88 VS 先代魔王
先代魔王が空中に造り出した映像。そこに映っていたのはソレイユちゃんとティーア、カーマインさん……そうしてそれと対峙する黒いドラゴンだった。
「ソレイユちゃん、ティーア!」
「カーマイン!」
「フフフ、あそこにいるのは私の片腕とも言って差し支えないダークドラゴン。そのレベルは400。お仲間は大丈夫ですかね?」
そうして余裕の笑みを浮かべる先代魔王。おそらくこちらが取り乱したりするのを楽しんでいるのだろう。
「やめろ! 仲間に手を出すな! ぶち殺すぞ!」
何かセリフにデジャヴを感じるがまあいいだろう。私は先代魔王を睨みつける。
ソレイユちゃん達はドラゴンに対してバラけて対処し始めた。ただレベル400だとどの程度持つか……
「フハハハ、いいですね。もっと焦りなさい」
フーハーフーハー……落ち着け……落ち着くんだ。まずは色々と聞きださないと。そもそもどこへ行けばいいのか
「……その映像は今実際に起こっていることか?」
「もちろんですよ。何もできずにお仲間が死んでいく様を見ているといいですよ。」
「それを見せられた私がここから逃げて助けに行くとは思わないのか?」
「まさか? できるわけがありませんよ。ここは私が特別に設えた空間です。入るも出るも私の意志一つにかかっているのですよ。」
「なに? ここはダンジョンだろう。何故お前の意志でこんな場所を設置できる?」
「フハハ、よくぞ聞いてくれましたね! 私はダンジョンを支配下に置いているのですよ。ダンジョンはダンジョンコアという核を持つ特殊な魔物なのですが、なんと私はそれを制御下に置いたのです。本来ダンジョンは意志はあるようですが自主性が無く、ただ入ってきた獲物を食らうだけの存在なのですが、私が制御することによりこういったこともできるようになったのです!」
先代魔王はそう言いながら掌に赤い球体を出現させて見せる。
「今、私の手の中にこのダンジョンのすべてがあるのです!」
言っている内容からして、掌に出現させたその球体はダンジョンコアのようだ。さらにそこから視認できるほどの魔力が先代魔王の胸あたりとつながっているのが見て取れる。
ダンジョンコアと先代魔王の心臓が魔力的につながっている?
〈鑑定眼〉などを使用してよくよく見ると、心臓ではなく心臓より少しずれた位置に何か魔力の塊のようなものがあるのが見て取れた。その塊は禍々しく、すぐに排除したい衝動に駆られる。
それにしてもこの先代魔王、自分が優位だと疑っていないようでペラペラと喋ってくれる。――のはいいんだがいかんせんソレイユちゃん達がピンチなのでその口調がイライラを加速させる。
聞きたいことは聞けたか? もう良いか? もう良い筈……
そう考えているうちに、映像の中のソレイユちゃん達がピンチに陥っていた。さっさと助けに行きたい。そもそもソレイユちゃん達の方は今のところ回復手段などないのだ。
ティーアがドラゴンに叩き落される。――マズイ
見落としが無いか相手を探る。先代魔王の急所は何処だ? 心臓か? 違うなあの塊だ。あれが奴の核だ。よし殺そう。
変に慎重になりすぎたせいか、映像の中でソレイユちゃんがブレスの直撃を受けるのが見えた。
「なっ――!?」
「おやおや、どうやら一人死んだようですね。」
瞬間、頭にカっと血が上る。この野郎ぶっ殺してやるっ!!
「さてさて残りの二人は――――は?」
次の瞬間には私は先代魔王の直前にまで移動しその剣で魔力の核を貫いていた。
「もういい、死ね! さっさと死んでそれを寄越せ!」
そう言い、魔王の掌にあったダンジョンコアを奪い取る。
「がっ……な、何が……」
先代魔王の方はいまだ何が起きたのかわからないようで、視線をいきなり自分の前に現れた私の顔と自分の胸に刺さっている剣とを行き来させている。
「死ねやコラぁぁ! 【破砕魂】!」
「ぎ、ぎゃぁぁぁ! ばっばかなぁぁぁぁ!!」
【破砕魂】、まあ名前の通り魂を破壊する光魔法の一種である。魔力を流した剣により核を砕いたことにより先代魔王はそのまま消滅の流れだったのだが仲間を傷つけたことが許せなかったので魂の一片までも消滅させてやった。
そうして絶叫と共に消えていく先代魔王。
まあそれはどうでもいい。それよりもこっちだ。
私は奪い取ったダンジョンコアに目をやる。魔力を流せばいいのか? うらぁ!!
『止めて! 壊れちゃう!』
なんだ、こいつ喋ったぞ! ……そんなことよりも
「おいコラ! 制御下に入れ! そしてソレイユちゃん達の所に行かせろ!」
『わかりました! わかりましたから、魔力を注ぎ込まないで! さっきの映像の場所でいいんじゃよね』
「そうだ!」
答えた瞬間周囲の景色が歪み沼地ゾーンに移動させられる、私とアリシアさん。
「なんだこれ!? 空間魔法の一種か?」
『ダンジョンマスターの権限で――――止めて! 手に力を入れないで!』
ダンジョンマスター……まあ想像はできるが、この場合誰を指すのかわからない上に、ソレイユちゃん達の安否が気になって手に力が入ってしまう。
「そんなことはいいからソレイユちゃん達は――」
直後――
「ゴァァァァ!」
雄叫びが聞こえてきた方向を向くと黒い巨体が目に入った。
ダークドラゴン――居た。ヤツだ。
今いる場所からはそこまで離れてはいない。足元にはティーア達がいるのだろうか、木々が邪魔で見えない。
「【あの世からのお迎え】」
勝手に創造した呪文で魔法をぶっ放す。上空から降ってきた極太の光がダークドラゴンを飲み込んで行く。
光が消えた後には何も残らなかった。手の中の玉が『止めて! ダンジョンを削らないで!』 と煩かったが、そんなことは無視だ。
「よしっ! アリシアさん、行くぞ!」
「え? あ、はい!」
アリシアさんに声をかけてさっきのドラゴンのいたところまで走って行った。
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注意:以下の文はただでさえ少ないシリアス成分を破壊します
ソ「ソレイユと、」
テ「ティーアの、」
ソ・テ「なぜなに講座!」
テ「はいやってきました。第2回目ね。」
ソ「ティーア先生質問があります。」
テ「はい、ソレイユちゃん。何かしらぁ?」
ソ「先代魔王さんの最後があっさりしすぎていてよく分かりません。」
テ「そこに目を付けるとはさすがね。まず前提としてご主人様の普段の行動は『人間という生物としての常識』による思い込みやスキル〈微調整〉(主人公のステータスについては55話を参照してね)等によりかなりのセーブがかかった状態なのよ。あとはレベルが上がっても頭が良くなるわけじゃないので、力を適切に使用できるかどうかは別とかね。まあともかくセーブを外すとそれこそ先代魔王なんて瞬殺ね。というわけで説明だけれど、キレたご主人様が先代魔王に近づいて急所に剣を刺したというだけなのよ。本当にそれだけなの。少し前に流行ったキレる若者ってやつね。」
ソ「なるほど、本当にあっさりなんですね。」
テ「なお急所については『心臓より少しずれた位置に何か魔力の塊のようなものがある』という文があるのだけれど、これは称号〈勇者王〉によるものね。勇者は魔王の天敵だから感覚的に魔王の急所を探り当てたのよ。」
ソ「レベル780とか意味ありませんでしたね。」
テ「そうねぇ。まあ、ご主人様から見ればそのあたりのレベルは微細な差なのよねぇ」
ソ「なるほど。」
テ「ちなみに表現力不足とかメタな発言はダメよ。」
ソ「はーい」
テ「じゃあこの辺で第2回は終了ね。バイバァ~イ♡」
ソ「またお会いしましょう。」
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この世界のレベルは魔法を含めた身体能力を示す数値であり、レベルが上がったからと言って頭が良くなったり、経験者張りの勘が備わったりはしません。
なお、スキルは種類によっては『知識』が増えることがあります。