86 VS 2匹のドラゴン
私はブルードラゴンがアリシアさんに攻撃をしようとする時にはすでに走り出していた。
コマ切れとなって吹き飛んでいくアリシアさんを横目に見ながら、魔法を唱える。
「【再生】【蘇生】」
「――きゃあ!」
再生して復活したアリシアさんが遅れた悲鳴を上げ尻餅をついているが、私がそれを見ることはなかった。
なお、【再生】で体と一緒に細切れになった服も再生しておいた。以前はティーアを裸のまま【再創造】したことがあったが、あれはブレスにより完全に消失していたからであって、今回のようにバラバラになるだけならその下位互換の魔法で服にまでちゃんと対応できる。
ちょっと決めポーズとかつけちゃったが一応私は真剣にやっている。なぜなら、ソレイユちゃん達と別れてしまったのだから。早く合流しないと、と思っている。
すでに、剣の届く間合いにまで近づいている。そして私のもう一つの自慢の武器、魔剣【レウィシア】、これも流す魔力によってランクA相当の切れ味を誇る。
ブルードラゴンは振り払った前脚を今度は振り下してきたので、剣にて受け止めてやる。すると、魔剣【レウィシア】はまるで豆腐を着るようにスムーズに爪に食い込んで行き――切り飛ばしてしまった。
さすがだ。私が目を付けた魔剣だけはある。
一方、爪を切り飛ばされたブルードラゴンは何が起きたか分かっていないようで、そのまま前脚を振り下した姿勢のまま、こちらを見ていた。
が、すぐに死んでいないと分かると口をガパッと開いてブレスの予備動作に入った。だが、こんな近く、人族を相手にその予備動作の時間が致命的になるとはブルードラゴンは予想できなかったのだろう。
すぐに、ブルードラゴンの横に回り込む。そうして一閃。剣の長さ的に後足を斬り飛ばす、とまではいかないものの、鱗と肉を一緒に切り裂く。
そうして追撃。
「【稲妻】」
今しがた切り裂いた傷口に向かって高出力の電撃魔法(分類上は風属性)を打ち込む。
「ゴギャァァァァ!!」
膝関節から下の足が熱により完全に炭化したブルードラゴンが悲鳴を上げる。
そのまま、後方に下がろうとして、炭化した足に体重をかけてしまったのだろう、ボロボロと崩れて姿勢を崩し轟音と共に倒れた。
「なっ! 何をやっている、殺せ!」
それに驚いたような声を上げたのは先代魔王だ。
そういやこいつもいたんだっけ……今まで手を出してこないから忘れていた。
「ホーホッホ! させませんわ!」
その声に振り返るとアリシアさんが倒れたブルードラゴンに向かっていく、そうして突き出したレイピアはラッキーアタックとなって倒れていたブルードラゴンの目を貫いた。
「ギャァァァ!!」
「もういっぱ――ゴッ!」
悲鳴を上げのた打ち回るブルードラゴンに追撃をかけようとしたアリシアさんが、近づいて来ていたレッドドラゴンの尾の一撃により宙を舞った。
「うわっ……」
水切り石のように跳ね回って壁に激突するアリシアさんに【リザレクション】を再度かける。
「ホーホッホ! 私がこの程度でどうにかなると思って!」
砂煙の中から何事もなかったように復活するアリシアさん。
いや、アンタ1回死んでるからね。自重しようね。
「【魔刃】」
魔法を剣にかける。魔力でランクA相当の切れ味を誇る魔剣の周りをさらに、魔力の刃が取り囲む。そしてドラゴンを相手にできるほどの長さの刃を魔力で作り出す。
そうしてこちらが魔法を使うのと同じように、相手も――ドラゴン自身だろうか――も魔法を使うのが見えた。魔法がかかり回復していく足。……だが回復速度が非常に遅い。徐々に回復していっているようだが、いまだ立ち上がれるところまで回復していない。またアリシアさんに傷つけられた目の方も回復していない。
このまま、先にブルードラゴンの方をと思っていたのが相手に感づかれたのかはわからないが、ブルードラゴンの方はその背に付いた翼を広げ、空中に退避しようとしている。
逃がさないよう追撃しようとするが、レッドドラゴンが間に割り込んできた。
「くっ、邪魔!」
振るった魔刃を纏った魔剣【レウィシア】は私を攻撃するために振るわれた尾を半ばからバッサリと切断する。
咆哮を上げ、レッドドラゴンは前脚にて追撃してくるが、その前脚を同じように切り飛ばす。
そうしているうちに、ブルードラゴンはすでに空中に逃れてしまった。
と同時に、レッドドラゴンが後ろに引いて――
ドカカカッッッ!!
氷の槍が雨のように降ってきた。ブルードラゴンのブレスだ。魔盾で防御するが――大した威力ではない? 衝撃もそこまででもないし十分踏み止まれる。
そうして、ブルードラゴンのブレスがやんだかと思うと今度はレッドドラゴンのブレスが襲ってきた。同じように魔盾で防御する。すでにこれらの攻撃で私の魔盾を突破できないのは証明済みであるが、こうも連続して攻撃されると、こちらから攻撃できない。
――いや、攻撃できる手段はあるな。
「【台風】」
魔法を使うと突発的な強風がレッドドラゴンのブレスを散らした。そのまま発生した強風はレッドドラゴンの体制も崩す。
私はレベルに物を言わせ盾を構えたまま一気に接近、剣を振るう。
腐ってもドラゴンということだろうか、体勢を崩されさらに超速にて接近されたにもかかわらず、翼で姿勢を制御しながら残った片腕で受け止めようとするレッドドラゴン。
だが受け止めきれないのはすでに証明済みだ。そのまま残った片腕を切り落とす。
だが、ドラゴンの方は両腕(前脚)を失いながらもかろうじて体勢を立て直すことに成功したようだ。その巨体に似合った力強い踏込でこちらに間髪入れずに顎を開きこちらに向かってくる。
「悪いな――今更なんだよ!」
そしてそのまま魔剣を振るい――上顎と下顎を分離させてやった。頭部を失った躰は大きな音を立てて倒れる。
「ゴギャァァァ!!」
もう一匹の――ブルードラゴンが咆哮を上げる。仲間の死を悲しんでいるのだろうか……
その口から再度ブレスという名の氷の槍が発射される。
「だから、今更だと言っているだろう!」
盾で受けながら、剣を地面に突き立て、振ってきた氷の槍のうちの一本を受け止める。ギッ! という音がするが、やはりそこまで重い攻撃ではない。火炎ブレスの方が厄介だったな。
そうして、つかんだ槍をそのまま投げ返してやる。
それなりの力を込めて投げ返した氷の槍はブレスよりも速く飛翔しブルードラゴンの羽を打ち抜いた。
「ギャッ!」
「おまけだ、【岩製貫通弾】」
高密度に圧縮した土を槍状に変化させ、高速で打ち出す。土属性の上級魔法であるが、私の作り上げたものは本来の固さを上回っている。
ドカンッッッ!!
衝撃波を伴った魔法はそのまま、ブレスを打つ為に開いていた顎に吸い込まれて――首から上を吹き飛ばした。
ズズゥゥン!!
司令塔を失った躰は重力に従い落下、大きな音と砂煙をまき散らし動かなくなった。
(なっ……バカなレベル300のドラゴン2匹を……)
魔王が何か言っているようだがここまで聞こえてこない。笑顔が引きつっているようにも見えるが何を考えているのだろうか?
ちなみに周囲を見回してみると、アリシアさんが氷の槍に貫かれて死んでいた……ああ、だからさっきから静かだったのか。
「【破砕】【蘇生】」
氷の槍を砕いてから、また蘇生してやる。アリシアさん……死ぬことに慣れると困ると思うんだが。
「で? 次はあんたが相手をしてくれるのか?」
上空にいた先代魔王に皮肉っぽい顔をして言ってやる。
「フフフ、ドラゴン2体を倒すとはなかなかやりますね。ですが次はどうでしょうか? ……ああ、その前にお仲間の様子でも見せましょうか?」
「何?」
そう言った先代魔王が手を振ると上空にモニターのようなものが出てきた。そこに映っていたのは――
「ソレイユちゃん、ティーア!」
「カーマイン!」
アリシアさんの服「私は何度でもよみがえる!」