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89 ソレイユちゃん

 私たちが駆けつけると、そこにはティーアとカーマインさんがいた。すぐ近くに大きな穴が開いていたが、先ほど撃った魔法が直撃した場所だろう。


「大丈夫か!」


 ティーア達の方に駆け寄りながら状況を確認する。ティーアはボロボロになっているように見えるがちゃんと立っている。カーマインさんも同じく泥まみれではあるが無事だ。


「ご主人様……ええ、私とカーマインは大丈夫よ……」


 そう言って安心したような笑みを浮かべるティーア。だがその後すぐに悲しそうな表情になる。


「でもソレイユちゃんが……」


 そう言いつつ視線が崩れ落ちた木々の跡がある場所に向けられる。ドラゴンのブレスが直撃した跡だ。私も見ていた。


「ねぇ、ご主人様。私は光魔法に詳しくは無いけれど、ソレイユちゃんは助かるのかしら?」

「それは……」


 正直に言えば無理だ。肉の一片でも残っていれば何とかなったかもしれないが、見る限り、そうして感じる限りでも完全に消失してしまっている。


何とか……何とかならないか……


「ぜぇぜぇ……ちょっとノワール、速すぎですわよ」

「お嬢様、無事だったんですね」


 ようやくアリシアさんが追いついてきたようだ。


「カーマイン無事なようね。それにティーアも……ソレイユは?」

「ソレイユ様は……」


 カーマインさんも言葉を濁す。どうやらそれで察したようでアリシアさんも黙り込んだ。



 わ、私のせいだ……チートを持って有頂天になって罠で分断された挙句、あんな先代魔王(クズ)の前口上なんて余裕かまして聞いていたから……


 ………………


「せめて最後のお別れ位は言いたかったわねぇ……」

「ああ、それぐらいなら【実体化(リアライズ)】……」


 そう言って魔法をかけるとドラゴンブレスの跡地にうっすらと靄のようなものが集まって行きやがて人の形をとっていく。


『…………あれ?』


 そうしてそれはソレイユちゃんの姿をとった。だが生き返ったわけではない。ただ単に魂を視覚化しただけだ。その証拠にその体は向こう側が見える程度に透けている。


『ノワール様! あ、あの私は死んだんじゃ……これは?』

「「ソレイユちゃん(様)!」」

「なに? 出来るじゃないの、ノワール」

「いや、これは――」


 そうこれは魂だけの状態だ。魂というのは非常にもろい。そのままだともって数日で成仏してしまうだろう。たまに強い思いを持った者がアンデットとなってこの世にとどまったりするがその場合自我が残るのは非常に稀なことだ。

 ソレイユちゃんもこの状態をいつまでも維持できるわけではない。


 そう言ったことをみんなに話す。


「どうにかなりませんの?」

「知識にある魔法では…………無理だ。肉体が完全に消失してしまってはどうしようも……せめて肉の一片も残っていれば…………」


 そう言ってさらに落ち込む。言葉にするとさらに現実を突き付けられているような気になる。もうソレイユちゃんは…………


『そう、ですか。できればノワール様ともっと一緒に居たかったのですけれど……仕方ないですよね。ノワール様、今までありがとうございました。私はあなたと知り合えて幸せでした。』

「…………」


 自身の死を目の前にしても微笑んでお礼を言ってくれるソレイユちゃん。頬を涙が伝う。

 そんなお別れみたいな……お別れなのか……


『ティーアさんも今までありがとうございました。知り合えて、一緒に色々出来て、とても良い思い出です。』

「そうね、わたしもよぉ」

『アリシアさんもカーマインさんも少しの間でしたが知り合えてよかったです。』

「ソレイユ様……いまさらですが先ほどは助けていただきありがとうございます」

「…………私は……ソレイユ! そんなお別れみたいなことは言わないでちょうだい! 何かあるはずよ! あきらめない心が大事なの! 私を見習いなさい!」


 今度はティーアやアリシアさん達の方に向いてお別れを言っている。のだが、アリシアさんだけは少し下を向いていたと思ったら何か発破をかけるようなことを言い出した。


「ねえ、ノワール、肉片とか言っていたけれどそこらへんちゃんと探したの?」


 アリシアさんが私に聞いてくるが、あのドラゴンブレスにソレイユちゃんは完全に飲み込まれていた。周辺の状況からも絶望的だ。

 私は首を振る。そんな都合のいいことは無いのだ。


「肉片とか言っていましたけれど、そもそもそれをどうするんですか? 何か代用できる物とか無いんですか?」


 続いてカーマインさんもこちらに聞いてくる。

 いや、無いだろう。いくらこの世界がファンタジーでも無から有を作り出すことは出来ない。肉体を構成する情報が完全な形であれば何とかなるのだが、そんなものあるわけない。一応魂や魔力にも情報が含まれているのだが、それだけでは不十分なのだ。


 ……………………肉体

 ………………肉体情報

 …………情報

 ……DNA


「――――あっ!!」

「きゃっ、何ですの!?」


 思い出した! アリシアさんが突然叫んだことに対して何か言っているが無視だ。私はアイテムボックスの中を探す。

 確かあれが――――あった!


 そうしてそれを出す。


「なんです、(くし)なんか取り出して?」


 私が取り出したもの、それは、私達が共用で使用している髪を梳かすために買ったブラシだ。(私とソレイユちゃんで共用。ティーアは専用の櫛を持っている)


『それって……』

「ほ、ほら、ブラシ――」

『?』

「「「??」」」


 私だけ興奮していて、他の皆分かっていないようだが別にいい。早いうちに済ませないと……

 そう思い櫛に残っていたソレイユちゃんの髪を選別していく。幸い私の髪は黒くソレイユちゃんは金髪のため間違えたりはしない。

 ……たまに白いのが混じっているのは何故だろう?

 アリシアさんなどが「何をやっていますの?」と聞いてくるが答える暇もないほど集中して髪の毛を採取する。

 チマチマチマチマと櫛に引っかかっている髪を採取していく。そうして櫛が綺麗になったころ十数本のソレイユちゃんの髪の毛が手の中にあった。

 櫛を髪を梳いてそのままアイテムボックスに放り込んでいたのが功を奏した。これほど大雑把な性格でよかったと思ったことは無い。ダンジョンでちゃんと頭を洗えていなかったことも幸いした。引っ掛かりが多く毛根ごと抜けたものも複数見つかった。


 そうDNAである。地球では髪の毛にもDNAが含まれていると聞いたことがある。確か毛根などに多く含まれていると聞いたことがあるが、これらでどうだろうか……

 頼む成功してくれ!


「【解析(アナライズ)】――」


 そうして解析した十数本の毛髪には…………完全には少し足りなかった。

 しかしこれに魂の情報を追加すれば……いや待て……まだ一部欠損している情報がある。

 このまま再生すると最悪遺伝子欠陥による不具合が発生する恐れがある。幸いなことに外見に関係する部分ではないため他の情報で置換してもそこまでの差異は出ないと思われる。

 何か補完するものは……そう言えば前世の映画で恐竜を復活させるのに蛙の遺伝子を使用したとか言う映画があったな。

 蛙は無いな……そうすると私たちからその情報を採取することになるのか。


「ソレイユちゃん。簡単に言うと肉体を構成する情報が欠落しているので他の物で補う必要があるのだが私たちから採取するとソレイユちゃんの肉体に私たちの情報が入ることになる……これしか方法は無いので仕方ないのだろうが、何か肉体に関して希望はあるか?」

『へ、あ、はい……そうですね。それならノワール様と一緒に戦えるぐらい強くありたいです。』


 強く……強くというと私か? いや、これはレベルやスキルのおかげで先天的なものではない。なので、私の情報を移植したとしてもソレイユちゃんがいきなり強くなったりはしない。他の人でも同じだろう。

 何かないだろうか………………あ、あれがあるな


「じゃあ行くぞ。【増殖(グロウス)】【創造(ジェネシス)】【結合(コネクト)】【再創造(リジェネシス)】」


 さらに取り出したある(・・)肉体の情報により欠損部を補わせ、それにより完全となった情報をもとに体を形作っていく。


「ぐっ……」


 なんだこれ……すごい、体から何かが抜けていくような感覚がある。だが、ちゃんと魔法の効果はあったようで、最初はただの目に見えないほどの細胞片だったものが徐々に人の形になり始める。そうして徐々に人間に近づいていき、それが人間の成長を早送りにするように徐々に大きくなっていく。ただの肉片が胎児になり、幼児になりそして少女になり――

 そうしてやっとソレイユちゃんの『(うつわ)』が完成した。


 全裸で目の前に浮くソレイユちゃん。パッと見たところ不自然な部分は無い。

 ただ、さっきからどんどん魔力が体から抜けて行っていて意識が飛びそうになっている。人間を造るということがこれほどまでに魔力を消費するとは……だが途中で止めるわけにはいかない。


「【融合(フュージョン)】」


 最後に魂を体に定着させるための魔法を唱えたところで意識を失った。

追記)設定ミスを修正

   肉片から肉体情報を取得→毛髪のDNAと魂の情報から情報を採取


   グランドドラゴン戦でアイテム全損していたことを忘れていました。

   指摘してくださった方はありがとうございます m(_ _)m

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