Ⅶ
簡易的に手当をして貰ってはいるが、それでも傷跡がじんわりと痛い。エミーは、色んな事が起きて疲れ切っていたようで、捜索隊の一人、アンディに背負われたまま、こくこくと眠っている。
そして、捜索隊の一人である、別の男の腕の中には、白っぽい布で巻かれたものがある。――ジェリックの遺体だ。
今、彼らは村へと帰っている途中だ。エミーを保護した時、姿の見当たらなかったディムを、見つけようと、エミー達がいた周辺を手分けして探したが、何の痕跡も見つからなかった。
なので、衰弱しているエミーもいるため、まずは村に戻ろう、と捜索隊のリーダーのバストンが提案したのだ。亡くなっていたジェリックのことを考えると、ディムも恐らくは"そう"なっている可能性が高いだろう、という判断もあったからだ。
エミーは無事に見つかったが、捜索に出た彼らの表情は暗かった。
村に戻ると、残って捜索隊の帰りを待っていた皆が、入り口で集まっていた。来たぞ! 誰か背負ってる! 無事だったのか! 捜索隊の姿をみとめた彼らは、思い思いの声をかけた。
先頭にいた、捜索隊のリーダーのバストンは、皆に報告をするため口を開く。
「皆、聞いてくれ。足を怪我しているようだが、無事エミーは見つかった」
そのバストンの声を聞いて、わぁっという歓声が聞こえた。エミーの家族だ。
エミーを背負っていたアンディが、彼女を彼らへ受け渡しに行く。無事だったのね、本当に良かった、何で勝手に森に行くの。彼女の家族はそう言って、うっすらと目を覚ましたらしいエミーに、口々に話しかけている。彼女の母親も父親も姉も、その目に涙を滲ませていた。
それを見て微笑んでいたバストンだったが、ややあって、今度は声を落として重々しい口調で話し始めた。
「……それで、エミーは無事だったんだが……どうやら例の、ウルフの群れに襲われたらしくてな。……ジェリックは遺体で見つかった。ディムも、残念ながら見つけることができなかったが、その、ウルフ共のことを考えると……恐らくは……」
そう言って目を伏せた。ああっという声と共に女性が崩れ落ちた。ディムの母親だ。ジェリックの家族も、彼の遺体を受け取ると、その遺体に、啜り泣いて縋り付いている。さっきまで喜びに浸っていたエミーの家族も、村の住人も、捜索隊も皆、悲痛な表情を浮かべている。
あと半刻もすれば、日が沈むだろうか。村の人々の沈んだ表情に、これからやってくる夕焼けに向けて、眩しくなっていく太陽の光が、どこかちぐはぐで不釣り合いだった。
と、その時、呆然と村の外を見ていた男、ディムの父親が、突然村の外を指差して叫んだ。
「あ、あぁ……、あ、あれ、ディム……っ! ディムじゃないか……!?」
それを聞いた全員が一斉に村の出入り口の方を見た。そこに見えたのは――
「な、何よアレ……どうなってるの…」
「あ、ありゃ確かにディムに見えるが……」
「――何なんだアレは!」
皆が、怯えた声で叫ぶ。その場にへたり込んでしまった者、生気が抜けたような顔で涙を流す者、口を覆って目を背ける者。その中でアクセルは、その"現れたもの"を、穴が空くほど見つめて、呆けたように呟いた。
「……魔族――」