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崩れてゆく世界の中で  作者: 鷹江 梨華
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第二十二話 「応答」


勇者は、依頼を受けた。

宿の一階。

昼前の時間帯。

受付の前で、

一人の男が頭を下げていた。


――――


「……助けていただけると、聞きました」

声は落ち着いていた。

切迫している様子はない。


――――


困っている。

危険がある。

魔物がいる。

内容は理解できた。


――――


勇者は、返事をしようとした。

喉に言葉が上がる。


――――


一拍、遅れる。


――――


「——大丈夫です。

引き受けます」

少しうわずった自分の声が聞こえた。


――――


少し遅れて、

意味が追いかけてきた。


――――


(……今の言葉は、

 今、考えて言ったんだよね?)


――――


胸の奥で

小さな違和感が動いた。


――――


依頼主は頭を下げる。

「ありがとうございます。

本当に、助かります」

自然な流れだった。

不審な点は見当たらない。


――――


勇者は頷いた。

頷いた理由を、

一瞬、思い出せなかった。


――――


指定された場所へ向かう。

道は分かりやすく、

分岐も少ない。


――――


足取りに迷いはない。

初めての道のはずだった。


――――


(……なのに、

 曲がる場所が分かる)


――――


知らないはずの景色が、

知っているもののように感じられた。


――――


現地に着く。

魔物は、一体だけ現れた。

動きは鈍く、

危険度は低い。


――――


剣を振る。

倒れる。


――――


想定内。


――――


それでも、

戦いの手応えより

「ここで、戦ったことがある」

という感覚の方が

先に浮かんだ。


――――


素材を回収する。

破損はない。

消耗も少ない。


――――


依頼主が再び頭を下げた。

「……無事に通れるようになりました。

お礼を受け取ってください」


――――


勇者は、返事をしようとした。


――――


「問題ありません。

これで——」


――――


言葉が、

途中で止まった。


――――


喉はまだ

続きを言おうとしていた。


――――


思考は、

その理由を知らなかった。


――――


依頼主が、自然に続ける。

「はい。分かっています。

充分な額をご用意しています」


――――


勇者は頷いた。


――――


(……今、

 何を言おうとしてた?)


――――


考えるより先に、

手が報酬を受け取っていた。


――――


金額は妥当。

不足はない。


――――


帰り道。

勇者は、

歩調を少し落とした。


――――


同じ返事を、

何度も繰り返している気がした。


――――


同じ道を、

何度も歩いた気がした。


――――


それでも

「確かめる」

という選択肢は、

浮かばなかった。


――――


宿に戻る。

人の流れは、

いつも通りだった。


――――


勇者は装備を整える。

異常はない。


――――


ただ一つ、

胸の奥に残っていた。


――――


——さっき、

言えなかった言葉の形だけが。


――――


当日の進行を終了する。

世界は稼働中。

特記事項は

ない。

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