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崩れてゆく世界の中で  作者: 鷹江 梨華
23/42

第二十話 「予定変更」

城は静かだった。

魔王は玉座に座り、

執事の報告を聞いていた。


――――


「各地の配置、異常はありません」

声は落ち着いている。

抑揚は少ない。


――――


魔物の数は規定通り。

行軍の痕跡も、想定範囲内。

勇者の動向についても、

変化はないと告げられた。


――――


魔王はしばらく沈黙した。

視線は前を向いたままだ。


――――


「……五柱を呼べ」

短く、そう言った。

理由の説明はなかった。

必要とも思わなかった。


――――


執事は一礼した。

「承知いたしました、魔王様」

わずかな間を置いてから、

踵を返す。


――――


呼び出しはすぐに届いた。

魔王直近・五柱は、

順に広間へ入る。


――――


最初に進み出たのは、

無骨な鎧をまとった男だった。

前線を預かる将。

言葉は少ない。

「前線に問題はない。

ただ……兵の疲労が、少し軽い」

理由は語らない。

語れる感覚ではなかった。


――――


次に、影を渡る女が口を開く。

遠距離の索敵と監視を担う。

「勇者の行動は予測通り。

ただ──正確すぎます」

声は静かで、揺らぎがなかった。


――――


三人目は、長衣をまとった男だった。

書板を手に、淡々と告げる。

「補充数は計画通りです。

しかし、算出根拠は不明です」

事実だけが、読み上げられる。


――――


四人目は、

古くから仕える老将だった。

低い声で、ゆっくりと言う。

「世界に変調はない。

ただ……昔の記憶と、少し違う」

それ以上は言葉にしなかった。


――――


最後に、一人の魔族が進み出た。

華美な装束。

微笑をたたえた顔。

「勝利は続いております。

配下の損耗も僅少。

……あまりにも、整いすぎておりますが」

声は柔らかい。

その奥に、確かな自負があった。

報告を終えると、

彼はわずかに視線を横へ流す。

執事を見る目だけが、

冷たかった。


――――


報告は、どれも同じだった。

問題はない。

異常はない。

予定通り。


――――


魔王は頷いた。

それで十分だった。


――――


「配置を、わずかに前へ寄せろ」

静かな声だった。

命令は具体的ではない。

しかし意味は伝わる。


――――


五柱は一斉に頭を下げた。

反論はない。

疑問も、口にしない。


――――


その場を後にしながら、

一人が小さく息を吐く。

誰も聞いていなかった。


――――


広間には、

魔王と執事だけが残った。


――――


「予定には、ありませんでしたが」

執事は口を開いた。

声色は落ち着いている。


しかし、その奥に微かな揺れがあった。


――――


「必要だ」

魔王は、ただそれだけを答えた。


――――


執事は、薄く微笑んだ。

すぐに、元の表情へ戻る。


――――


「では、調整いたします」


――――


記録は残さない。


――――


五柱の配置は、

静かに前へと移動した。


――――


世界は稼働中。

特記事項は

ない。

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