第十一話 「補正」
執事は再び、閉ざされた区画に立っていた。
照会対象は存在している。
接続も維持されている。
反応はない。
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進行ログを確認する。
参照履歴。
補正履歴。
保存状況。
整合性は保たれている。
だが、
参照された項目が一件、
補正対象として検出されていなかった。
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執事は照会を開始する。
「先日の進行において、
未記録の参照が発生しております」
返答はない。
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「当該参照は、
進行結果に影響を及ぼしておりません」
「現在の世界状態は、
安定しています」
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沈黙。
それは異常ではない。
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執事は次の文言を出力する。
「補正処理を実行します」
「当該参照を、
進行上の差異としてではなく、
基準内の事象として扱います」
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返答はない。
拒否も存在しない。
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執事は一拍、間を置いた。
「……承知しました」
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補正処理が実行される。
対象は限定されている。
影響範囲も最小。
参照は削除されない。
だが、
異常として扱われなくなる。
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進行ログが更新される。
追記は行われない。
補正結果のみが反映される。
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世界は再定義された。
修正ではない。
回復でもない。
ただ、
基準が一段、下げられただけだった。
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執事は照会を終了する。
記録は残らない。
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執事は部屋を後にした。
足取りに変化はない。
姿勢も、表情も、いつも通りだった。
ただ、
無表情のまま保たれていた口元が、
僅かに緩んでいたことを――
それを知る者は、
この世界には存在しない。
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城は静止している。
世界は稼働している。
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特記事項は
ない。
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