78 貴族と王都のダンジョン 6
ダンジョンへは通常数人から十数人のパーティーを組んで潜るのが普通である。
過去にはもっと大人数で行けば楽に攻略できるのではないかと思った者が居たそうだ。国でも軍を動かし潜ったことがあるらしい。だが実際にその方法は数度行われたが結局めぼしい成果を出せなかった。
広い空間ならば、大規模な軍による進軍も問題ないだろうが、ダンジョンでは少々異なってくる。迷宮内には大きな空間も存在するがそれ以外に通路などもある。数人であれば十分な広さがあるのだが、さすがに軍が隊列を組んで行軍すると狭くなってくる。こういったところで敵に出くわせば基本的に身動きが取れなくなる。また閉鎖空間であるため指示を出したら声が反響してどこから命令されているのかわからなくなったなんていう事もある。
また、迷宮に出る魔物は基本的に単体行動を行う。モンスター部屋などは別だが。どれだけ強力でも単体の魔物であれば前衛の一部しか対応できずそれ以外の特に後方が役に立たないということになる。無論、前衛が疲れたら後衛と交代ということも考えられるが通路などの場合は交代するスペースが無い。
撤退時に方向が限られるというのもマイナス要因だ。
そして、最も大きな理由は補給だ。大規模な軍が動けばそれだけ補給が必要になってくる。地上での軍事行動では敵を倒しながら行軍し、補給部隊はその後安全になった場所や自軍の支配地域を通ってくる。だがここは迷宮だ。行軍した後でも普通に魔物が湧いてくる。となると、補給部隊にもそれ相応の護衛を付けなくてはいけない。となるとその護衛部隊の補給も必要で、補給物資が多くなる。となると、補給部隊が大規模になり、大規模になった分だけ、また護衛が必要となり……と、どんどんと大規模になって行ってしまい結局手に負えなくなってしまった。
そのようなこともあり迷宮を物量で攻めるという者は居なくなってしまった。
なお 低階層が1~10層。中階層が11~29層。30層以降が深階層と呼ばれている。
◇◇◇
低階層だが、あの盗賊たち……暗殺者? たちが襲ってきた後は特に問題なく――アリシアさんの攻撃が通りにくいので敵の気を引く役をやりつつ、カーマインさんがとどめを刺していく。
そうして、アリシアさんとカーマインさんは徐々にレベルを上げつつ10階層までたどり着いた。
ちなみに、私は言わずもがなティーアやソレイユちゃんも10階層までではレベルは上がっていない。おそらくレベルが上がると必要経験値も大きくなっていくのだろう。
回復魔法及び蘇生魔法の件はアリシアさん、カーマインさん共に口外しないようにということは了承してもらった。
まぁ、どこかから漏れるかもしれないが、その時はその時ということで
◇◇◇
さて11階層にやって来たわけだがここからまた景色が違ってきている。ここは大部屋が数部屋のみで構成され、その内部は草原が広がっており、さらには大岩がそこいらにゴロゴロしているような場所だ。天井があると思われるところにはなぜか空がある。地下なのになぜ空があるのかは不明だが、この後もこのような室内なのに空があったり水辺があったりするところがあるそうだ。(地図より)
さすがに私の出番がないので、何かやってみたくなってくる。というか11階層もレベル的にはソレイユちゃんやティーアには問題なくクリアできる場所である。
カーマインさんやアリシアさんも今までの戦いで、少しレベルが上がっていて、アリシアさんの方はちょっと低めだけれど、カーマインさんは適切なレベル帯になっている。
鎧をガチャガチャやっていて、いかにもな私だが、ここまで、例の盗賊退治はしたが、ダンジョンのモンスターに対しては何もしていない。
しかし、あのカッコいい剣が折れてしまった。予備の剣を持っていたのでそれを持ってみるが……いまいち鎧との統一感が無いなぁ
とりあえず魔法付与っ!
ベキベキバキィッ!
こうすれば店売り量産品でも、なんと武器ランクBの剣に。なんとお手軽。………あれ? 武器ランクがCにしかなっていない……やり方を間違えたかな?
無論デザインも変わっていない。
まあ、いいや。
なお、ダンジョンには1か月以上潜るかもしれないので、予備の武器防具はそれなりに持ってきている。といっても誰かが武器を喪失した際に使う物なので専用武器ではなく、剣と槍、メイスといった扱いやすいものを何本かとフリーサイズの防具も同数といったぐらいだが。
さて、ここで実験をやってみよう。
「すまないが、あれは私に倒させてくれないか」
目の前に現れたリザードマンを倒そうと武器を構えていたアリシアさんたちに一言言い前に出る。
実験といったが頭の中で構想は出来ているのでこれからやるのは実演だ。
そう言えば前世では、「すまない」とか気取ったセリフなんて使ったことないな。この喋り方に変えてから結構経つし、そろそろキャラが安定してきたんじゃないだろうか、ムフフ、出来る女っぽいな…………おっと話がそれた。
まずは剣を両手で構え半身を前に出し体を斜めにする。この時、剣の切っ先あたりに視点があるように考える。
その後【麻痺】(初級の電撃魔法)にて相手を麻痺させる。これで相手はその場で硬直して動けなくなる。
そして相手に向かって剣を振り上げる。その際にはまだ相手との距離は剣が届く距離ではない
そうした後剣を振り上げたポーズのまま体を止め、【レビテーション】(浮遊魔法)にて地面から少し浮き上がる。(数㎝程度。浮いていることを悟られない程度が良い)これで地面との摩擦が無くなる。その後【ウインド】(風魔法)にて体に向かって風を吹きつけると、剣を振り上げたポーズのままススーと相手に向かって移動していく。
そうして剣の間合いに入ったら剣を振り下し相手を切断。
そのまま相手の脇をすり抜けるとともに【レビテーション】を解除し、相手の後ろ、少し離れたところで止まる。
そして剣を払う動作と共に【エクスプロージョン・小】(小規模爆発魔法)を敵の足元で起動。爆発させる。
以上だ。これを連続でやると……
「貴様もこれで終わりだ」 (勇者パース)
「グガァァ!!」 (相手は硬直)
「はぁぁぁ!!」 (剣を上段に構えて地面を滑るように移動)
「でやぁ!!」 (相手を斜め一文字に切断)
フォン! (そのまま後ろにスリップして停止)
ドゴォォォン!! (剣を振るうと同時に相手は爆発)
という、勇者アニメ的必殺技の出来上がりだ。どやぁ!!
キマったな。
そう思い皆を振り返る。
パチパチパチ!
「カッコいいですノワール様」
ソレイユちゃんが拍手してくれる。うむ、良いぞ良いぞ。
ただソレイユちゃん以外の皆が微妙な表情だな……あれぇ?
「ねぇ、ノワール。あのリザードマンはなんで斬られた後爆発したのかしら?」
「剣を構えてから変な動きをされていましたが、あれは剣術を習ったりしたらできるものなのでしょうか?」
いやそう言うツッコミいらないからね。見た目重視の技なんだから、カッコよさとか見てよ。
結局予備の剣は、アイテムボックスにしまっておいた。
武器どうしようかなぁ。
裏設定
主人公さんたち割とサクサクと進んでいますが結構難易度高いんです。
この世界回復魔法持ちが貴重でしかも教会に所属してしまっています。なので普通は回復ポーションなどを持ってくるわけですがポーション類は高価&かさばるのであまり量を持っていくことができません。さらに解毒薬や対麻痺薬なども含めると結構な量になります。
無論少しの怪我などではポーションなど使えないので、体力や精神力などをガリガリと削られるわけです。
敵に毒持ちなんていた場合にはそのままポックリと……なんてこともあります。
そして、アイテムボックス持ちも貴重なので、持ち物もあまり持ち込めません。寝床はマントなどの簡素なもの、食料は保存食メインとなると、休息を挟んでもあまり回復しません。
など、時間がかかればかかるほどつらくなっていく仕様なのです。