第二十八話 「休息中の揺れ」
その日は、依頼を終えてから
早めに宿へ戻った。
作業は短時間で済んだ。
危険もなく、問題もない。
世界の進行は正常だった。
勇者は装備を外す。
剣を置き、
外套を畳み、腰を下ろす。
そのとき、気づいた。
――まだ、震えている。
依頼は終わっている。
作業も、移動も、全部。
「……もう、止まっていいはず、だよね」
小さく呟いて、
そっと手を握る。
力は入る。
震えは、止まらない。
胸の奥も、重たいままだった。
痛みではない。
けれど――
(この感じ、また……)
言葉にしようとして、
やめる。
胸の奥が、ゆっくりと軋んだ。
窓の外は静かだった。
通りの音も、
誰かの話し声も、遠い。
この部屋には危険はない。
緊張も、戦いも、何もない。
それでも、震えは消えなかった。
「おかしい……とは、言えないか」
自分に向けた言葉は
途中で細く途切れる。
思考はそこで引っかかり、進めない。
理由はわからない。
ただ――
進んではいけない場所があるように感じた。
「……休もう」
勇者は息を整え、
ベッドに横たわる。
目を閉じる。
呼吸は落ち着いている。
――手の震えは、そのままだった。
(終わったのに)
(何もしていないのに)
胸の奥の重さは
深く沈んでいく。
痛み、というほどではない。
けれど、
(ここだけ……苦しい)
そう思ったところで、
意識は静かに落ちていった。
その夜、世界は安定していた。
報告される異常は、何一つない。
当日の進行を終了する。
勇者は休息状態に入る。
震えは
微弱なまま、継続。
特記事項は
ない。




