79 貴族と王都のダンジョン 7
今、私たちは大きな岩の背に隠れている。岩の向こうからは絶え間ない弾がこちらに吐き出され続け、岩肌を削り、土煙が上がっている。
「アパ○! 弾もってこい!」
「アパ○って誰ですの!? 私はアリシアですわよ!」
わかってるよ。雰囲気だよ。
岩陰から顔をのぞかせるとトカゲの口から炎の弾が放たれるところだった。ヤバッ
「RPGッ!!」
「アールピー……ってなんで――きゃっ!!」
炎弾が岩に当たって霧散すると同時に、火の粉を辺りにまき散らす。
今、相手にしている敵はロックガンタートルとリザードマンファイアの二体だ。
ロックガンタートルは名前の通り見た目は亀なのだが、大きさは軽自動車ほどあり、更に背中の甲羅には複数の穴が開いている。そこから魔力を塊にして連続で打ち出してくる。威力は野球のデッドボールほどと1発程度では死にはしないが、それを何十発も連射してくるので厄介な敵だ。
そうしてもう一体、リザードマンファイアというのは二足歩行するトカゲで、更に口から【ファイアボール】の魔法を吐くことができる。なぜ手ではなく口から出すのかはよく分からない。
本来この二体は群れるようなものではないはずなのだが、なぜかこの場所に一緒にいた。
「はい、というわけで、ここをどう切り抜けるかですが……」
「ちょっと! もう少しで火傷するところでしたわよ!」
「さっきのあれはなんでしょうか? ノワール様」
「ほらぁ、あれじゃない? 勇者ごっことかそう言うの。ご主人様もやるのねぇ」
「勇者様の仲間でアパ○さんという方は聞いたことがありませんが」
岩を背にして二体の攻撃を防ぎつつ私が皆に問う。
アリシアさん、ソレイユちゃん、ティーア、カーマインさんが言葉を返してくれるが、それ、答えじゃないよね。
私と後、ティーアぐらいなら、力でゴリ押しかスピードで躱しながら接近も可能だろう。ソレイユちゃんなら多少のダメージ覚悟で突破ということもできる。アリシアさんとカーマインさんのレベルでは多分策を練らないと倒せないと思う。
ちなみに、皆のレベル上げという名目のもと、低、中階層に関しては死にそうな場面でない限り私は支援兼解説役に徹することにした。別に必殺技が受けなかったからって拗ねているわけじゃない。
まあ、話し合いはそこまで長引かなかった。私が考えることぐらい周知の事実だろうからだ。本来、アリシアさんとカーマインさんを真っ先にレべリングするべきなのだが、ここは安全をとってソレイユちゃんも参加することになった。
ソレイユちゃんが相手の気を引きつつ、可能であれば攻撃も捌く。その隙にアリシアさんとカーマインさんが回り込み敵にダメージを与える攻撃役だ。
「行きますわよ!」
「「はい」」
「3、2、1、今!」
ソレイユちゃんが岩場から躍り出て、敵2体と対峙する。
魔物が姿を現した獲物に対して攻撃をしないという選択肢は無く、攻撃が集中する。ロックガンタートルの魔力弾を槍を使って叩き落としていく。ソレイユちゃんは今回攻撃ではなく防御に専念すればいいため何とか全弾、よけたり、槍で弾いたりしている。
その隙に、アリシアさんがリザードマンに、カーマインさんがロックガンタートルにそれぞれ回り込みつつ向かっていく。
「がんばれー、がんばれー……あだっ!」
岩から頭を出して皆の雄姿を応援していたら流れ弾がおでこに当たって、首がガクンッ! ってなった。別に痛くは無かったが、頭だけノックバックしたので首を痛めたんじゃないかと心配になる。
「はぁっ!」
アリシアさんが振るったレイピアが、リザードマンを傷つけるが、ダメージは浅く、すぐに注意がアリシアさんの方に向く。
同じように、カーマインさんも亀の魔物に一撃を加えるが甲羅を殴ってしまって大したダメージもなく、敵の注意を引く結果となる。
といっても、注意がそれて攻撃がやんだ隙にソレイユちゃんが接近して攻撃し、再度注意を引く。
そのパターンを何度か繰り返すことにより、少しずつではあるが攻撃が通っていた、リザードマンが動きが鈍ったところに、アリシアさんの刺突攻撃を首にもらいダウン。黒い霧となって霧散する。
次にロックガンタートルだが、亀の魔物でさらにその巨体も相まって、動きは鈍いが、防御力は非常に高い。カーマインさんは魔力弾の射線に入らないように常に動き回りつつ、攻撃を加えるが、なかなか有効なダメージを与えられない。
その後、すぐにリザードマンを倒したアリシアさんたちが加わり3対1となったため、敵は誰を狙えばいいのか混乱している。
「頭か足を狙ってください!」
ソレイユちゃんの言葉に、アリシアさんと、カーマインさんが答え、甲羅から出ている足を狙い始めた。
そうして少し時間がたつと、まず前脚が限界を迎え倒れ込む。その後後足にも攻撃をして、文字通り手も足も出ない状態にすると、ようやくとどめの一撃となった。
「はっ!」
逆手に持ったアリシアさんのレイピアがロックガンタートルの眉間に突き刺さる。ようやく力尽きたようでロックガンタートルも黒い霧となって霧散する。
「はぁはぁ、し、しぶとかったですわね」
「ええ、皮膚が固いので腕がしびれてしまいましたよ」
「でも、ちゃんと倒せたじゃないですか。」
この後も同じように、ソレイユちゃんを囮として、アリシアさんとカーマインさんが攻撃を加えるという戦い方でどんどん進んで行く。先ほどのロックガンタートルのように倒すまでに多少時間のかかる敵もいたが、おおむね安定して敵を倒せているようだ。
ソレイユちゃんのような役割をタンクと言うそうだが、盾を持たせるべきだったかな? と思ってしまう。
あと、このあたりの階層から、冒険者が少なくなってくるため、相対的に魔物とのエンカウント率も上がってくる。
当然連戦なんて言うのもあるので、
「ぜぇぜぇ……う、腕が痛いですわ……」
「なかなかきついですね。」
「大丈夫ですか?」
「見ているだけっていうのも暇ねぇ」
「とりあえずかけとくぞ、【ヒール】」
1匹を倒したと思ったら、更にもう1匹が現れなんてことで、ロックガンタートルレベルの厄介な奴と4連戦なんてこともあった。
ソレイユちゃんはさすがの高レベルだからかこのあたりの階層だといまだ余裕がありそうだが、アリシアさんとカーマインさんは肩で息をしている。
一応回復魔法をかけてやる。外傷ではない、疲労や筋肉痛にも効果があるのかというと、あるのだこれが。息切れなんかは酸素を取り込むための行動なので回復魔法ではどうにもならないが。肉体的疲労については一定の効果がある。
「あら、ずいぶんと楽になりましたわね」
「ありがとうございます」
数をこなした甲斐あって戦闘をした3人のレベルもある程度上がったし、ドロップ品もいくつか入手した。
ただ残念ながら、宝箱は11~15階層では見つけられなかった。
……進まないorz