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第九話 「照会」
城の奥、閉ざされた区画で、執事は一人立っていた。
誰かがいるわけではない。
対面する相手も存在しない。
それでも、
照会は必要だった。
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執事は手元の記録を確認する。
進行ログ。
整合性。
保存状況。
いずれも問題はない。
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「進行は正常です」
返答はない。
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執事は言葉を続ける。
「一部工程において、
追記が行われておりませんでした」
訂正する。
「正確には、
追記の必要性が判断されておりません」
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沈黙。
それは想定範囲内だった。
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「エラーは検知されておりません」
「例外処理も起動しておりません」
「魔王の状態も安定しています」
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一拍、間が空く。
執事は次の言葉を選ばなかった。
用意されている文言を、そのまま出力する。
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「現状、進行に支障はございません」
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再び沈黙。
それでも照会は継続されている。
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「確認します」
執事は視線を落とす。
「当該項目は、
今後も追記を行わない方針で
問題ありませんでしょうか」
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返答はない。
拒否もない。
承認も存在しない。
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執事は一拍、間を置いた。
「……承知しました」
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その言葉は、
誰かに向けられたものではない。
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照会は終了する。
記録は更新されない。
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執事は元の位置に戻った。
城は静止している。
世界は稼働している。
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特記事項は
ない。
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