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奏~間奏曲集~  作者: 葵月詞菜


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14/24

(14)三分の一の確率

【主な登場人物紹介】

・笠木 矢㮈(かさぎ やな)…彩楸学園高校に通うバイオリンを弾く少女。也梛と諷杝とは音楽仲間。

高瀬たかせ 也梛やなぎ…同学園に通うキーボードを弾く少年。

海中わたなか 諷杝ふうり…同学園に通うギターを弾く少年。

 ある有名なファーストフード店。

 也梛(やなぎ)がトレイの回収を終え客席を見回すと、夕方の店内はほとんどカップルが占拠していることに気付いた。

 日に日に寒くなっているとはいえ、今日の昼間はまだ日が照っていて過ごしやすい気候だった。そのため外出する者は多かっただろう。

 そして、仲良くカップルで出歩く者たちも多い。――全く世間はお熱いようで。

 そういえばあいつらは今頃どうしているだろうと、友人たちの顔が思い浮かぶ。

 矢㮈(やな)は楽しめているだろうか。あの鈍い諷杝(ふうり)にどう接しているのか、考えるだけでおかしい。

「これ、何だろね?」

「さあ? あたしも初めて見る」

(……え?)

 ふいに聞き覚えのある声がして、ゆっくりそちらに顔を向ける。

(何であいつら……)

 眩暈を覚えて也梛は額に手を遣った。

 なぜここに、也梛のバイト先に現れるのだ。彼女たちは今日、郊外の某テーマパークに出かけたはずではなかったか。先日色々と迷惑をかけた借りをチャラにすべく、也梛はチケットを手配して二人を送り出したはずだった。

 ――それなのに。

 二人はマドラーの先を見て首を傾げている。あれは今キャンペーン中のマドラーくじだ。

「実はスプーンになる優れものとか」

「あ、なるほど。じゃあ持って帰ろっかな」

(いやいや、持って帰ってどうするんだよ。つーかスプーンじゃねえし)

 一体あの小面積で何を掬おうというのか。塩か? 砂糖か?

 相変わらずお互いボケまくっている二人にイライラしてきて、我慢も限界にきた也梛はつかつかと彼女らの席に近寄った。

「それはこうすんだよ。くじだ」

 マドラーを奪い取り、その先――スプーンと勘違いされたところをポキッと折る。

 当たりの場合は赤く着色されているのだが、これは本体のベージュ色のまま、ハズレだ。

「残念、ハズレ――」

「当たりだね! 諷杝!」

 矢㮈がうれしそうに声を上げる。

「はあ? お前何言って……ハズレだぞ」

 也梛が不可解そうに眉をひそめると、諷杝が苦笑した。

「当たりだよ。也梛がこのチェーン店のどこかでバイトしてるって聞いたから、適当に入ってみたんだ。三分の一の賭けに勝ったね」

 そして矢㮈とハイタッチ。

 確かにこの近辺にはこのチェーン店が三軒ある。

「意味わかんねえ……。俺に何か用だったのか?」

「ううん。ただ顔見に来ただけ」

「ちゃんと働いてるかな~って」

 諷杝と矢㮈がクスクス笑う。そういえば、前にあった実家絡みの演奏会にも、呼んでないのに勝手に来ていた。一体どういうコネを使ったのか、無理やりスタッフのバイトをもぎ取ってまで。

 しかし今日はデートだっただろうに、何でわざわざ……。

 そんな也梛に気付いたのかどうか、矢㮈が困ったように笑った。

「もうメインは終わっちゃったから。そしたら何か高瀬に会いたくなって……」

「……」

 会いたい、って何だそれは。也梛の頭がフリーズする。

(そんな簡単に言うなバカ)

「僕も会いたかったよ。今度は也梛のバイトがない時に三人で行こうね」

 諷杝までが平然と言う。

 ――全く、人が折角気を利かして、バイトを理由に二人っきりにさせてやったのに、こいつらは……。

 わずかに腹が立ったが、自然と頬が緩んでくる。

(俺も甘いな)

 也梛はため息を吐くと、二人の前に置いてあったドーナツを一つかっさらった。バイトとしてやってはいけないことだという認識は一瞬忘れる。

「お前ら晩飯は何か予定あるのか」

「え、別に……」

「うん、考えてないね」

 普通、ここは二人で食事をするところではないのだろうか。

 也梛は内心で呆れたため息を吐いた。

「じゃあ、一緒に食うか? 若葉(わかは)と約束してんだけど」

 なぜ彼女らを誘おうと思ったのか、自分でも不思議だった。でも妹の若葉は喜ぶから良いか。

「いいの?」

「ああ。後少しで上がりだから待ってろ」

 也梛はそう言い置いて、カウンターへともどった。


 年の瀬も近づいた、ある冬の日のお話。


Fin.


時系列は明記しませんが、とある冬の日の小話でした。

少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。

(2019.12.23)

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