Ⅴ
ドンドンドン、と勢い良く扉を叩く音でアクセルは目を覚ました。帰宅して、持ち帰ったボアを捌いた後、どうやらうたた寝をしてしまっていたらしい。どれくらい寝入っていたのだろう。捌くのが終わったのは、おやつの時間には少し早いくらいの時間だった筈だ。窓の外を見ると、まだ陽は沈んでないようだが、あと二刻も経てば陽が沈む、そんな時間帯だった。
と、ぼんやりと考えていたアクセルだったが、再びドンドンドン、と先程より強い力で叩かれた扉の音で我に返る。アクセルは今、一人暮らしだ。自分に代わって、客に出てくれる人はいない。
「はぁーい! なになにー!?」
アクセルは、慌てて戸口に向かい、そう言いながら扉を開けた。
「あ、アクセル!」
と扉が開くやいなや、尋常ではない剣幕で、ケインと同じく同世代の友人、アンディが家に飛び込んできた。
「ど、どうしたんだよ。そんな慌てて……」
「チビ三人ここに来てないか!? ディムとエミーとジェリックの三人!」
様子がおかしいアンディの剣幕に、困惑しているアクセルを気にも留めず、彼はアクセルに問いかけた。
「いや? 誰も来てないけど――何かあったの?」
アクセルは、そう、少し身を引きながらぼんやりと答えたが、もしや何か問題が起きたのでは――、と気づき、一変して真面目な声でアンディに訪ねた。
「それが、村の中にいないみたいなんだよ。今は、村の皆総出で探してる。探し始めてからもう二刻くらいは経ってるかな……林の方はもう探したし、村中探し回ってるし、家も今一件一件確認してる。でもいないんだ、だから、もしかしたら……」
「……森に入ったかもしれない、ってことか」
「そうとはあんまり考えたくないけど……、そういうこと」
村の林はそれ程広くない。村中の人で探しているのに、子どもが林の中で遭難して見つからない、というようなことは考えにくかった。それよりも、村には周囲を囲うように塀があるが、その塀は村の出入り口で途切れており、その出入り口には特に門番もいないし、門扉だって付いていない。そこから、村の外へ出て行ったと考えるのが妥当だった。
「それで、なんだかおっかないウルフの群れが出る噂があるんだろう? だから、陽が落ちる前に森を捜索した方がいいって村長が言って、これから男何人かで森に行こうって話になってるんだ」
「じゃあオレもそれに行く。剣の腕なら自信あるし」
「うん、皆もそう言って、ついでにアクセル呼んで来いって。俺も森に行くから、支度できたら村の入り口に来て」
「オッケー、伝言サンキュな!」
そう言ってアクセルは、素早く狩りの支度に取り掛かる。
じゃあ伝えたからね、と言うとアンディも足早に家を出ていった。
アクセルが、小走りで村の入り口へと向かうと、もう既に、捜索に向かうメンバーは集まっているようだった。ディンバラの村長モーリスや、先程のアンディの顔もある。
「ごめんお待たせ!」
そう言って、彼らに急いで合流する。アクセルが来たのを確認した村長が口を開く。
「皆、迅速に捜索を行うのじゃ! もし何か手がかりを見つけたり、危険を感じたらすぐ周りの者に知らせよ! くれぐれも日が暮れるまでには森を引き上げるように!」
その村長の声にバストンがはい! と声を上げる。彼は、どうやらこの捜索隊のリーダーを任されているようだ。それから、捜索隊のメンバー各自に許可証が配られる。これがないと村の外では、単独で行動ができない決まりなのだ。森に入る全員に行き渡ったのを確認して、村長は掛け声を掛けた。
「行き渡ったな? では皆、心してかかれ!」
男たちは、それに自分たちを鼓舞するように、おお! と声を上げ、森へと向かった。