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崩れてゆく世界の中で  作者: 鷹江 梨華
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第二十三話 「応答遅延」

勇者は、依頼を受けた。


昨日とは別の人間だった。

内容は似ていた。


魔物の出現。

通れない道。

助けてほしい――


言葉は静かだったのに、

胸の奥だけが少しざわついた。


勇者は、息をひとつ吸う。


「……任せてください」


口が、先に動いた。


声が耳に届くまで、

ほんの少し時間がかかった気がした。


(今、僕は……)


なぜ、その言葉を選んだのか。

理由を探そうとした瞬間、思考が滑った。


足はもう、依頼主から離れていた。


歩く。


石畳から土道へ。

視界の奥まで同じ色が続く。


初めて通るはずの道だった。


それでも――


(ここを進むんだ、って……知ってる)


迷いはなかった。

地面の起伏、分岐の角度、視線を向ける位置。


どれも「正しい」気がした。


正しさの理由は、分からないまま。


風が頬を掠める。

呼吸が一定になる。


やがて、魔物が現れた。


一体。

動きは鈍い。


勇者は剣を抜き、踏み込む。


刃が触れた瞬間、

手応えを予測していた自分に気づく。


予測は、外れなかった。


魔物は倒れ、素材だけを残す。


勇者は手を止め、しゃがみ込み、

指先で草を押し分けた。


見覚えのある感触。

同じ色。

同じ重さ。


(……そうだ。この結果も、知ってた)


いつから知っていたのだろう。


ここに魔物が出ることを。

こうして倒れることを。

依頼が無事に終わることを。


考えようとした瞬間――


「本当に……ありがとうございました」


声が、割り込んだ。


依頼主が深く頭を下げていた。

勇者は一瞬まばたきをしてから、口を開く。


「……良かったです」


自分の声が、少し遅れて胸に落ちた。


意味は、後から理解した。


報酬を受け取る。

金額は妥当。

確認の必要はない。


歩き出すと、足取りは自然に整う。


(これで、何件目だろう)


数えようとして、指を折る前にやめた。


数えなくても、

次が来ることだけは分かっていた。


町に戻る。


人の声、靴音、生活の音。

何も変わらない。


誰もおかしいとは言わない。


部屋に戻り、装備を整える。


刃こぼれはない。

手のひらに残る感触も、薄い。


勇者は、小さく息を吐いた。


「……僕は、強くなっているのかな」


問いは声にならず、

喉の奥でほどけて消えた。


それでも――


次の依頼を受けることを、

もう知っている気がした。


当日の進行を終了する。

世界は稼働中。

特記事項は

ない。

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