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崩れてゆく世界の中で  作者: 鷹江 梨華
33/38

第三十話 「未定義接触」

勇者は、森を出ようとしていた。


道に異常はない。

天候は安定。

危険は検知されない。


そこで、足が止まった。


理由は不明。

身体が、ほんの一瞬だけ進行を中断した。


――影があった。


道の先に、竜人が立っていた。


大柄な体躯。

腰の大剣。

片方だけ折れた角。


威圧はない。

敵意もない。


ただ、そこに立っていた。


沈黙。


勇者は、剣に手を伸ばしかけ――

途中で止めた。


相手は動かない。


竜人は視線だけを向けている。

それ以上の情報は発信されていない。


沈黙が続く。


勇者は、言葉を選ぼうとした。


だが、口が動くより先に

胸の奥で微かな違和感が生まれた。


(……知っている?)


違う。


(……昔、どこかで?)


違う。


記憶ではない。

思考でもない。


ただ――


“何かを思い出しかけている感覚”だけがあった。


理由は分からない。


竜人が、わずかに瞬きをした。


それだけだった。


攻撃ではない。

警戒でもない。


ただの、生理的動作。


それでも勇者は

一歩だけ、後ろへ重心を移した。


恐怖ではない。

回避でもない。


「距離を取る」という

()()()()()()()()()()()()()


――意図していない。


勇者は、理解が追いつかないまま

一瞬だけ息を止めた。


(……今のは、僕の意思?)


竜人は、口を開かなかった。


呼吸は静か。

身体は微動だにしない。


それでも、その沈黙は


“何もしていない沈黙”ではなく


()()()()()()()()()()”だった。


風が通り抜ける。


勇者は、わずかに視線を伏せた。

問いかけようとした言葉は、形にならず消える。


代わりに――


「……失礼します」


自然に、そう言っていた。


言葉の選択に違和感があった。


もっと違う言い方を

自分は選ぶはずだった。


(今……僕は、なんて言った?)


勇者は、そのまま通り過ぎた。


振り返らない。


竜人は、最後まで動かなかった。


勇者の背が見えなくなってから

ほんのわずかに、指先が強張った。


声は出さない。

出す必要は、まだない。


ただ一つだけ――


「……あれが“勇者”か」


心の内で、

言葉にならない輪郭だけが生まれつつあった。


しかし、それはまだ


()()()()()()()()()()


世界は稼働中。


進行は予定範囲内。


特記事項は――


未検出。

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