第一話「特記事項なし」
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勇者は、その日も森に入った。
森は城から半日ほど歩いた場所にあり、道も整っている。
数日通い、魔物の出現数は安定していると分かった。
危険度は低い。
勇者は剣を抜き、現れた魔物を斬る。
魔物は特別な抵抗もせず、倒れた。
しばらく進むと、また同じ魔物が現れる。
勇者は同じ動作を繰り返した。
倒し、進み、倒し、進む。
特筆すべき点はない。
『この辺りも大分倒せるようになったかな…』
魔物は素材を残し、勇者はそれを回収する。
装備の損耗は軽微。消耗した体力も、休憩を挟めば回復する範囲だった。
城の住人から聞いた話では、この森には以前より魔物が増えているらしい。だが、増えたといっても体感できるほどではない。討伐依頼が出るほどでもなく、困窮している者もいなかった。
世界は問題なく回っている。
勇者は無言で歩き、無言で剣を振る。
一定数の魔物を倒したところで、勇者は一度引き返した。
今はそれ以上進む理由はなく、危険を冒す必要もない。
森を出ると、空は晴れていた。
異変は見当たらない。
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その頃、城では魔王が知識を与えられていた。
城の奥、閉ざされた部屋で、魔王は言葉と概念を順に受け取っていく。世界、勇者、人間、魔物。どれも理解可能な情報だった。順序も正しい。
説明役の老人もとい執事は淡々としており、特別な感情を見せることはない。質問は不要だった。魔王は与えられた通りに理解している。
外では魔物が生まれ、配置されている。
新たに生み出された魔物達。
新しい魔王が誕生したことは、世界にとって異常ではない。
勇者が旅に出たことも、
魔王が城に在ることも、
すべて予定通りだった。
その日の終わり、勇者は野営を行い、魔王は休止状態に入った。
世界は次の進行に備える。
特記事項はない。




