81 貴族と王都のダンジョン 9
21階層は洞窟型となっている。といっても1~5階層とは違って鍾乳洞のような感じで湿気が多くジメジメしている。足場はしっかりしているものの、所々に大きな水たまりのようなものも見える。
「ふぅ~、ようやく抜けたな」
私は手で額の汗をぬぐう。ちなみに汗はかいていない。
「そうですわね。ああ、ジメジメしているのになんだか爽やかですわ」
アリシアさんも、生き生きとした表情で深呼吸をする。
ようやく昆虫ゾーンを抜けた。5階層ごとに出現する魔物も変わるので昆虫はもう出ないだろう。出ないよね?
ダメージも私とアリシアさんの精神的なものを除けば、カーマインさんが何度か敵の攻撃を食らっていたが酷くても【中回復】で治る程度だった。
この辺りは進んで行くと蛙とかトカゲとかの両生類ゾーンのようだった。だからジメジメしているのか。
まあ、蛙とかトカゲといっても馬鹿みたいに大きくてさらに状態異常特性持ちが多かったけれど。
だが別に私は両生類に関しては虫程は嫌いではない。まあ好きというわけでもないが。
この辺りになってくるとほとんど冒険者を見なくなる。なので、魔物とのエンカウント数もどんどんと多くなってくる。適正レベルも高くなってくるので、私の出番もたまにある。
まあ、大体ワンパンで沈むのだが……
ベチャッ!
「うわっ! ……【水】【風】」
たまに粘液のようなものが体表を覆っている魔物がいる。手にベチャッと着くのであわてて水で流して風で乾かすというようなことをしている。
皆は武器とか魔法を使ってうまくつかないようにしている。……私も魔法は使えるのだがこの世界に来た当初は使えなくて脳筋的思想だったのでそれが残っている。今も「魔法より殴った方が早くね?」的な考え方だ。
まあそれで汚れて結局魔法を使っているのだが。
これはあれだな、前の昆虫階と言い飛び道具を持ってきたほうがよかったな。といっても、魔法を除けば遠距離攻撃手段なんて弓とか投石ぐらいしかないんだけどな。
ああ、アイテムボックスとかあるんだから投石用の石を大量に持ってきてもよかったのか。
この階もわりとサクサクと進む、やはり私とかティーアのような高レベル者がサポートに回ると軽いな。
……なのでもっと褒めてもいいのよ。
「痛っ!」
とか思っているときに限ってなぜか何かが起こる。今回はソレイユちゃんがデカい蛙の攻撃を食らってしまったようだ。この蛙デカいくせにすばしっこくてさらに舌を鞭みたいにして攻撃してくる。さらに舌には毒があるという厄介さだ。
「【解毒】【回復】……大丈夫か?」
「はい大丈夫です。ありがとうございますノワール様――」
「へぶぅ!」
「お嬢様ぁぁぁ!」
ちょっとソレイユちゃんと話していたら別の方向からアリシアさんとカーマインさんの悲鳴? が聞こえてくる。
そっちを向くと、ちょうどアリシアさんが蛙の舌に当たって吹っ飛ばされていた。
ゴキィ!!
……は?
アリシアさんが頭から地面に落ちたと思ったら変な音を立てて〈気配察知〉から反応が消えた。……え? 死んだの? 首が曲がっちゃいけない方向に曲がっているよ
「……やべぇ! 【蘇生】」
あわてて、蘇生魔法をかけると、ポワワンと淡い光に包まれて次の瞬間にはムクリとアリシアさんが起き上がった。
「え? 私死んで……あれ? …………え?」
「ああ、お嬢様よかったです! ノワール様が蘇生してくださったのですよ。 蘇生ができるというのは本当だったのですね。」
「へ?」
どうやら死んだという事実を受け止められていないのだろう。まあ普通死んだらそれまでだしな。
「あ、……ああ、そうですの……ありがとうノワ――へぶぅ!」
「お嬢様ぁぁぁ!」
――あ、さっきの蛙に潰された。
またしても〈気配察知〉から消えるアリシアさん。
て言うかこの蛙、アリシアさんを2回も殺すなんて何気に一番の強敵じゃないのか。
「この、どきなさい!」
カーマインさんがメイスを振るうが、意外なほど素早くジャンプして攻撃を躱す蛙。
ビヨーン――ドシュッ!
ジャンプして着地しようとしたところにティーアの攻撃魔法を食らって霧散する蛙。
「ああ……強敵が……」
強敵があっけなく死んだことを少々残念に思いつつ、アリシアさんに蘇生魔法をかける。
「【蘇生】」
「え? 私また死んで……あれ? …………え?」
「ああ、お嬢様よかったです! ノワール様がまた蘇生してくださったのですよ。」
「へ?」
普通はここでパーティーメンバー1名死亡なので、このまま進むか撤退するかを議論したりするのだろう。
結局この階でアリシアさんが2度も死亡というミラクルが起きた。
やっぱりダンジョンて難易度高いんだなと改めて思う。
◇◇◇
21~25階層は虫が出ないのでサクサク進むぜ。ただ、宝箱なども探さないといけないので、最短距離をというわけにはいかず、ある程度探索する必要がある。
「ああ、お嬢様が巨大トカゲに丸呑みに!」
「ああ、お嬢様が巨大蛙に丸呑みに!」
「ああ、お嬢様が巨大ナメクジに轢かれました!」
……この階層になってからアリシアさんがピンチになることが多くなったな。やはりレベルが低いからだろうか。
ある程度時間をかけたおかげか、なんとこれらの階層で5個もの宝箱を発見した。平均一階層につき1個と考えると少ないかもしれないが、今までが余りでなかったのでうれしい限りだ。
宝箱はすべて罠や鍵など無く普通に開けることができた。
これらの階層で一気に5つも見つかったので、アリシアさんなどは結構はしゃいでいた。
なお内訳は、
銘:レウィシア
種類:魔剣/グレートソード
武器ランク:B
装備者:-
能力:流す魔力に応じて切断能力の上昇
光以外の属性魔法に対する耐性
最大魔力上昇
銘:ラナンキュラス
種類:魔盾/タワーシールド
武器ランク: B
装備者:-
能力: 流す魔力に応じて防御力が上昇する
魔法に対して高い耐性がある
光魔法を反射する
銘:無し
種類:魔道具/指輪
能力:防御力上昇
銘:無し
種類:魔道具/腕輪
能力:魔法使用時の使用魔力減少
銘:無し
種類:魔道具/腕輪
能力:攻撃力上昇
魔剣と魔盾があるのだが、白を基調として、金と赤いアクセントが入っている。めっちゃカッコいい。欲しい。
「……この剣と盾は譲ってもらえないだろうか?」
「この魔剣と魔盾ですの?」
「そうだ。無論支援してもらっているのだから無理にとは言わないが……」
「そう、ですわね……いいですわよ。装備が整っていないというのも不安ですし。そうね、いい武器があればそれを装備しながら行きましょう。」
「本当か! ありがとう」
「無論いい装備なのですから、30階層で宝探しなんて小さいことは言わせませんわ。ここの最高到達階層は48層でしたわよね。最低でもそこまで行きますわよ!」
「なるほど最高階層更新か。いいだろう」
そうして私たちは再度協議の結果、50階層を目標にすることとなった。
アリシアさんとしては宝が数個減ったところで最高階層更新の栄誉の方があればその程度は問題ではないということだろう。
よし、そうと決まればどんどん進むぞ。
何も決まっていない時にあらすじを考えたのでTSメインのような感じですが、最近は主人公TUEEEものになっているので修正するかどうか悩み中。
追記)サブタイトルの話数が違っていたので修正しました。