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暇人な付与術師《エンチャンター》  作者: 嘘つき妖精
[理不尽を体現した女]
25/36

理不尽、辟易する

戦場に歌が流れる


しかしその歌は、

憎悪と憤怒と慟哭と後悔と、

形容のし難い負の感情を織り交ぜた、

復讐と嘆きの歌


その声は、

戦場の北部、

血肉飛び交う戦中から流れて居た



絶歌(ぜっか)(ひめ)

それが声の主、

剣聖シオン・スレイヴが冠する称号

そして彼女の“花”は、【マリーゴールド】

絶望、悲嘆、

そんな彼女の扱う魔法は、

『歌』

未だかつて二人しか見つかって居ない、

希少な魔法、そのうちの一人

先代の歌魔法は、

人を癒し、希望を与え、生を尊ぶ

そんな魔法だったらしい


そう、“だったらしい”……だ



戦場に流れる絶望の歌は、

生を恨み、死を嘆き、過去を悔い、(おの)を激怒する、

死者の歌

心を侵し、殺し、踏み躙る

狂気に染まった成れの果て

“ソレ”が戦場にて舞って居た



やっぱ上からと下からじゃあ全然違うねぇ。

やっぱ近くで表情とか見れる分、迫力が桁違いだよ。

地上へと降り立ったシオンはただひたすらに敵を屠る

足を止めずに右、左、下

視界にある全てのモノを、

時に断ち切り、

時に踏み潰し、

時に足蹴にし、

時に投げ飛ばす


こう数が多いと撃ち漏らしやすいなぁ。

普通の魔法はボクには使えないし……。


歌魔法は天性の才能

故に、

保有する魔力も、

魔法を扱う力も、

全て既存のものとはかけ離れている

だから、

希少魔法を使う者は既存の魔法を使えない

既存の魔法を使う者は希少魔法を使えない



魔獣は城壁へと一心不乱に逃げている。

う〜ん、大方魔獣の真ん中辺りまで切り込んできたかな?

そんな思考をしながらもシオンの体は高速で動いている

両断し、心を抉り、首を断つ

彼女の動きは、どこか人を魅了するような、

人外の領域へと足をかけている

艶やかな黒髪の美女、

見る者の心を吸い込むような刀、

そして、

その両方を濡らす紅い、大量の血液と魔獣の(むくろ)

その様は、

死体と踊る幻想の美


そろそろ頃合いかな?

そう思考して(おもむろ)に、その唇を開ける

先程までの歌は、どこか悲しい曲だった

しかし、今紡がれているは激情の歌


私を殺してしまったあなた

あなたは私をどう思う?

私はあなたを殺したい

全てを殺したあなたを殺したい

どうして殺せばいいかしら?

絞殺 毒殺 刺殺 銃殺 爆殺 氷殺 感雷 水死 凍死 焼死 衰弱 餓死

どうして殺せばいいかしら?


一つ一つの言葉に、

憎悪が込められている


う〜んやっぱ効果薄いなぁ。

目の前に飛び込んでくる魔獣を細切れにしつつ思う

辺りを見渡すと、魔獣の行軍が少し遅いように見える

歌魔法はそれ自体に直接的な殺傷力は無い

だが、その真骨頂は、

聞いた者の精神に直接作用するということだ

現に魔獣の群れの中には必死な表情なのだが、

他の魔獣とは違い、恐怖に駆られているものもいる

けどなぁ、元から興奮してると効果が薄いのがネックだよホント。

本来なら精神を破壊し、絶命させる事すら容易い


そういやリズはどうしてるかな?

……どうやってあの子をイジメようか?

っと無駄な思考してるのはヨクナイ。

しっかしさっきのヤバいやつどこに行ったんだろ?

エミリーが魔力を供給し、シオンが歌う事で発動させた災厄の魔法

それをバラバラに斬った相手のことを思う

少し見えたけど赤かったな〜。

赤装束の人間が巨大な剣で斬り飛ばしていく姿を、

シオンは視認していた

何処の誰か知らないけど、アレを斬ったオカエシしないとイケないかな?

考えつつ、

切る(きる)


斬る(きる)


伐る(きる)


剪る(きる)


截る(きる)


KILL



血に染まりながらも、斬り踊る



—————————————————————————————————————


う〜わあいつどんだけ斬ってんだよ。

マジで鬼じゃん。

そう言いつつ城壁からシオンを見る

上下左右縦横無尽に動く様は踊っているかのようだ

死体と血で戯れるシオン……笑えないな。

シオンの黒い笑顔を思い出しつつ次の魔法を準備する

「付与魔法:《ロストエア》、発動

形状操作[酸素壁]」

そう呟く。

瞬間

城壁から十メートル離れた範囲に不透明の壁ができる

前に、魔獣を殲滅した時の壁バージョンだ

純酸素の壁と無酸素の二重壁に突っ込んだ魔獣は、

急激な酸素濃度の変化によって全て平等に死が与えられる

ビクビクしながら城壁に突っ込んでいく姿はなんというか……

ある意味壮観?だ


う〜わ相変わらずこの魔法エグいな。

あそことか泡吹いてビクって跳ねたんだケド。

ふむふむ、生物に対しての殺傷能力十分っと。

いい感じにデータ取れてんなぁ。


そう思考しつつ付与魔法を維持しているのだが、

本来、城壁の一角を覆う魔法を維持するなんて芸当は不可能

それを欠伸しながらこなすのだから、

彼女がどれだけ凄いのかが見て取れる


それにしても眠いわぁ。

ただ待機してるの眠いわぁ。

さっきから欠伸止まんないわぁ。

んでもここで寝るわけには……っは!

今ちょっと寝てたような?

というか若干下から殺気が来てるのは何故かにゃ?

ジーーッとこちらを見つめる視線を発見する

よくよく見ると先程から忙しなく動いているシオンが……

って待て待て、今の見えてたのか?

薄ら寒い物を背筋に感じた気がするのは何故だろう?

黒い笑顔で迫ってくるシオンの顔を幻視する

ワタシ、オシゴト、ヤッテル。

ネテナイヨ?

ホントダヨ?

ワタシ、ウソ、ツカナイ。

ホントホント。

現実逃避しながら戦場を見渡す

終わりのない魔獣の群れに辟易してしまうのであった

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