09 初めてのクエスト 1
異世界3日目の朝が来た。ちょっと寝坊してしまったようで、起きたらもう明るかった。いや、日の高さ的にはまだ早朝なのか?
そういや昨日冒険者登録したんだよな。なら、ステータスオープン。
名前:ノワール
種族:狐人族
年齢:18歳
性別:女性
職業:Fランク冒険者
レベル:3
装備:ショートソード
スキル:鑑定眼Lv.10
全状態異常無効化Lv.10
気配察知Lv.10
回復魔法Lv.10
肉体強化Lv.10
腕力強化Lv.10
脚力強化Lv.10
剣技Lv.10
アイテムボックスLv.10
おお、やっぱり職業欄が増えてちゃんと冒険者となっている。しかし、相変わらずレベルが低い。これは早いうちにどうにかしないと、冒険者という職業柄多分なめられたりするだろう。
昨日は寝る前まで気が抜けなかった。寝る前に用を足そうとトイレに行った際、立ったままナニを固定しようとしたら、ナニがないことに気が付いた。あわててしゃがんでその場は事なきを得たが、もう少し遅かったり、寝ぼけていたら大惨事だった。あと、シッポがあるので仰向けで寝にくいというのも地味に気になった。
昨日買った服を着てみる。パンツルックのほうだ。うむ、問題ないな。今日は下着もちゃんと履いている。あと、残りの服やその他の物品はアイテムボックスに放り込んでおく。財布とショートソードは使用頻度の関係で腰に吊ったままだが。その上にマントを羽織る。
宿で朝食をとって冒険者ギルドへ。朝方だからだろう、依頼ボードの前には人が多いな。今日1日、もしくは今日からの仕事を求める人で結構混雑している。あ、でもFランク依頼の前は比較的空いているな。子供が何人かいるぐらいだ。
そこへ行ってみるとなるほどと思う。ほとんどが街の雑用依頼で、少し薬草などの採取依頼がある。時間的には、別に早朝に依頼を受けに来なければならないほど拘束時間の長いものはほとんど無い。
Fランクというのは貧しい子供などが、稼ぐためのものなのだろう。成人は5個依頼を達成したらEランクにすぐ上がれるといっていた。おそらく、Fランクはどちらかというと準冒険者といったところか。つまり、成人はさっさとEランクに上がって依頼をこなせ。簡単な雑用依頼は子供に回せ。という感じなんだろう。報酬も非常に安い。
とりあえず、雑用なんかは子供がとりそうだったので、薬草や植物試料の採取依頼を3つほど選んで受付に持っていく。ちなみにこの3つは○個取ってきたら以来達成というもので、期限等は定められていない。
あと今日は、5つのカウンターすべてに人がいる。やっぱり混む時間帯だからだろうか。もちろん私は昨日と同じ金髪巨乳美人のいる受付へ行く。たとえ、そこだけ列が長くなっていようともな。……くそ、こいつら、考えることは同じか。
「これを受けたいのだが。」
「はい、こちらですね、わかりました。薬草などは街の東にある森に生えていますので……お尋ねしますが、薬草の見分け方などはご存じですか?」
「……いや、知らないな。」
そういやそうだった。RPGなんかだと普通に薬草って名前がついているものがあるが、これが薬草ですなどと親切に表示(何処にだよ!)なんかされないだろう。色々な植物の中から薬効成分のある草を見つけなければならないわけで。……あれ? 思ったよりややこしい依頼っぽいな。
「ではこちらを、この依頼にある植物のイラストが描いてありますので――」
「ああ、済まない」
「――30フラムです。(ニッコリ)」
「え?」
「30フラムとなります。(ニコニコ)」
「……はい。(チャリンチャリンチャリン)」
「はい、確かに。ではこちらです。くれぐれも間違えないように。間違えて納品されると依頼未達成になりますので。」
「ああ、わかった。」
金とるのかよ。まあ、支払ったけどな。
それぞれ3枚の植物イラストの描かれた紙をもらって冒険者ギルドを出て行った。
◇◇◇
街の東にある森にやってきた。東の森は、あまり魔物もいなくて採取依頼などがメインらしい。ちなみに北にも森があるがそちらは中~上級者向けらしい。なんでも結構強い魔物とかがいるそうだ。
少し浅い付近を見て回って、もうかれこれ3時間ぐらい経つ。
2つ分の依頼、薬草の採取(傷薬に使うやつと毒消し用に使うやつらしい)は比較的簡単ですぐ終わってしまった。というか、もしかしたら今後同じ依頼があるかもと少し多めにとってしまった。しかし、あとの1つ、何かの実験に使うというシイタケっぽいキノコが全然見つからない。もらった資料にはイラストのほか街の付近で取れる場所なんかも丁寧に記載してあり、それによると、森の浅い個所、つまりこのあたりでとれるはずなんだが……。もう取りつくされてしまったのだろうか。
もう少し奥の方に行かないと無理かな?
方向を確認しつつ奥へ進んで行く。昼には帰れそうにないな。昼ご飯に何か買っておくんだった。
「……ん?」
何か聞こえたな。ただ、受付嬢が言っていたように耳をフードが覆っているので少し聞こえづらい。
まあこの辺なら人もいないしいいだろう。
そう思い、フードを外す。
「やはり何か聞こえるな。なんだ?」
〈気配察知〉によりここから少し行ったところにかなり大きな気配が2つある。野生動物か? あと少し離れたところに小さい反応があるな。子供だろうか。こっちは無視してもいいか。
気配と音を頼りにゆっくりと近づいてみる。少し森の中を進んで行くと、少し開けた場所があった。そこにデカい鬼が2匹いた。
「……なんだあれ? とりあえずステータスを見ておくか」
茂みに隠れつつ、〈鑑定眼〉をかけると
名称:オーガ
種族:魔物
レベル:23
装備:棍棒
状態:迷子
説明:体格が大きく膂力の非常に強い魔物である。人間種他、動物の肉を主食とするため、見つけ次第討伐が推奨される。力が非常に強いため、パーティ単位での討伐がおすすめ。
「…………」
もう1匹のステータスもレベルが24となっている以外は同じだった。
それにしても、状態の欄が追加されているんだが……なんだ迷子って。
あと、やはりこの説明、私に対して言っているのか? 誰が考えているんだ?
ただ、まあヤバイ相手なんだろう。力が強いということを抜きにしてもLv23と24とか表示されているしな。腕とかメチャ太いし、ぶっとい棍棒持ってるし、身長3メートルくらいあるんじゃないかというくらいデカいし。
ただ、なんというか気配的にはそこまで強い感じはしないな。どうしてだろう。ステータスで見た情報と気配から感じる感覚的な情報に齟齬がある。
そこで、オーガが鼻をひくひくさせながら、周囲を見渡し始めた。なんだ? 獲物でも探しているのか。しかし獲物といっても相手の主食は人間種だ。この辺に人が来たのか? ……無視した小さいほうの気配が近づいてきているな。これはまずいんじゃ……
ガサガサ!
「え?」
茂みから出てきたのはお約束通り人間の子供だった。十歳ぐらいの男の子だ。こんなところにいるということは採取依頼でもしていたんだろう。手に籠みたいなの持ってるしな。その子が、オーガを見て呆けた声を出した。
「ガアァァ!!」
オーガの1匹が咆哮と共に子供のほうへ近づいていく。やべぇ、迫力あるぅ……じゃなくて、これは逃げた方がいいのか。子供のほうはビビッて尻餅をついてしまっている。やばいなこれ、もう逃げられないじゃないか。
「さすがに見捨てるわけには……しかしレベル差が……ええい!ままよ!!」
さすがに見捨てるわけにはいかず、茂みから飛び出した。
あ、もう1匹のほうがこっちを見た。
「ガアアァァァ!!」
子供のほうに向かっていなかった1匹がこちらに走ってくる。速……くはないな。さっきのステータスの説明通りパワーに極振りしてるんだろう。スピードはそれほどでもない。
子供のほうに向かっている奴は相手が逃げられないと分かっているのか、ゆっくりと近付いている。といってもそんなに猶予はない。どうする?
腰のショートソードを抜き構える。どうせランクが上がったらこういった魔物の討伐も依頼として受けなければならないんだ。ならば、少し早いが実戦を経験しておくのも悪くない。そんな考えで自分を納得させながら、相手の動きを注視する。
オーガは走ったまま棍棒を振りかぶって真下にたたきつけるように振り下ろしてきた。それを、よけるのだが、やはり恐れがあったのか結構大きく動いてしまった。……どっかの達人みたいに最小限の動きでかわすみたいなことは、やはりいきなりは出来ないか。
ドォン!!
地面にぶつかって大きな音が響いた。あの威力で地面を殴りつけたのに、何事もなかったようにそのまま棍棒を横に振ってくる。
あわててしゃがんでかわすのだが、結構余裕を持ってかわせている。……スキルのおかげか? なら、
「シッ!」
オーガに近づき棍棒を振り伸びきった腕の肘関節をショートソードで沿うように切る。
スッ――
「ゴアァァァ!!」
悲鳴を上げるオーガ。
非常に簡単に肘から先を切り飛ばすことができた。骨に当たらなかったことがよかったんだろう。
やはり、スキルのおかげで体が非常に簡単に、そして思った以上に動く。これなら――
そう思いつつ横目で、子供のほうに向かっていたもう1匹を確認する。やばいもう子供に手を伸ばそうとしている。早く決着をつけないと――
慣れない戦闘時に別なことを考えていたのが悪かったのだろうか、オーガが残った片腕で殴り掛かってきた。それをギリギリかわすが、頬を少しかすってしまった。あとマントのフード部分がオーガの腕にひっかっかって破けてしまった。
頬が熱い。たぶん切れているだろうが、時間がないためそんなことは気にしていられない。
相手の死角に素早く回り込むと、足首を浅く切断する。骨に当たると、最悪ショートソードのほうが折れてしまいかねないため、足首の腱を狙ったのだがうまくいったようだ。
立っていられなくなって、倒れこむオーガ。倒れたことで届くようになった頭部にショートソードを突き立てる。頭蓋骨も硬そうだったので、目の部分から突き刺した。おそらく脳にも届いているだろう。一回ビクンッ! と痙攣した後動かなくなった。
よし、1匹つぶしたな、あとは――
もう1匹のほうを見ると子供を手でつかんだまま、こちらを見ていた。たぶん、食べようとしていたのだが、1匹が倒されたのでこっちに注目したのだろう。
「好都合!」
すぐ、ショートソードを引き抜き、もう1匹のオーガに投げつける。顔のあたりを狙ったのだが、子供を持っていない方の手で防がれてしまった。だが、問題ない。一時的とはいえ、自分の手で視界をふさぐことになるからな。
自分で自分の視界をふさいでいる間に、一気に肉薄し、子供を持っている方の手の肘関節あたりを身長差からアッパー気味に思いっきり殴りつけた。
メキベキッ!!
骨の折れる感触が伝わってくる。自分の手ではなく、相手の腕の骨がだ。子供を助けるためとはいえ、一応自分のほうがダメージを食らう覚悟もしていたのだが、どうやらスキル〈腕力強化〉はレベルに20の差があっても問題ないようだ。手がかなりひりひりするが……
肘関節を砕かれたオーガは子供を取り落した。……子供のほうは身長からいって2メートル以上の高さから落とされたわけだがその辺は勘弁してほしい。頭から落ちていないことを願うばかりである。
オーガが腕をかばいながら後ずさりしはじめたが、逃がすつもりはない。少し足に力を入れると一気にオーガの懐に飛び込めた。やはりスキルさんは有能だ。
そのまま、ボディ、ボディ、ボディ、と腹を3発ぐらい殴ったら口から吐しゃ物を漏らしながら膝をついた。うぁ! 汚いッ!
あわてて横によけた後、側頭部を蹴りつけた。膝をついても相手の頭が自分の頭と同じぐらいの位置にあるため蹴った方がいいかと思ったためだが……そういえばスキルに〈脚力強化〉もあったな。頭蓋骨が陥没したのだろうか、頭がへこみ、あと首が変な方向へ曲がっている。
そして、オーガはそのまま倒れて行った。――そのまま動く気配はない。
「ふう」
気配を探ってみると先ほどのオーガのものと思しき気配は2つともなくなっていた。完全に死んだのだろう。
終わったことを確認できたので、とりあえず優先すべきは……
オーガの腕から落ちた後、そのままへたり込むような姿勢になっていた子供のほうへ近寄って行った。
戦いの描写って難しいですね。