Ⅹ
アクセルが、広場で寝転がったまま目を閉じると、瞼に浮かんでくるのは、この村で過ごした思い出ばかりだ。思い出の中の、村の皆は、さっきのあの剣幕が嘘のような、優しい顔ばかりしている。
一人で暮らすことになった時、皆が代わる代わるに様子を見に来てくれた。狩りで、大人に混じって獲物を仕留めると、皆で背中を叩いて、オレの頭をぐしゃぐしゃにしながら褒めてくれた。子供達だけで悪戯をして、全員揃ってゲンコツを食らった。涙が出るほど痛かったし、オレも本気で怒られてたんだと思う。
皆で、笑って、泣いて、怒って、それが――それが。例え嘘だったとしても、自分の脳裏にはしっかりと焼き付いて残っていた。
「――そうだよ」
思わずそう言うと、ぐっと腕に力を込めて起き上がる。
そうだよ。例え、今まで堪えていたのだと言われても、今までの皆が、本当の気持ちを隠していた仮初めの笑顔だったとしても、オレが皆と過ごしてきた、ここでの思い出は変わらないんだ。
今まで、少しだけ、本当に少しだけだけど、オレは自分に負い目を感じて生きてきた。こんなに未熟で、帝国の人達から英雄とまで言われた親父も、もういなくて、これっぽっちも価値のない自分の、面倒を見ていてくれる。その恩を何とか返さないとって、皆の役に立つ自分でいないとって。
でも、もういいんだ。皆がいらないっていうのなら、今度は、村の皆への恩とかじゃなくて、今度は、今度は、オレはただオレらしく、自分が思うままに生きよう。まだ見たことのない、自分が知らない"世界"というものに会いに行こう。
アクセルは、自分の中に、何か新しい答えが生まれたような気がした。
足を空に向けて振り上げ、その反動で立ち上がる。どのくらい物思いに耽っていたのだろうか。辺りは、もうすっかり夜だが、今日は雲がないため、星の光で外も明るい。それを、安心したように見つめた彼は、出立の支度を整えるために、自宅へと帰っていった。
夜が開ける時特有の、澄んだ空気が広がっていた。
もう半刻もすれば、待っていたと言わんばかりに朝日は顔を出し、世界に一日の始まりを告げるだろう。
少し大袈裟に手振りをつけて、朝の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
澄み切った空気は綺麗すぎて、少し痛い。
「……よし、行こう」
誰に向けるでも無く呟いて、一歩を踏み出した。
「世界に会うために!」
そう呟いた瞳へ、もうすぐ訪れる朝の始まりを祝福するように、空を駆けていった一筋の流れ星が、反射してきらりと光った。




