(14)三分の一の確率
【主な登場人物紹介】
・笠木 矢㮈(かさぎ やな)…彩楸学園高校に通うバイオリンを弾く少女。也梛と諷杝とは音楽仲間。
・高瀬 也梛…同学園に通うキーボードを弾く少年。
・海中 諷杝…同学園に通うギターを弾く少年。
ある有名なファーストフード店。
也梛がトレイの回収を終え客席を見回すと、夕方の店内はほとんどカップルが占拠していることに気付いた。
日に日に寒くなっているとはいえ、今日の昼間はまだ日が照っていて過ごしやすい気候だった。そのため外出する者は多かっただろう。
そして、仲良くカップルで出歩く者たちも多い。――全く世間はお熱いようで。
そういえばあいつらは今頃どうしているだろうと、友人たちの顔が思い浮かぶ。
矢㮈は楽しめているだろうか。あの鈍い諷杝にどう接しているのか、考えるだけでおかしい。
「これ、何だろね?」
「さあ? あたしも初めて見る」
(……え?)
ふいに聞き覚えのある声がして、ゆっくりそちらに顔を向ける。
(何であいつら……)
眩暈を覚えて也梛は額に手を遣った。
なぜここに、也梛のバイト先に現れるのだ。彼女たちは今日、郊外の某テーマパークに出かけたはずではなかったか。先日色々と迷惑をかけた借りをチャラにすべく、也梛はチケットを手配して二人を送り出したはずだった。
――それなのに。
二人はマドラーの先を見て首を傾げている。あれは今キャンペーン中のマドラーくじだ。
「実はスプーンになる優れものとか」
「あ、なるほど。じゃあ持って帰ろっかな」
(いやいや、持って帰ってどうするんだよ。つーかスプーンじゃねえし)
一体あの小面積で何を掬おうというのか。塩か? 砂糖か?
相変わらずお互いボケまくっている二人にイライラしてきて、我慢も限界にきた也梛はつかつかと彼女らの席に近寄った。
「それはこうすんだよ。くじだ」
マドラーを奪い取り、その先――スプーンと勘違いされたところをポキッと折る。
当たりの場合は赤く着色されているのだが、これは本体のベージュ色のまま、ハズレだ。
「残念、ハズレ――」
「当たりだね! 諷杝!」
矢㮈がうれしそうに声を上げる。
「はあ? お前何言って……ハズレだぞ」
也梛が不可解そうに眉をひそめると、諷杝が苦笑した。
「当たりだよ。也梛がこのチェーン店のどこかでバイトしてるって聞いたから、適当に入ってみたんだ。三分の一の賭けに勝ったね」
そして矢㮈とハイタッチ。
確かにこの近辺にはこのチェーン店が三軒ある。
「意味わかんねえ……。俺に何か用だったのか?」
「ううん。ただ顔見に来ただけ」
「ちゃんと働いてるかな~って」
諷杝と矢㮈がクスクス笑う。そういえば、前にあった実家絡みの演奏会にも、呼んでないのに勝手に来ていた。一体どういうコネを使ったのか、無理やりスタッフのバイトをもぎ取ってまで。
しかし今日はデートだっただろうに、何でわざわざ……。
そんな也梛に気付いたのかどうか、矢㮈が困ったように笑った。
「もうメインは終わっちゃったから。そしたら何か高瀬に会いたくなって……」
「……」
会いたい、って何だそれは。也梛の頭がフリーズする。
(そんな簡単に言うなバカ)
「僕も会いたかったよ。今度は也梛のバイトがない時に三人で行こうね」
諷杝までが平然と言う。
――全く、人が折角気を利かして、バイトを理由に二人っきりにさせてやったのに、こいつらは……。
わずかに腹が立ったが、自然と頬が緩んでくる。
(俺も甘いな)
也梛はため息を吐くと、二人の前に置いてあったドーナツを一つかっさらった。バイトとしてやってはいけないことだという認識は一瞬忘れる。
「お前ら晩飯は何か予定あるのか」
「え、別に……」
「うん、考えてないね」
普通、ここは二人で食事をするところではないのだろうか。
也梛は内心で呆れたため息を吐いた。
「じゃあ、一緒に食うか? 若葉と約束してんだけど」
なぜ彼女らを誘おうと思ったのか、自分でも不思議だった。でも妹の若葉は喜ぶから良いか。
「いいの?」
「ああ。後少しで上がりだから待ってろ」
也梛はそう言い置いて、カウンターへともどった。
年の瀬も近づいた、ある冬の日のお話。
Fin.
時系列は明記しませんが、とある冬の日の小話でした。
少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
(2019.12.23)




