第二十話 「予定変更」
城は静かだった。
魔王は玉座に座り、
執事の報告を聞いていた。
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「各地の配置、異常はありません」
声は落ち着いている。
抑揚は少ない。
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魔物の数は規定通り。
行軍の痕跡も、想定範囲内。
勇者の動向についても、
変化はないと告げられた。
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魔王はしばらく沈黙した。
視線は前を向いたままだ。
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「……五柱を呼べ」
短く、そう言った。
理由の説明はなかった。
必要とも思わなかった。
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執事は一礼した。
「承知いたしました、魔王様」
わずかな間を置いてから、
踵を返す。
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呼び出しはすぐに届いた。
魔王直近・五柱は、
順に広間へ入る。
――――
最初に進み出たのは、
無骨な鎧をまとった男だった。
前線を預かる将。
言葉は少ない。
「前線に問題はない。
ただ……兵の疲労が、少し軽い」
理由は語らない。
語れる感覚ではなかった。
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次に、影を渡る女が口を開く。
遠距離の索敵と監視を担う。
「勇者の行動は予測通り。
ただ──正確すぎます」
声は静かで、揺らぎがなかった。
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三人目は、長衣をまとった男だった。
書板を手に、淡々と告げる。
「補充数は計画通りです。
しかし、算出根拠は不明です」
事実だけが、読み上げられる。
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四人目は、
古くから仕える老将だった。
低い声で、ゆっくりと言う。
「世界に変調はない。
ただ……昔の記憶と、少し違う」
それ以上は言葉にしなかった。
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最後に、一人の魔族が進み出た。
華美な装束。
微笑をたたえた顔。
「勝利は続いております。
配下の損耗も僅少。
……あまりにも、整いすぎておりますが」
声は柔らかい。
その奥に、確かな自負があった。
報告を終えると、
彼はわずかに視線を横へ流す。
執事を見る目だけが、
冷たかった。
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報告は、どれも同じだった。
問題はない。
異常はない。
予定通り。
――――
魔王は頷いた。
それで十分だった。
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「配置を、わずかに前へ寄せろ」
静かな声だった。
命令は具体的ではない。
しかし意味は伝わる。
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五柱は一斉に頭を下げた。
反論はない。
疑問も、口にしない。
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その場を後にしながら、
一人が小さく息を吐く。
誰も聞いていなかった。
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広間には、
魔王と執事だけが残った。
――――
「予定には、ありませんでしたが」
執事は口を開いた。
声色は落ち着いている。
しかし、その奥に微かな揺れがあった。
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「必要だ」
魔王は、ただそれだけを答えた。
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執事は、薄く微笑んだ。
すぐに、元の表情へ戻る。
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「では、調整いたします」
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記録は残さない。
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五柱の配置は、
静かに前へと移動した。
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世界は稼働中。
特記事項は
ない。




