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崩れてゆく世界の中で  作者: 鷹江 梨華
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第一話「特記事項なし」

---------------------


勇者は、その日も森に入った。


森は城から半日ほど歩いた場所にあり、道も整っている。

数日通い、魔物の出現数は安定していると分かった。

危険度は低い。



勇者は剣を抜き、現れた魔物を斬る。

魔物は特別な抵抗もせず、倒れた。


しばらく進むと、また同じ魔物が現れる。

勇者は同じ動作を繰り返した。


倒し、進み、倒し、進む。

特筆すべき点はない。


『この辺りも大分倒せるようになったかな…』


魔物は素材を残し、勇者はそれを回収する。

装備の損耗は軽微。消耗した体力も、休憩を挟めば回復する範囲だった。


城の住人から聞いた話では、この森には以前より魔物が増えているらしい。だが、増えたといっても体感できるほどではない。討伐依頼が出るほどでもなく、困窮している者もいなかった。


世界は問題なく回っている。


勇者は無言で歩き、無言で剣を振る。


一定数の魔物を倒したところで、勇者は一度引き返した。

今はそれ以上進む理由はなく、危険を冒す必要もない。


森を出ると、空は晴れていた。

異変は見当たらない。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


その頃、城では魔王が知識を与えられていた。


城の奥、閉ざされた部屋で、魔王は言葉と概念を順に受け取っていく。世界、勇者、人間、魔物。どれも理解可能な情報だった。順序も正しい。


説明役の老人もとい執事は淡々としており、特別な感情を見せることはない。質問は不要だった。魔王は与えられた通りに理解している。


外では魔物が生まれ、配置されている。

新たに生み出された魔物達。


新しい魔王が誕生したことは、世界にとって異常ではない。


勇者が旅に出たことも、

魔王が城に在ることも、

すべて予定通りだった。


その日の終わり、勇者は野営を行い、魔王は休止状態に入った。

世界は次の進行に備える。


特記事項はない。

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