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87 ダークドラゴン

第三者視点にてティーア側の話です。

 ソレイユたちはノワールたちとはぐれた後、その階層を進み下の階層に向かっていた。魔物と戦うことは二の次にし、とにかくスピードを重視したためさほどかからず、下階層への階段を発見することができた。(分断された時点でナビゲートをしていたのはノワールであり地図も彼女が持っていた)


 そのまま階下へと降りて行きすぐの事だった。今まで結構な頻度で襲ってきていた魔物が一向に現れない。このことに気付き不審がったのはティーアだった。


「変ねぇ……」

「どうしたんですか?」

「魔物が襲ってこないのよ。上の階だともうとっくに数回は襲われているはずなのにぃ」

「そう言えば……」

「私たちは先を急いでいるのですからいい事では無いのですか?」

「うーん……嫌な予感がするのよねぇ」


 その予感は最悪の結果として的中することになる。

 先代魔王がこの階層に仕掛けを施したからだ。先代魔王は彼女たちを殺すことでノワールに絶望を味あわせようとした。そのため高レベルの自身の配下一体を除き魔物は居なくなっている。


「ゴァァァァ!!」


 直後、周囲の草木が振動するほどの咆哮が響き渡る。


「あら、お出ましみたいよ」

「言ったそばからですね」


 3人が咆哮の聞こえた方に視線を向けそれぞれの武器に手をかける。向こうは3人を認識しているようで迷いなく足音が近づいてくる。

 ドシンドシンと足音からだけでもかなりの大型の魔物が近づいてくるのが3人側に伝わってくる。どうやらあっさりと合流させてもらえないというのは3人の共通認識となった。


 そうして、足音を響かせ木々をなぎ倒し現れたのは――


「そんな……」

「縁があるわねぇ……」

「なっ……」


 ダークドラゴン……先代魔王の配下の一体であり非常に強力な魔物だ。レベルは400もある。ブレスは闇属性であり、あらゆるものを腐敗させる。鱗は鉄より硬くその体躯は30mに到達しようかという。いずれは先代魔王の片腕としてまた愛騎として活躍する予定(・・)の魔物である。


 それを見た3人の言葉は様々だが、感情は一致している。3人では勝てない。 カーマインなどは声を漏らすぐらいしかできない。カーマインについてはドラゴンなど初めて見る物であり、今までそんなものはそれこそ英雄伝などの創作物の中に出てくる程度だったのだ。その驚きは当然であるといえよう。


 ドラゴンの方は3人を見逃すつもりはなかった。それが先代魔王がダークドラゴンに与えた命令であったからだ。だからこの階層にいた他の冒険者を先に始末してきた。口にはその時噛み砕いた者の血がいまだ付着している。


(ふむ、人族の三人。あれが魔王様が言っておられた標的か)


 彼は魔王の片腕として、また高レベル者としてその知性も高いものがある。人間と同様に思考し行動する。声帯の造りの違いから話すことは出来ないが。


(確か1人の魔族がそこそこのレベルであとはザコだったな……さてやるか)

「ギャォォン!!」

「来るわよ!」

「散開してください!」


 ソレイユたち3人はそれぞれがバラバラの方向に動く。ティーアのみは出し惜しみをする状況ではないので最初から翼を大きくさせ空を翔けていく。


 大きく開かれた顎からブレスが放たれた。

すでに散開していた3人には当たらなかったが牽制にはなったようで3人の動きが鈍る。

 ブレスの着弾点それは広範囲にわたって木々や草が腐り落ちすぐに跡形もなくなってしまう。腐食のブレスであり当たれば金属すらも腐らせるという。


「はぁっ!」


 ティーアの闇魔法をまとった鞭が、ブレスを吐いて口が閉じた瞬間を狙って放たれる。それは狙い通り頭部に巻き付き口を閉じた状態で拘束するが、


(ふん、小賢しい!)


 首を一振りすると、一気に体ごと引っ張られてバランスを崩した。その目標に向かってドラゴンが爪を振るうが間一髪で躱すティーア。


 口の拘束自体もドラゴンが力を入れて口を開こうとするとブチブチと音が鳴ってやがて切れてしまう。ドラゴンにとって、また彼のような高レベルな魔物にとってこの程度の魔法は足止めにすらならない。


「くっ! はぁっ!」


 ソレイユが接近し槍で連続の突きを繰り出すがすべて強靭な鱗にはじかれてしまう。硬質な音が響き渡るだけだった。

 ならばと、鱗の隙間を狙って穂先を突き刺すが、体格差の問題から皮膚に小さな傷を入れるのが精々だ。


 だがドラゴン側としては格下の人間ごときに傷をつけられたのが気に食わなかったのか、脚を振り上げ踏みつぶそうとし、さらに尾による追撃もかける。

 だがソレイユもドラゴンに比べればレベルは低いもののそれなりのレベルにある。小柄な体とレベルにより素早く脚や尾による攻撃をかわしていく。

 さらに逆方向からはカーマインが、攻撃をしようと機会をうかがっている。が、彼女はドラゴンが相手ということで多少腰が引けていた。

 やがて攻撃が当たらないことに焦れたドラゴンが四肢での攻撃をいったん止めブレスを吐くために口を開く。


「【シャドウバインド】【ウォーターランス】!」


 ティーアの放った拘束の闇魔法がドラゴンの片足に絡みつき、更に高圧の水流が槍となって肩付近に当たる。その勢いに多少後退しようとしたが、片足が拘束されていたため体の向きが強制的に変わる。結果としてブレスは明後日の方向に放たれていった。


(おのれ、ザコが鬱陶しい!)


 徐々にドラゴンがじれてきた。魔王の右腕として圧倒的強者であるはずの自身がこんな雑魚どもに翻弄されている。ソレイユ達は効果的な攻撃をできておらずジリ貧の状態だったが、時間がかかるごとにドラゴンにいら立ちが募って行った。


「カーマインさん避けて!」

「きゃぁっ!」


 ドラゴンの大きな口から再度ブレスが放たれる。カーマインを狙っていたと思われるそれは、何とか彼女は転びそうになりながらも全力で躱すことで何とか当たることはなかった。


「くっ、この!」


 ティーアが上空から闇魔法と水魔法の攻撃用魔法を連射していく。だがそれはドラゴンの体を多少動かしはするものの、言ってしまえばそれだけだった。

 さらにソレイユも地上から足などを狙い槍で絶え間ない攻撃を行っていた。


 それが非常に鬱陶しいドラゴンは、尾と前脚にてティーアとソレイユをけん制しつつ、一番レベルの低いカーマインを狙うことに決めたようだ。

 再度ブレスの攻撃を行おうと口を開く。カーマインはそれを見て何かを悟り、逃げようとドラゴンの周りを走って行く。


 だが口を開いた瞬間を見逃さなかったティーアが、口の中を狙い魔法を放つ。それにより放とうとしていたブレスは…………多少威力を削られただけだった。


「きっついわねぇ……」

「カーマインさんこっちへ!」

「はぁはぁ……」


 やがてソレイユとカーマインが合流する。それをティーアは横目に見つつ……注意をそらした瞬間ドラゴンの振るわれた前足に当たってしまった。


「がっはっ――!!」


 ティーアが地面に叩きつけられ、全身を打ちつける。肺から空気が抜け一瞬呼吸困難になる。


(うっとおしい! が、これで終わりだ!)


 空からの攻撃が無くなったドラゴンが、ブレスを吐く。それは一直線にソレイユとカーマインを狙っていた。


「……ティーアさんをお願いします。」

「え? ――きゃぁ」


 直後、カーマインはソレイユに襟をつかまれてティーアの方に力いっぱい放り投げられる。

 カーマインが宙を舞いながら見たのはブレスに飲み込まれるソレイユだった。


 ………………


 ドラゴンの強力なブレスはソレイユを飲み込み周囲ごと薙ぎ払っていく。



 カーマインは着地するとすぐにティーアのもとに駆け寄る。


「ティーア様、無事ですか!」

「え……ええ、……ソレイユちゃんは……」


 ティーアもダメージを受けながら立ち上がり、そうしてソレイユちゃんのいた場所を……跡形も残らないブレスの後を見る。


「ああ…………」


 ティーアもカーマインも息をのむ。ソレイユはドラゴンのブレスにより周囲の木々ごと完全に消失していた。


「ゴァァァァ!」


 ようやく一体を仕留めたからかドラゴンは雄叫びを上げる。そうしてティーア達の方を向く。


「…………私が囮になります。ティーア様はそのうちに」

「何を……」

「私の方がレベルが低いのです。ここは一人でも生き残れる可能性に賭ける方が」

「そうねぇ。賢い判断だわ。……でもね、ご主人様はそんなことを望んでいないと思うのよ。」

「ですがっ!!」

「それに知っているかしらぁ? ご主人様はね……とっても頼りになるのよ」



 直後、ティーア達の方に向き直ったドラゴンの上空からまばゆい光が降ってきた。

追記)名前のミスを修正しました。

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