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第四十二話 「理由の無い移動」
勇者は、門の外で一度だけ振り返った。
城下町の景色は、いつも通りだった。
次の街へ向かう。
届け物が一つ。
内容は単純で、期限にも余裕がある。
「これなら、問題ない」
そう思った。
思ったはずだった。
歩き出してから、違和感が遅れてやってくる。
なぜ今、この街を出ることになったのだろう。
考えようとすると、頭の中が静かになる。
空白になる、というより――
最初から答えが用意されていない。
道は整っている。
見覚えのないはずの分かれ道で、足が迷わない。
「……?」
立ち止まる。
ほんの一瞬だけ。
この道を選んだ理由が、思い出せなかった。
けれど次の瞬間には、もう歩き出している。
理由がないまま、進めてしまう。
空は晴れている。
危険もない。
戦う必要もない。
それでも、胸の奥が落ち着かない。
――僕は、今どこへ行こうとしている?
届け先の名前は覚えている。
街の名前も分かる。
地図だって、頭に入っている。
それなのに。
行く理由だけが、抜け落ちている。
剣の柄に手をかける。
確かに重さはある。
自分の持ち物だ。
それを確かめて、ようやく呼吸が戻る。
「……大丈夫だ」
誰に言うでもなく、そう呟いた。
言葉にした瞬間、
少しだけ安心できた気がした。
当日の進行を継続する。
移動イベントを開始。
世界は稼働中。
特記事項は――
ない。




