転生?桃太郎 2
つづき~
真剣白羽ってこの世に誕生してはや、数十年。
俺は無事に、五体満足、立派な男子に育った。
‥感謝だ。
なんやかんやあって、桃の中に入っていた俺を爺さんと婆さんは養子?として育ててくれた。
人間である、と理解させるのに、熱い一幕はあったが。
※※※※※※※※※※
「‥ぬぅ、なにぃ⁉」
爺さんと額に一筋、つぅと汗が溢れる。
渾身の力と見事な太刀筋で繰り出された出刃包丁は、しっかりと止められていた。
もみじのお手手ちゃんによって。
にらみ会う俺と爺さん。
俺はと言えば、全身から汗が吹き出ていた。
冷や汗というやつだ。
もしかしたらちびっちゃったかも。
だって、爺さん‥
爺さんは俺の中の爺さんと概念をぶっこわし踏みつぶす、巨漢の熊のような体躯の爺さんだった。
しわしわだけど‥
髪の毛白いけど‥
爺さんがしていい眼光では無い。
「桃の中に赤子じゃと!
しかも、わしの剣を白刃どるとわ!
何奴⁉」
いや、ひょんな事から桃にインされたラブリーな子供です(はぁと)
敵では無いと、無垢な子供笑顔を浮かべると、爺さんがずざざっとあとざすった。
「なんと、邪悪な笑顔!
およそ、子供が浮かべていい笑顔ではない!
化生か怪しの類いか!
ばぁさん、下がっとれ!」
「きゃぁ(はぁと)じい様格好いいのぅ(はぁと)」
いや、あんただって、爺さん枠から逸脱してるじゃん。
俺はちょっと憤慨す。
しかも邪悪な笑みって‥。
俺は爺さんが背中に庇った婆さんをちらりとみる。
これまた、婆さん枠逸脱の婆さんかと思いきや、全く婆さんらしい婆さんだった。
ちょっと残念。
巨乳美魔女的なのかな~っと期待したぶん、ちょっと残念。
「こやつ!俺の愛しのハニーに色目を使うか!
許せん!」
目敏く俺の視線に気がついた爺さんが、突撃をかけてくる。
武器は出刃包丁なれど、ギガオックスを振り回されている気分だ。
どうする?
俺、どうする?
一刀目はまぐれで火事場の馬鹿力でしのいだか、生まれたてのももベーベーにあの熊爺とやりあう力はない。
思考が俺の思考を超えた。
生存本能に圧倒され、俺の体は俺の知らぬ間に、生きるための答えを導きだす。
「ほ‥」
「‥ほ?」
弱々しい俺の「ほ」に、爺さんはそれに続く言葉を察知し、きぐりと動きを止める。
俺はちいさな肺一杯に息を吸い込んだ。
訴えるんだ!
例え、枯れているとは言え、そこにあるであろう‥
「ほんぎゃぁぁぁぁ!」
母性本能に‼
どがっと爺さんが横にぶっ飛んだ。
小さき弾丸とかしたばぁさんは泣いている俺を優しく抱き上げると、しわくちゃ顔をニコニコさせながらあやす。
「おぉ、おぉ、元気な赤子じゃ。立派なおのこじゃ。」
吹っ飛ばされて打ち付けた頭をさすりつつ、爺さんが婆さんの肩に手をかける。
「ばぁさんよ。桃の中に潜んでおった赤子じゃよ?
物怪か化け物の類いかもしれぬ。
危険じゃぁ。
俺が捨ててくるからかしんしゃい。」
脳筋かと思いきや、まともな事を理路整然という爺。
くそっ!
負けてたまるか!
「っく。ぅあ~?あ~あ?」
俺は婆さんにあやされた体を装い、お目目をぱっちり不思議そうに開いて、完全な赤子へと擬態する。
‥ん?
擬態って‥。俺、赤子じゃん‥orz
「何を言うか!こんなに愛らしいのに。
それに、桃は元来からお釈迦様や仙人らが好んで食した、破魔の神聖な果実。
それから生まれた赤子じゃ。
悪いもののはずがあるめぇ。
きっと、励めども励めども子を授からなかった、わしら夫婦への贈り物だよ。」
婆さんがとんでも理窟をこねつつ、俺を母の目で見、熊じじぃを新妻の目で見ると、爺は陥落された。
でれぇ~と、ちょっと恥じらい頬を染める婆さんに、鼻の下を伸ばす。
「なら、婆さんに乳が出るよう、今日は念入りに揉んでやらんとな」
エロジジイ発言だ。
赤子の前でなんて不適切な男なのだ。
「きゃぁ!じい様ったら(はぁと)」
俺はなぜか真っ二つに割れた桃の中にインされる。
揺りかごなのだろうか。
目眩く愛の劇場の気配がしなくもないが、俺は幼い無垢な赤子なので、みざる。きかざる。で穏やかな眠りの世界に逃げ込み、この奇っ怪なる俺出生のちじじばばに拾われるが、ようやく幕をおろしたのだ。
※※※※※※※※※※※
懐かしい思いでの走馬灯をぐるんぐるんと回しつつ、俺は山へ芝刈りに来ている。
じいさんの仕事ではあったが、爺鬼のブートキャンプを数年前に卒業し、芝刈りは今では俺の仕事である。
「うまい、飯のためなら、えんやこらさっさ~♪」
鼻歌混じりにザクザクと芝をかる。
そんな、フレッシュピチピチのお肉な俺を狙って、山のハンターが牙を剥く。
かさり
背後の繁みが微かに揺れる
風が揺らしたのとは違う、その音とお肉認識された熱い視線に俺は鎌をしっかりと握りしめ、神経を研ぎ澄ます。
「がぅがぁ、ピョン‼」
気合いの入った声とともに、大木をも折るという、驚異のうさちゃんキックがくる。
こんなので蹴られたら、俺の頭はパグシャ‥だ。
体を低くしてかわす、が髪の毛を幾ばくか持ってかれた。
頭頂剥げになったら、と少し顔が青褪める。
ドゴッ
可愛くないクレーターを作り、うさちゃんは地面にトラップされる。
キック力が仇になったな!
にやり、と俺は笑い、うさちゃんは地面トラップから抜け出す前に、鎌を振り上げ仕留めた。
「とったど~‼」
ちょっと卑怯かもだが、弱肉強食の社会。
生きることに真摯で貪欲であることが正義である。
「ルンタルンタる~ん♪」
俺は手早く、アグレッシブであったうさちゃんを今日の夕飯に処理すると、芝とうさちゃんを担いで下山した。
※※※※※
ガッガッガ
モグモグモグ
ズルズル
俺とじいさんは夕飯をむさぼり食う。
ばぁさんの飯は最高だ。
そんな俺たちをばぁさんは、にこにこ嬉しそうに見ている。
最後のラビティの肉切れを廻り、俺とじいさんの箸が交差し、比喩ではなく火花が散る。
俺とじいさんの箸は鋼鉄性なのだ。
ギロリ、と俺を見るじいさん。
相変わらず、チビりそうな目力だ。
「こぞう、遠慮せい。俺の方が体がでかいんじゃ。容量ぶん、食うべきだ。」
「じじぃ。もうよる年波だろ?その、筋肉も食欲もおかしいよね?じぃさんなんだから、肉なんておもいものじゃなくて、もっと胃に優しいもん食えよ。」
「弱肉強食、食えるやつが食う!」
じいさんが、にやりと笑い、おれも笑う。
戦いの火蓋はきっておとされた。
ガッガッガ
ガキ、ガキン、ガキ
皿の上で俺とじいさんの箸が火花を散らす。
そのための鋼鉄なのだ!
俺とじいさんの箸の空中戦の下を、ひょいっと赤い可愛らしい漆塗りの箸が通過し、最後の肉切れをさらっていった。
しわくちゃのお口に運ばれたそれ。
それから、ゆっくり租借したあと、ニッコリと笑うしわくちゃのお口。
「ご馳走さま。」
ほこほこ笑う婆さん、最強である。
しわくちゃだが、可愛い。
マジ、可愛くてホッコリする。
「ハニー、旨かったか?」
じいさんの目尻が下がる。
「あいよ。じいさんが、熊から横取りしてとってきてくれたら蜂蜜のおかげて、タレにこくができたわい。ありがとね。」
「ばぁさんかぁさん、肉は?肉は旨かった?」
俺だって誉めて欲しい‼
「あいよ。よくしまったウサギの肉じゃった。芝刈りついでに肉をとってこれるなんて、流石じいさんとわしの息子じゃ。ありがとさん。」
仏様の笑顔で俺たちを誉めたあと、婆さんは般若の顔になる。
「「ぅきゃ‼」」
俺とじいさんの悲鳴である。
「だけんども、行儀がなっとらん!
合わせ箸は行儀が悪いと言うたろう!
この脳筋どもが!
タレがあっちゃこっちゃに散って、掃除する身にもなってみんしゃい‼
二人とも反省じゃ‼
今晩は、夜空の下、反省じゃ‼」
そして、婆さんに追い出された俺たちは、夜空の最も美しい日本人の坐姿で男子会を開いている。
冷たい風、足の痺れを加速させるがそんな事はおくびにも出してはならない。
男らしく平静な表情で
「っ~、てててぇ。よっせい。」
とか考えてたら、じいさんが、足を擦りながら胡座になった。
堪え性の無いじじいだ。
「まだ、5分もたってないぞ。」
「おれは、じじいぞ?膝や関節が痛いじじいぞ?」
都合のいいときだけじじいになるじじい。
膝が痛いじじいは、毎日山をかけ登ったりはしない。
俺も、息をつくと足を崩した。
「こらっ、若者。もっと頑張れ。」
「足の形が崩れちゃう、お婿に行けない。」
しばし、足を擦りながら大小二人の男は夜空を見上げていた。
男同士、沈黙で語るのだ。
余計な言葉はいらない。
「おい、こぞう。沈黙が重いぞ!なんか、面白いことしゃべれよ。」
この、くそじじい‥
ロマンの欠片もわかってねぇ。
ついでに、小悪魔女子の無茶ぶりかよ。
「‥面白いことね~。
おう、そういやじじぃよ。
最近、アニマルたちがやたらアグレッシブじゃねえ?
今日のウサギなんて、すんげぇキックで、しかも俺をとるきマンマンだったぜ?
じいさん、山でアニマル相手にブートキャンプでも開催してんの?」
そう。ここ数年だ。
ここ数年で、動物たちはやたらアグレッシブになったのだ。
うさちゃんなんて、俺の足音一つで、ぴょんぴょ~んと逃げてっちゃうラブリーな生きものだったもの。
じいさんはちらりと俺を見ると、ふぅっと南の方を睨み付けた。
「ようやく気がついたか。
えらく鈍感なやっちゃと思ってたが。」
いや、じじいがこれなら、あれはあれで、ありかと思ってたんだが。
「あれはな、実は兎ではない。おに兎なのだ。」
「?
激、うさぎってこと?」
「何でやねん!」
どがっ
じじいの激しい突っ込みに俺はふっとぶ。
「何しやがる!じじい!」
拳を握りしめた俺に、じじいは軽く咳払いをすると、いやに真剣な顔で自分の前の地面を、トントン、と叩いた。
珍しい、じじいの真剣な表情に、俺は拳を下ろすと、じじいの前に腰を下ろす。
「言葉のとおりじゃ。
お前は知らんがなぁ。
ここより、はるか南方に鬼が巣くう島がある。
鬼ヶ島じゃ。
あそこは鬼がうようよいてのう。
モラル0、オンリー闘争本能の奴らは、わしら人間を良いカモにしとるんじゃ。」
じじいを人間枠に入れていいものかは疑問だが、一応じじいの真剣な表情に敬意を表し頷いておく。
「わしが若い頃は、奴らかなりブイブイ言わせとってなぁ。
女浚われるわ、食い物、財宝奪われるわで世間は荒れに荒れとった。
そこでなぁ、俺と俺のダチで奴らを倒しに行ったんじゃ。
その残党が、増えて、また活発化しとるようじゃ。
その証拠に、鬼ヶ島から鬼な動物たちが溢れてきとるんじゃ。
出てこれんように、橋も船も港も破壊したのに、再建しやがったな。
次ぎは本体の鬼がくる。」
「まじかよ。
なんで、とどめ指しとかなかったんだよ。」
俺のうんざりした声音に、じじいは空を見上げると深く息をすった。
俺は、生きとし生けるもの、的な息子を諭すじじいの言葉を予想した。
「出会ったんじゃ‥」
「?‥なにに?神様的なもの?
じいさんは星空を見上げ頷いた。
「女神だ、
ばあさんに出会い、それから鬼なんぞどうでもよくなったんじゃ。
バァさんは、いいとこの嬢でな。
かっさらったわ。鬼の仕業に見せかけて。
したら、バァさん家の奴らと、街のバァさんファンたちが、鬼ヶ島への道をぶっ壊してなぁ。
いい加減、鬼叩きにあきとったし、丁度良く、お陰で褒賞金もたんまり貰えて、俺の人生happily ever afterよ。」
とんでもない、じじぃだった。
欲望のままに生きる、とんでも脳筋だった。
「まぁ。ここ僻地だし、俺もじいさんも困らん程度に身を守れるから、俺には関係無いか。
じじぃのくだらん惚気話を聞いただけ損だった。」
俺は悲しくなって、お星さまに呟いてみた。
「何を言うか!桃太郎!チャンスだろうが!
頭の足りんやっちゃな。」
脳筋に言われたくない。
じじぃは俺のジトメを無視して、いつの間にか立ちあがり、拳を握りしめて続ける。
「共通の(そこそこ手こずるが、明らかに勝てる程度の)敵を前に、生まれる冒険、友情、そして運が良ければ恋。
恋人はおろか、友達すらいない。
俺とばあさん以外と話したのいついらい?
宅配の人と、『サインでいいですか?』って話したよ、先週‥って
お前、ボッチ過ぎるぞ!
寂しすぎるぞ!
色々何も得ないままに失いまくってる!
今がチャンスじゃ。
幸い俺のブートキャンプのお陰で、鬼ごときには舐められん筋肉だけはついた‼
鬼をボコるのを口実に、仲間と称しての友達作りに旅立つのじゃ‼」
じじいの渾身の演説は俺の胸にすがんとブッササリ、俺は項垂れた。
※※※※※
何の因果か、桃から生まれて、はや十数年。
色々ドラマはあったものの、じいさんとバァさんは俺を受けいれてくれた。
村の奴らにも、自分等の子供だと紹介してくれた。
しかしだ。
じいさんはあれだが、ばあさんは普通のラブリーなばあさんである。
流石に、産んだんだ~おめでとう~とは、ならない。
どうやって、どこからやって来たんだい、このベイビー、となるのは普通の反応だ。
村人はいたって普通のプロセスで、そうきいた。
ばぁさんは、俺の将来を慮り流石にオブラートに包んで話そうとした。
「いんやね~、川で洗濯しとったら、どんぶらこっこと流れてきよったんよ。」
へぇ~、そりゃ豪気なこって
と村人が相づちをうち、それでもって俺と言う存在が村にすんなりうけいられようとしたそのとき。
じじぃが言った。
「なんとなぁ、でっけぇ桃に入って流れてきたんだよ!
ほれ、お前らが食ってるそれな。
継ぎ目もなんもねぇ桃ん中に子供だぜ?
しかも、割ろうとした俺の出刃を白羽取りしやがってょぉ。
ばあさんが止めにゃ、俺が成敗しとったわ。」
村人たちは、目の前の皿に乗せられた、ジューシーな果実からやや身を離した。
勿論、俺がインしていた、尊い果実である。
既に、意地汚く食していた奴は、口を抑え、青い顔をしている。
じじいは凍てついた空気をまるで読むことなく、続けた。
「まぁ、奇っ怪な産まれではあるが、ばぁさんが育てたいって言っとるし、俺も、こいつの根性は気に入った。
なんせ、俺とメンチ切りあって、チビったり引きつけ起こしたりしないガキなんだぜ?
どう見ても、普通のガキじゃねぇよ。
つぅわけで、奇っ怪な産まれではあるが、今日からは、こいつは俺の息子だ。
宜しくしてやってくれや。」
こんな事を言われて、宜しくできる一般人がいるだろうか。
いや、いない。
そして、じじいよ‥
俺はじとめでじじいを見上げた。
じじいは俺の視線に気がつくと、心得たとばかりにニヤリと笑う。
「そうだよな。息子なんだから、名前が必要か。
う~ん。
桃から生まれた奇っ怪な産まれにあやかって‥
桃太郎!
これから、お前は桃太郎だ。
皆、改めて宜しく頼むわ。」
じじいよ~((怒))
お前、奇っ怪なって何度言うねん‼
しかも、それにあやかってって!
名前言う度、俺のちょっと怪しい誕生秘話が確認されるじゃん!
セピア色の思い出にならないじゃん!
うん、とも、すんとも言わない、凍りついた村人に、じじぃがギロリと視線をやる。
「宜しく頼むわ」
さっきよりも低めの声で、凍りついた空気を割るようにじじいの声がひびく。
善良な村人たちは、びくりっとなると、赤べこ人形のように頷き始めた。
そして、この瞬間、じじぃという存在のせいで石は投げられないが、刷り込みのようにじじいの告げた「奇っ怪な産まれ」のせいで、けして心を通わせ会う友人の出来ない、俺のボッチライフが確定されたのだ。
***************
空を見上げた。
満天の星空だった。
この、 ボッチ状態は誰のせいか。
それを糾弾するとこは容易い。
じじぃを見た。
じじぃには見えない、唯我独尊像のようなじじいが、サムズアップしている。
糾弾したとして、実弾すら弾きそうなあのボディーに、数十年のボッチライフで鍛え上げられた、単語脆弱な俺の言葉のbulletは聞くはずもなかろう。
再び空を見上げた。
数えられぬ無数の星。
それは、 ここを旅立てば出会えるかもしれない、俺の友人(未定)を約束しているようだった。
この星がダメならあのほしも、あっちのもあるよ、試してみろよ、と言っているようだった。
そして俺は決意した。
「行くよ、俺。」
じじぃが俺の決意を秘めた目を見てしっかりうなずく。
桃太郎、行きます!
友達作り、もとい鬼退治へ‼
つづく~