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四十七話 「観測記録」
執事は、いつもの部屋に入った。
決まった位置に座り、
決まった手順で端末を起動する。
特別な操作はない。
今日も、ただ確認するだけだ。
ログを開く。
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移動……完了
目的地……一致
進行度……予定通り
分岐……なし
逸脱……検出されず
再演算……不要
時間軸……同期
因果……安定
修正……不要
異常……なし
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執事は、ログを閉じなかった。
閉じる理由が見当たらなかったからではない。
閉じる必要がないと、表示されていたからだ。
この世界では、変化は起こらない。
起こったことがない。
起こらない前提で、すべてが設計されている。
だから比較対象は存在しない。
前回との差異は参照されない。
参照する項目が用意されていない。
執事は、その仕様を理解している。
理解しているはずだった。
表示の端に、数値ではない余白がある。
意味を持たないはずの空白。
記録されない領域。
視線を逸らさず、
そのまま、見る。
照会は行わない。
修正も行わない。
判断もしない。
ログは正常だ。
世界は正常だ。
そう表示されている。
――はずだった。
執事は端末を閉じる。
保存は行われない。
世界は稼働中。
特記事項は、
ない。




