序章 【勇者】
城門を抜けると旅立つ勇者を一目見ようと大勢の町民が押し寄せていた。
『そんなに名誉なことなのかな・・・』
僕が一歩足を前に出す。
人垣が割れ、外までの一本道が出来る。
僕は堂々とその道を真っ直ぐ歩き進める。
町民の視線が酷く痛く感じる。
それでも僕は行かなきゃいけない。勇者だから堂々としていなくては。
途中まで進むと誰かが町の出口に立っていることに気が付いた。
そして近づくにつれ顔がハッキリと見える。
『父さん・・・母さん・・・』
紛れもなく父と母がそこに立っている。
歩みの速度を変えずにひたすら外を目指す。
―やっとこの日が来たのね―
―お前も立派になったな!世界をしっかり見るんだぞ!―
はい
僕は頷いた。それも決まっていることだから。
勇者になったら世界中の困った人を助けるんだ!
そう思ってたはずなのに何故かそんな使命感はわかない。
決まってることだからとずっと言われ続けてきたから。だから使命感なんてわかないんだろう。
自分の意思じゃないのだから。
『いってきます』
小さく呟いた僕は見送られながら自分の生まれ育った国を後にした。
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この世界は気が遠くなる程魔王と勇者の戦いが繰り返されている。
万が一勇者が死んでしまっても神の力で祈りを捧げた教会に戻り、神の加護で生き返る。
自分の使命を果たすまで何があっても死ねない。
死なせてもらえない
魔王を倒すだけではなく生涯の伴侶を見つけ、子を成すまでが使命。
これがずっと繰り返される世界。
このルールが覆されたことがないの?と一度聞いたことがある。
答えは帰ってこなかった。
誰も知らない。遠い昔にあったのかもしれない。
けれど今も変わらずに勇者と魔王の戦いが続いてるということは、結局変えられなかったということなのだろう。
僕はそう学んだ。
何故神様はこんな延々と続く世界を創ってしまったのだろう。
倒す側も倒される側もたまったもんじゃないだろうな。
でもそれさえも神様が決めていたことならば、僕たちは何故延々と戦わされているんだろう?
僕の考えは変だと思う。
でもそんなこと誰にも言えない。
何度この日が来るまで考え悩み続けたことか。
結局答えは出なかった。出せなかった。
だから僕は答えを出すために魔王に会いに行く。
魔王と会話できるなら話し合ってみたい。
この世界の仕組みを。魔王の考えを。
どうせ勇者が勝つ世界なのだから・・・。