の中に泥の様に渦を巻く怒りにも似た嫌悪感。


「親父?」

『聡波!?…無事だったか!』

「あぁ、まぁ…」

『そうか…、良かった…』


 安堵の溜息を吐きながら、微かに笑いを滲ませた直正の様子がイヤホンから伝わって来ると、いつも生意気な態度を崩さない彼も、流石に詰めていた息を吐きだした。

 そんな自分に驚いて、バツが悪そうに顔を顰める。


『それで、状況は?』

「…それが………」


 聡波は、適当に状況を説明しながらも分かりやすく簡潔にこれまでの事を話した。


「男は女を捨てて逃げたぜ」


一応投稿してみましたが、もしかしたら書き直すなり何なり、するかもしれません…。m(__)m

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