理不尽、意外な一面を見せる
パーティー【天使の鏃】は唖然していた
何故かと言うと、
目の前にテーブルクロスを引いた机がポンっと出てきて、ティーセットが湧いていた
そして、そのすぐ後に、黒い小さな球体が生まれたかと思うと、
いきなり人くらいの大きさに膨れ上がり、
綺麗な銀髪を手で押さえた美しい女性が、こうニュッと出てきた
その女性は、何事も無かったかの様に紅茶の用意を始めていった
これが真相なのだが、まだまだ四人が立ち直るのは時間が掛かりそうだ
「ミーレ、紅茶はまだか?」
「少々お待ちを。
その間に、このクッキーをお食べください。」
「これはっ!
あの店のもので間違いないな?」
目の前に置かれた香ばしい香りのするクッキーを、
爛々とした目で見つめる彼女に、
「はい、かの有名なブランシュ・ノワールのクッキーで御座います。」
「....半分以上残せよ。」
一瞬首をかしげた様子だが、
すぐに察したのか席に着きクッキーに手をつける
それを確認したメアリーも一つ手に取り、両手で持ってポリポリかじる
まるでリスの様だが、本人は気づいていないのかそのまま食べ続けている
しばらくした後、硬直が無くなったクラウスが問う
「さっきのなんですか?」
馬鹿みたいな質問だが、それくらいの事が起こったのだろう
「ん?
さっきって.....もしかして家具にことか?」
「えぇ。」
「ただ単に呼び出しただけだ。
ミーレの事は....本人に聞け。」
「私は、お嬢様のお屋敷で家令をしています。
ミーレと申します、以後お見知り置きを。」
優雅に一礼した姿は作法がなっており、
平民の彼らはどこぞの貴族かと思ってしまう
「ノーナさんは、貴族様か何かで?」
「いえ、私はお嬢様に拾われた身。
作法も家事も全て、お嬢様に教えて頂きました。
お嬢様は、
私の最高の主人で御座います。」
その宝石の様な紫色の瞳でこちらを見る様子に一人赤くなるダイレンであったが、
誰もその事には気づいていない
「一体何者なんですかあなたは....。」
愚痴を漏らすその声は、当の本人には届いていない
「よしっ、腹ごしらえも済んだし帰るか。
後、眠い。」
と言って目をトロンとさせるメアリーに、
「では皆様方、私はこれで失礼しますので。
お嬢様、お願いします。」
「分かった。」
相変わらず眠い様だが、
『 送還 』
と呟くと、家具もノーナの姿も一瞬で消えた
「じゃあ帰るぞ〜。」
と言う言葉に対し、
「分かりました。」
「了解した。」
「おうっ。」
「帰りますよ〜。」
それぞれの言葉を返すと、その草原を後にする
「こんなバカみたいななエンチャンターが本当にいるのだろうか?」
その言葉は広く澄み渡る青空に掻き消えた




