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奏~間奏曲集~  作者: 葵月詞菜


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21/24

(21)来年のクリスマス

【主な登場人物紹介】

海中わたなか 諷杝ふうり…彩楸学園高校1年生。寮暮らし。ギターを弾く。

高瀬たかせ 也梛やなぎ…進学校に通う高校1年生。諷杝とは秋にバイト先で知り合った。キーボードを弾く。

※高瀬が彩楸学園に入学する前、諷杝と出会ってからのお話です。

 気付くといつの間にか街の中がキラキラと華やかになっていた。

 通りに並ぶ店の壁や窓、看板をクリスマスの飾りが彩っている。ここら一帯だけでどれほどの赤い帽子を被ったサンタとトナカイが出現しているのだろう。

 海中諷杝(わたなか ふうり)は冷たくなった指先を上着の袖の中に引っ込めながらぼんやりとイルミネーションを眺めていた。もう日も暮れて暫く経つが、人通りは減るどころか増える一方だった。

「さすがクリスマスイブ……」

 去年までのこの時期はバイトもしておらず、家でのんびりしているのが恒例だった。そのためこの街の賑やかさはテレビの向こうの世界だった。

諷杝(ふうり)。お待たせ」

 横からぬっと現れた背の高い男子が白い包みを突き出してきた。

 ほかほかと温かいそれは、包みを開けると白い湯気を立てた。

「ふつうの肉まんで良かったよな」

「うん。ありがと、也梛(やなぎ)

 バイト終わりの買い食い。先程まで一緒に働いていた友人――高瀬也梛(たかせ やなぎ)も自分の分を取り出して口に持っていく。

「也梛はあんまんかな?」

「ほうだよ」

 そうだよ、と口をもごもごさせながら答える彼に小さく笑う。彼は甘いものが好きなのである。

「クリスマスってこんなキラキラしてるんだね」

 何気なく呟いたら、早くもあんまんの半分を食べた也梛が眉を寄せた。

「いきなり何だ? この時期は毎年こんなだろ」

「也梛の家はクリスマスパーティーするの?」

「ケーキ食べるくらいかな。みんなどっか出掛ける率高いし、俺はだいたい若宮(わかみや)の誘いが入る」

 若宮とは也梛の学校の友人である。諷杝もバイトが重なったことがあるので面識はあった。金髪で一見不良のようだが、進学校で成績優秀者らしい。そして歌が上手い。

「若宮君パーティーとか好きそう」

「大好きだな。事あるごとに巻き込まれる」

「それでも付き合ってあげるんでしょ」

「逃げても追ってくるからな、あいつは」

 諦めて適当に付き合って早々に解散する方が楽だ、と也梛は悟ったふうに言う。彼は心底面倒くさそうに話すが、若宮のような気の置けない友人がいない諷杝には少し羨ましくも感じた。

「お前のとこは?」

 逆に尋ね返されて、諷杝は「うーん」と冷めてきた肉まんを見つめた。

「うちも家族で夕飯とケーキ食べる感じかな。まあ、今の家は義妹(いもうと)がいるからイベント事はものすごく凝ってるよ」

 基本的に、諷杝自身はクリスマスだからと言って特別何かをしようと思う方ではない。家族のクリスマスに便乗している感じだ。ちなみに今年のクリスマスパーティーは明日に予定され、義妹の(あかね)からはご丁寧にパーティーの招待状をもらっている。一生懸命描いたのだろうサンタとトナカイとクリスマスツリーがかわいらしかった。

「そうか」

 也梛は相槌を打ちながら、包み紙をくしゃくしゃと丸めた。それを見た諷杝も残りの肉まんを口の中に詰め込む。

「ほれ、茶」

 タイミングを見計らったかのように今度はペットボトルを渡された。まったく用意が良い。

「……ありがと」

 温かい容器がじんわりと手のひらに熱を伝える。

「そういえばお前って寮生活だったよな。もう帰省してたっけ?」

「二日前に帰ったとこ。今日は実家からバイトに出て来た」

「あー、そりゃご苦労さん」

 本当は休みたい気持ちもあったのだが、クリスマスは人手が足りないからと出て来たのだ。時給も少しだけ上がる。

「まあ、家にいてもごろごろしてただろうけど」

「ギターは?」

「ああ、弾いてたかも。いつも犬に聴いてもらってるから」

「何だそれ」

 也梛が吹き出して仏頂面が崩れる。いつもはずっと大人びて見えるが、こうして笑うとまだ幼さがある。

「今日バイトじゃなかったらお前と一緒にキーボード弾くクリスマスでも良かったかもな」

 也梛がまだ笑いを含む声で言った。

「僕たちだけのクリスマス演奏会?」

「別に演奏会なんて大層なもんじゃねえけど……まあ、それも面白そう」

 今日は朝から夕方までぎっちりバイト詰めだと分っていたので、諷杝も也梛もそれぞれの楽器を持って来ていなかった。

(也梛と一緒にクリスマスか……それは楽しそう)

 きっと、いつものように演奏ばかりしているのだろうけど。折角だからクリスマスらしい曲を弾くのも良いかもしれない。

「じゃあ、来年はクリスマス演奏会でもする?」

 也梛のキーボードと、自分の歌とギターで。

 想像したら楽しくなってきて、半分冗談で言ってみた。

「良いぞ。じゃあ来年な」

 思いのほかあっさりと了承の返事が返ってきてびっくりする。諷杝がまじまじと也梛の顔を見ると、彼は訝し気に首を傾げた。

「何だよ?」

「いや……本当にやってくれるんだと思って」

「冗談だったのか?」

「違うけど」

「だったら問題ないだろ。来年のクリスマス、約束だぞ」

 平然と言ってのける也梛におかしさを感じつつ、諷杝はふと思い出した。

「でも也梛のとこって進学校だったよね? 来年の冬休みって忙しそうだけど大丈夫?」

 確か前に若宮から、二年はさらに勉強が忙しくなると聞いたような気がする。也梛は束の間黙り、小さく息を吐きだした。

「あー……それは多分、大丈夫。てか忙しくてもその日は空けるから」

「ええ、それホントに大丈夫?」

「大丈夫だから、今から来年の心配すんな」

 也梛はなぜかさっさと話を畳んでしまった。彼がそこまで言うのならと、諷杝はもう何も言わず来年のクリスマスを楽しみにすることにした。

「そろそろ帰らないといけない時間なんじゃないか」

「あ、ホントだ」

 実家の最寄り駅までは養父が迎えに来てくれることになっているが、如何せんそこに辿り着くまでの乗り換えが少し面倒くさいのだ。

 也梛と共に駅の方へと歩き出す。動きが鈍い諷杝はたまに人混みに呑まれそうになったが、背の高い也梛を見失うことはなかった。

「君ってまだ背伸びてるの?」

「あ? 伸びてるんじゃね? つかお前もまだ成長期終わってないだろ?」

 そうであってほしいと思うがどうだろう。少なくとも、彼の伸長を追い越せるほどに成長するとは思えない。

「伸びなかったら少し分けてよ」

「怖いこと言うな」

 無駄口を叩いているうちに駅に到着する。相変わらず人は多く、電車の発着の度に人の波が改札を襲う。その切れ目を狙って入って行くしかない。

 也梛を盾にして改札を通り抜けると、諷杝は自分の家の方面の階段に足を向けかけて振り返った。也梛は反対側のホームである。

「也梛、またね」

「ああ、またな」

 お互い別々の学校で、たまたまこの秋に同じバイト先で出会った。

 諷杝の鼻歌に也梛が関心を寄せたのが始まりだった。それからよく音楽の話をしたり、たまに一緒に演奏したりするようになった。

(本当に不思議だなあ)

 階段を上りながらふっと頬が緩む。

 バイト終わりに肉まんを買い食いして、来年のクリスマスの約束をするまで親しくなるなんてまるで予想していなかった。

 今年のバイトは今日で終わりだ。次に彼に会うのは年が明けてからになるだろう。

 そもそもバイトだって初めは短期のつもりだったのに、何だかんだで当初の予定を超えていた。也梛もキーボードの修理費のために働いていたはずだが、もうとっくに修理は終わっている。

(同じ学校だったらもっと話す時間があるんだろうけど)

 考えても仕方ないことを思って苦笑する。そう思ってしまうほどの友人ができたことに諷杝自身が驚いていた。

(クリスマスソング練習しとかないとな)

 いつになく浮かれた気分で、諷杝は帰路についた。



***

 その一年後のクリスマス。

 新たな音楽仲間の実家の店のケーキ販売を也梛と一緒に手伝い、その後賑やかなクリスマスパーティーを過ごすことになったのはまた別の話である。



Fin.

読んでいただきありがとうございます。久しぶりの諷杝と也梛の2人のお話はまだ別々の学校の時のものとなりました。まさか也梛が翌年同じ学校にやってくるなんて諷杝は考えもしなかったでしょうね(笑)

翌年のクリスマスは「(9)ケーキ売りませんか」(https://ncode.syosetu.com/n7972ec/9)になります。

(2024.12.26)

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