理不尽、とそのほか二人が想うモノ/Crazy theater of laughing cat
一章最終回ですっ!
ありがとうございますっ!!
ふんふんふ〜ん♪
小さな歌が聞こえる
鼻歌と呼ぶにはいささか美しすぎるその声は、誰もいない夜道を駆けていた
ふと耳を澄ませば、大通りから微かに聞こえる街の喧騒
そんな喧騒とは対極なところに、喧騒そのものな人がいた
その人物はあらかた王宮の食べ物を制覇した後、一人夜街へと繰り出しているのだった
♪〜♪〜〜♪〜♪〜〜〜♪
今度は鼻歌ではなく、メロディのない、音程だけの歌だ
とても美しく、儚く、泣きたくなるような、そんな優しい音色だ
この歌の歌詞はどんな感じだったか。
もう見ることのない記憶を丁寧に丁寧に、引き上げていく
確か、月の姫が太陽の王を想う、そんな歌だった気がする
わたしがまだ、“ニンゲン”だった時の、甘くて、優しくて、綺麗なキオク
懐かしさと、切なさと、“ナニカ”を共に、丁寧に封をする
♪〜〜♪〜♪〜♪〜〜〜♪
歌いながら適当に散策をしていると、小さな噴水公園へとたどり着いた
ここからもう、喧騒は聞こえない
完全な独り、ただ水が流れる音を聞きつつ彼女は歌う
シオンのような、魅了するような美しさはない
ただひたすらに、痛いほどに伝わる悲しみの色
知らず識らずのうちに体が動いていた
故郷の歌、故郷の踊り、なぜこんなにも昔を思い出すのか。
彼女は思う、
あの巨大な亀の、“背負う者”の瞳に何かを感じたのかもしれない。
わたしらしくないとも思う。
そして、わたしだけが — — — — — のだと、まざまざと見せつけられる気がする。
本当にわたしらしくない。
こんな感傷に浸っている暇があるならとも思う。
でも、だからこそわたしは止めないだろうとも思う。
そうしてわたしは、感傷を歌い踊る
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「あれ、リズ?
あの子どこ行ったんだろう?」
このボク、剣聖シオン・スレイヴは何時もの様に、
手間のかかるあの子を探す
さっきまでケーキを食べていたはず。
南方でしか取れないパインという酸味の強いフルーツ、
それを使ったさっぱりとしたケーキだ
会場を見渡す
ついでに五感を戦闘用に切り替え、索リズする
やっぱりいないな。
抜け出しちゃったかな?
まぁ元々柄じゃなかったんだけど。
それでも、いないのは少し寂しい。
ボクの可愛らしい友人であり、ボクの生きる目標をくれた人。
近いところにいて、到底たどり着けないほどに遠い人。
世界で一番、“ありがとう”を言いたい人。
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俺は国王だ、国王なんだ。
この国の最高権力者なんだ。
この国で一番偉いんだ。
この国の最高権力者にして、このパーティーである意味最も注意を引く人物
無論注意を引くのは肩書き以前の問題だ
椅子に座って脱力し、燃えカスの様になってしまった原因は二人の女性なのだが、
それをいうと同じ目に合いそうで怖い
「あ、あの母さま、へいかが死んじゃってるよ?」
純粋な子供は異物に対して指を差す
「こらっ見てはいけません。
陛下はお疲れだからそっとしてあげなさい。」
頭を撫でて諭す母親
「は…い?
わかりました母さま。」
「いい子ね、ほらあそこに公爵夫人様がいらっしゃるわ。
挨拶して来なさい。」
「は〜い。」
……。
お、俺は……。
……。
…………。
俺は国王……なんだよぉ。
ぐすん。
そこには普段の覇気はなく、ただの燃えかすが残っていた
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歌う
踊る
歌う
踊る
歌って踊って
踊って歌って
ラストスパート 一、二、三
わたしは何がしたいのだろうか?
……そんなものは決まっている。
ではなぜ今更に、こんなことをしているのか。
わからない、わからない。
不意に風が吹く
そして、響く拍手
まるで最初からそこにいて、最後までいたかのような拍手だった
「やぁエミリー、ご機嫌麗しゅう?」
その男はニタニタと、
そうニタニタと、嗤って言った
「やっぱりお前か、クソ猫。」
こちらも、初めから分かっていたかのように返す
「酷いじゃないか。
僕とエミリー、君との仲じゃないか。」
男の顔は見えない
かろうじて、白いシャツ、灰のパンツに黒のナポレオンジャケットを着ているのがわかる
「その名前を気安く呼ぶな。
その名前を呼んでいいのはこの世で三人だけ。
殺すぞ?」
さっきのウザい奴に向ける無表情とは打って変わって、
彼女の無表情には激情が込められていた
「あぁ怖い怖い。
僕は戦う力がないんだよ?
君が魔法を一発打っただけで僕は死んでしまう。
あぁなんて非力かな、無情かな。」
さめざめと嘆いている、風を装う男
「おいクソ猫、今度は何を企んでる。
さっさと吐け、今すぐ吐け、キリキリ吐け。」
この目障りな男を今すぐ殺したい、がそれはまた後でだ。
今はこいつが何をするのか、何を壊すのか、
それを知らなければ。
「今回はね、招待状を届けに来たんだ。
夢幻ノ不思議世界が主催する、面白おかしい狂演劇。
主役は、
君さ。」
ニタニタと、
ニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタニタ
嗤う猫
「面白おかしい狂演劇の、
始まり始まり。」
最後にそう言い残して、消えた




