80 貴族と王都のダンジョン 8
16階層からはまた閉鎖空間になっている。天然の植物の洞窟というような場所で、床も壁も天井も木の枝か根のようなものや蔦が複雑に絡み合ってできている。
植物製なら壁を突き破ってショートカットは出来ないかとも思うが、地図にある説明によるとそれは出来ないらしい。
以前やろうとした冒険者がいたようだが、思った以上の頑丈さと、厚みがあり普通に通路を進んだ方が速いということだ。
この階層も順調に進んで行く。
足場がでこぼこしており、今までよりも移動速度が落ちているがその程度だ。敵に関して言えば、アリシアさんとカーマインさんをメインに、その時々に応じてソレイユちゃんやティーアが手助けをする形で対応するというのをこの階でも行っていく予定だ。
この辺り順調に進めているのはやはりダンジョンの魔物は群れることが少なく複数体同時に現れることが少ないというのが、一番の要因ではないかと推測する。多少格上の相手であっても、1体ならば複数方向から囲んでしまえば基本何とかなる。
と思っていた矢先に、6体の反応が同時に近づいてくる。
「前から6体、来るぞ。」
私が言うと皆武器に手をかけ、多少緊張した雰囲気になる。
移動速度としてはそこまで速くない感じだが、
カサカサカサ……
ヴヴヴ……
「……ん?」
足音と羽音だろうか? が聞こえてきたようだが……嫌な予感がする。
そうして姿を現したのは――
「キシャァァァ!!」
ジャイアントセンチピードが4匹にビッグフライが2匹である。
ジャイアントセンチピード……全長1メートルを超える虫型モンスター、早い話がデカいムカデだが、その牙には毒がある。
ビッグフライ……同じくデカいハエの魔物。大きさは中型犬程度。特に毒とかは持ってないが素早く飛び回るので厄介な相手となる。
「「…………ぎゃぁぁぁ!!」」
真っ先に出たのは私とアリシアさんの悲鳴。
アリシアさんが悲鳴を上げたのは何故か知らないが、私は虫がダメなのだ。あの気持ち悪さと言ったら……前世でも、ゴキブリとかゲジゲジとかダメだった。殺虫剤を吹きかける際でもへっぴり腰になっていた。あんなものをスリッパで潰せるやつとか信じられない。エビとか蟹なら大丈夫なんだが……虫じゃないけど。
正直、あれはヤバイ。剣とか持ってない今、ステゴロになるわけだが触りたくない。というか剣でも切りたくない。
「ああ、お嬢様虫ダメですもんね……ノワール様もですか?」
コクコク!
私たち2人は必死に頷く
アリシアさんも虫ダメだったのか。仲間意識を感じる。
「あらあらぁそうだったのぉ」
「ノワール様、虫が嫌いだったんですね」
ひしっ!
思わずアリシアさんの手を握ると握り返してくれる。仲間意識というより怖いので離れるな的なことだ。
「と、というわけで、ソレイユちゃん、ティーア、カーマインさん、頼んだ。」
というわけで6匹に対応するのは他の3人に任せる。
ソレイユちゃんの槍がジャイアントセンチピードの頭部を貫き、ティーアの闇魔法がビッグフライを飲み込む。カーマインさんはジャイアントセンチピードに近づき地道に何度も殴って倒していく。
今回はティーアも戦いに混ざっているのですぐに終わると思われた。
「ティーア、魔法使えるのは知っているが鞭は使わないのか?」
「ええ、体液とか飛び散ったら嫌でしょぅ」
「……確かに」
ダンジョンのモンスターでも死んでなければ血や体液って出るんだよな。ハエが体液を飛び散らせるところを想像してしまった……気持ち悪い。
私とアリシアさんは離れたところで手をつなぎ戦いを見守っている。
カーマインさんの攻撃をすり抜けたジャイアントセンチピードが腕に噛みついた。
「っ、痛っ!」
「大丈夫ですの!? カーマイン」
カーマインを心配するアリシアさんだが決して近づこうとしない。距離をとって声をかけるだけだ。
カーマインさんはすぐにもう片方の腕で引きはがし殴る。
だが、ジャイアントセンチピードの牙は毒があったはずだ。すぐに解毒しないと、
「【解毒】【回復】」
と言いつつ、私も近付きたくないので距離をとって魔法をかける。足はガクガクである。
「ありがとうございます……あの終わりましたのでこちらに来てもいいんですよ」
カーマインさんが撲殺していたジャイアントセンチピードがようやく死んだようで黒い霧になって散っていく。殴っていた間に体液が顔などに飛び散っていたようだがそれも本体が死んだら一緒に霧になって消えて行った。
「ああ、そうだな」(ガクガク)
「そ、そうですわね」(ガクガク)
そう言っている間に最後の敵をソレイユちゃんの槍が貫く。こうして6匹の魔物はカーマインさんが攻撃を受けた程度で排除された。
なお本来ならばこの時点で『解毒ポーション』や『回復ポーション』などが必要になってくるのだが、そこはそこ、回復魔法使えてよかった。
「ああダンジョンだから消えてしまうのですね。もったいないです。ジャイアントセンチピードと言えば珍味として有名ですのに」
「む、虫を食べますの!? 信じられませんわ!」
「……気持ち悪くなってきた……うぷっ」
「……お嬢様は食べたことがあるはずですよ? 屋敷の食卓に何度か上がっていましたから」
「――っ!! き、聞いていませんわよ!!」
「言ってませんからね。『美味ですわね』とか言って普通に食べていましたが」
アリシアさんが虫を食べていたと聞かされて悲鳴を上げた。あ、プルプルして涙目になった。
この階層は出てくる魔物が虫系ばかりだった。ムカデにホタル(あれはゴキブリでは無い、無いったら無い)、蜂、アリから蛾、カマキリ等々。しかも、どいつもこいつもデカい上になぜかこの階層は数匹~十数匹が同時に襲ってくるのだ。
「ぎゃぁぁぁ!」
「ひぃぃぃ!」
「うわぁぁぁ!」
「あぁぁぁぁ!」
「ちょっとお嬢様方、うるさいですよ」
「いや、私、ホント虫ダメなんだよ。ソレイユちゃん、ティーア、頼んだ!」
「わ、私もですわ。か、カーマインさっさと倒しなさい!」
~夜営中~
「うぅ~ん、カサカサカサカサ聞こえるぅ~」
「ひぃぃぃ……羽音が羽音が」
私とアリシアさんは幻聴に悩まされ十分な睡眠がとれなかった。
~次の日~
「……あれは宝箱ですの?」
そう、通路にデンと鎮座している木の箱を見つけた。逆に罠を心配するレベルに分かりやすい。
「そのようだ。罠は無いようだ」
今回も開ける前に〈鑑定眼〉をかけて罠が無いことを確認する。
「そうですの……何が入っているのかしら?」
「お嬢様、開けないんですか?」
前回、宝箱と聞いて真っ先に開けたアリシアさんが今回は一歩も動かない。小刻みに震えているので虫を警戒しているようだ。
「え、ええ、今回はあなたたちに譲ってあげるわ」
「あ、じゃあ私開けてもいいですか?」
ソレイユちゃんがそう言って、宝箱に近づいていく。どうやらソレイユちゃんもこういった物には興味があったようだ。
宝箱を開け中を覗き込んだソレイユちゃんが手にしたのは、
「わぁ、これ盾ですか?」
「「――――っ!!」」
ソレイユちゃんが持ち上げたのは、ゴ……ゴキブリ……え? 何あれ?
あわてて〈鑑定眼〉を使用する
結果、『コックローチ』という名の小盾だった。
その黒光りする色合いはまるで生きているかのように生々しくまさしく芸術。避弾経始を極限まで極めたフォルムは見るものを神秘の世界に誘う。羽を思わせるアクセサリーはまるで昆虫のような偏光性を持っており持つ者のオシャレさを引き立てる。本来足の部分を持ち手としているところに独創性が感じられる。
……はっ!
ヤバイヤバイ意識が飛んでいた。
「そ、それ、特に魔道具とかではない、た、……ただの盾だな」
「そうなんですか、へぇ~」
やめてっ! ソレイユちゃん! 女の子がそんなものに顔を近づけないでっ、まじまじ見ないで。
「まるでゴキブリみたいですね。」
ソレイユちゃんがズバリ言ってしまった。
サクサク進めたいですねぇ
後、魔法のネーミングがかなり適当ですので、あれ?同じ効果なのに前と呪文が違う。とかあるかもしれません。