84 先代の魔王
第3者視点です。
約200年前、勇者と魔王の壮絶な戦いがあったという。その結果、勇者は魔王を倒し、世界は平和になったと伝えられている。
だが実の所、魔王は死んではいなかった。魔王は狡猾であり自身の核を他に移し勇者の攻撃から逃れたのである。そうして魔王は逃げおおせた。その後、自身を再生するとともに雌伏の機会をうかがっていた。
やがて100年という時をかけ再生を果たした魔王。しかし再生を果たしたとはいえ力は以前に劣る程度にしか回復していないことを知る。この程度ならば前回の二の舞となるだろう。いやもっと悪い結果も待っているかもしれない。
そう考えた魔王は自身の姿を偽り、人間の生存圏へと侵入する。内側から崩壊させようとしたのである。しかし、その過程で面白いものを知ることとなる。
ダンジョンの存在である。それは、人間とは異なり魔族たちの中では生物の一種と考えられていた。ダンジョンコアを核に動き、体内に魔物を飼い、他の生物を食らう魔物。それが魔王の認識だった。
そして、魔王はさらなるレベルアップを求め、そしてより強い武器を求めダンジョンへ潜って行った。
そうして到達した最高階層でダンジョンコアを発見し、制御下に置くことに成功する。そうして、魔王はダンジョンの主となった。
あれから100年が過ぎた。ダンジョンに潜ってくる人間どもを殺し徐々にレベルアップを図る魔王。
すでに以前のレベルはとうに越え、もはや神の域にまで達したのではないかと思われる。しかし魔王は慎重だった。さらなるレベルアップを行うこととした。
「フフフ、あれから200年か……早いものですね」
執事服に身を包んだ初老の男性――変化の魔法により人間の姿となってはいるが、先代魔王であるラグナドロスアルタミココスである。
彼は自身のレベルを表示させる。
名前:ラグナドロスアルタミココス
種族:魔族
年齢:221歳
性別:男性
レベル:780
クックックッと笑いが先代魔王の口からもれる。
すでに、勇者と相対して200年自身の復活と、さらなるレベルアップによる自身の強化につぎ込んできた。
レベルはすでに780と以前の数倍にまでなっている。
これならばたとえ新たに勇者が召喚されようとも、赤子の手をひねるがごとく勝利できるであろうという考えが思い浮かぶ。
(いえ、それで前回痛い目を見たのでしたね……やれやれ、今回は余裕を見てレベル800はほしいですね。)
彼がこのダンジョンの主となってから、すでに100年。このダンジョンを改造し、より効率よく経験値を稼げるようにと作り変え、またダンジョンの奥深く……人間では到達すらできないような場所では、魔王による侵略後の支配を考えより強い魔物の生産がおこなわれている。
無論そんなことを、人間側が知る由もなく100年前も10年前もそして今日も冒険者が一獲千金を夢見て挑んでくる。
(こんな奥地でじっとしているだけでレベルが上がるとは楽なものです)
勿論、警戒も怠らない。100年前、復活した直後は以前のレベルよりも弱かったのだ。とはいえ、人間側が大軍をもってしても魔王1人に敵わないだろう。しかし、また勇者やそのレベルの者がやってきたら? そう考えると決して気は抜けなかった。
そうして徐々に力をつけて行った。
25年ほど前にエルフの集団がこのダンジョンマスターの間のすぐ近くにまでやって来た。その当時は初めてのことであり多少焦りはしたが、すでにレベルは勇者と対峙した当時を余裕で上回っており、また、下層部分には魔王が世界征服を成し遂げるために作成した高レベルの魔物たちが存在する。すぐに負けることはないと結論付けた。実際に、そのエルフの集団は最下層前の魔王の部下を生産しているエリアで、たった2体の魔物にやられてしまった。
20年ほど前に人間どもが、48階層まで来た。魔王は、また部下に相手をさせようと思っていたが、その人間たちは48階層で引き返してしまった。その人間たちは自身の実力を熟知し、また危機感知にも優れていたのだ。
そうして今、また高レベルの人間たちがやって来た。
◇◇◇
「おや?」
ダンジョンに仕掛けている警報装置が侵入者がいることを知らせてくる。この警報装置はレベル100以上の者が通過するとダンジョンコアに知らせが行くように作ってある。それが25年ぶりに作動した。
「どれどれ、ようやく骨のある者がやってきましたか……精々私の役に立ってくださいよ」
その者は、徐々に階層を進んでくる。以前のようなエルフの戦士だろうか。また
私にたどり着くまえに、死んでしまうのだろうか。と魔王は思考する。
(せっかくなのだから私が相手をしたいですねぇ。久しぶりの血肉や悲鳴を堪能したいものです。)
そう思ってはいるが望み薄だろう。人間やエルフなど、たとえ軍勢であろうとも蹴散らせる自信が今の魔王にはあった。
ダンジョンの機能を使用して、視界にその高レベルの人族を映す。ダンジョンは自身の体内の任意の場所を見ることができるのだ。
入ってきた人族たちを見るに、5人組のようだ。その中で高レベルの者は2人――黒髪の人族と、サキュバスの魔族だ。
魔王はなぜ魔族が人間と行動を共にしているのか分からなかったが、そういったこともあるのだろうと、すぐに興味を失った。
しばらくその人族たちを観察しているが、目立った動きは無い。ピンチになってもすぐに回復してしまう。どうやら、あの黒髪の人族が回復魔法の使い手のようだ。しばらくして、5人の中で一番弱い黄色いヤツが死んだ。魔王はどうするのかと注視したが、なんと、黒髪の人族が蘇生魔法を使い生き返らせてしまった。
蘇生魔法、あれは危険だ。死んでも生き返る。無論何でもかんでも生き返るというわけではない。死体を再生不可能なほど損壊させれば生き返らすことは出来ない。しかし勇者などと共に行動されれば非常に厄介だ。
どうにかして早いうちにその芽を摘み取ってしまいところだ。
「そうです。ここに呼びましょう。」
魔王はいい案だとばかりにポンと手をたたいた。
「邪魔が入られては厄介ですね。あの人族だけ孤立させて確実に殺せる手は……」
そうして、人族たちが進む進行方向に闘技場に飛ばす罠を設置した。このダンジョン特有なのか他のダンジョンもそうなのか罠の類を設置するのには非常に膨大な魔力を必要とする。そのため、今まで罠の類は設置していなかったのだ。
だが、一人だけ招くには必要だろうと考える。行き先は高レベルの配下を育てている場所だ。
そうして、何も知らずにその人族は罠にかかり、別の場所に移動させられた。計算外だったのは移動する際にもう一人付いてきたことだが、付いてきた人族は一番弱い黄色い奴だったので問題はないだろうと、魔王は考えた。
そこで魔王はまた考える。ただ殺すだけでは少々味気ないと、絶望や恐怖する顔も見てみたい。そう思い魔王は罠にかかり分断したもう一方の仲間の方にも配下を送ることを決める。仲間がやられる様子を見せてやればさぞ絶望してくれることだろう。そう言う感情を向けられながらさぞ殺すのは楽しいだろう。と魔王は考えた。
「ふむ、久しぶりの強敵です。盛大にお迎えしてあげましょう。」
そう言うと魔王もその部屋へと移動した。
真の絶望を味合うのはどちらかもわからずに――
NGシーン
勇者剣士郎と魔王ラグナドロスアルタミココス、通称ラ王が相対する。
ラ王に剣士郎の必殺の剣技【北都神剣】が炸裂する。
「わが生涯に一片の悔いなし!」