74 貴族と王都のダンジョン 3
さて、しばらく歩いているとやはり昨日と同じように一定間隔をあけて付いて来ている人たちがいることを〈気配察知〉が知らせてくれたので、少しカマをかけてみようと行き止まりの方へと道を逸れてみたところ……
「……ん?」
「わぁ……」
「あらぁ」
「え? ……箱? ……あれって宝箱じゃないのかしら?」
「そのようですねお嬢様。」
そう、アリシアさんが言ったように道の突き当りの床に、枠を金属で補強してある木製の四角い箱が置いてあった。
あれが宝箱というやつであろうか? そうだとしたら、こんな低階層で見つかるなんて運がいい。
「ねえ、ノワール。あれ開けても大丈夫なのかしら?」
「あーと、ちょっと待ってください」
そう言い〈鑑定眼〉を使用する。このスキルは物に使えることは知っているし、それに確かゲームとかだと、宝箱に擬態するモンスターなどを描いているものもある。モンスターでなかったとしても罠とかあるかもしれない。
宝箱:ダンジョンで一般的にみられる木製の宝箱。罠及び鍵は無し。
ミスリルダガー:ミスリルで作られたダガー
……ん?
おかしいな。宝箱を鑑定したはずなのになぜか、『ミスリルダガ―』という表記が一緒に出てきた。そういったものは周囲には落ちていないし……もしかして宝箱の中身なのか?
「……一応罠などは無いようだが」
「そう、じゃあ開けてみましょう」
そう言ってアリシアさんが特にためらいもなく宝箱を開く。……もう少し警戒するよう注意すべきだろうか。
そうして開いた宝箱を覗き込んだアリシアさんは、
「……短剣のようですわね。」
アリシアさんが宝箱の中からその短剣を持ち上げ、私たちの方に見せながら言う。
私はもう一度〈鑑定眼〉を使用する。
銘:無し
種類:ミスリルダガー
武器ランク:C
装備者:-
能力:-
さっきの表示通り、ミスリル製のダガーだった。て言うか、宝箱の中身まで鑑定してしまうんだな。能力の調整ミスったか?
「アリシアさん。それはミスリル製のダガーらしい」
「まあ、そうなんですの…………これがミスリルですの」
「はぁ~」と手に持ったダガーをしげしげと眺めるアリシアさん。
まあ、ミスリルと言えば確か魔法との親和性が高い金属らしく、また金属自体も希少なものだ。私も武具店でミスリル製の商品を見たことはあるが、「うわ、やっべっ、高っけ」と思ったことがある。
なんにせよ、こんな低階層で出る宝としては『当たり』ではないだろうか。
アイテムボックスにミスリルナイフをしまい、来た道を戻ろうとすると……薄笑いを浮かべた身なりの悪い男たちが、道を塞ぐ様に横に並んでいた。
「へへへ、お嬢ちゃん達どこへ行くのかなぁ?」
「有り金全部渡してもらおうか。まあ、渡しても、お前らは逃がすつもりはないけどな。」
テンプレっぽい悪役台詞を吐いている計10人の男たち。
やべぇ、宝箱見つけたんで、こいつらの事すっかり忘れてたわ。
後ろからついてきていたのは、やはりこんな奴らだった。一応こいつらの正体は分かる。迷宮の情報を集める際に読んだ資料によると、迷宮に出る盗賊っぽい奴らだ。迷宮に潜っている冒険者の稼ぎをかすめ取っていくらしい。
だがしかしここは迷宮である。本来盗賊なんてやっても割に合わないのだ。
なぜなら、盗賊っていうのは正規の方法では食っていけない奴らがなる職業だから基本弱い。数の暴力で押し切っているだけだ。そのため彼らの実力では低階層か良くて中階層でしか活動できない。低階層にいる冒険者の稼ぎなんて知れているし、中階層以降は冒険者の実力も高くなってくる。迷宮には基本戦闘バッチコイな冒険者しかいない。なので、襲って返り討ちに合う危険が外にいる盗賊などより高い。
その上、ここは王都が隣接している都市なので、治安面にはそれなりに力を入れている。他の冒険者の遺品や盗品が市場に流れればそれなりに調査が行われる。
などの理由によりエンカウント率は宝箱を見つけるより低いらしい。
一応〈鑑定眼〉で見てみたが、案の定、一人を除き全員レベルが非常に低い。
「な、何なんですのあなたたちは!」
アリシアさんが、声を上げ武器を構える。カーマインさんやソレイユちゃんがそれに続いて武器に手をかける。
「あらあらぁ」
ティーアは特に何もしないようでのんきな声を出している。まあ、ティーアぐらいなら素手でもなんとかなるのだろうが。
「へっへっへ、俺たちの正体を聞く前に自分たちの心配をした方がいいんじゃないかなぁ」
「聞いてはいたが、5人ともスゲェ上玉だな」
「おい、殺すんじゃねぇぞ。楽しめなくなるからな。」
そんなことを言いながら10人の盗賊たちは武器を構え、じりじりとこちらに近づいてくる。どうやら女性5人組みなので勝てると踏んで出てきたのだろう。
こういうレベル制の世界でも女性の方が貧弱という考えが根強いんだな。と妙なところに思いをはせてしまう。
「一応聞いておくが、盗賊か? 人違いとかではないんだな?」
私が前に出つつ、道を塞いだ集団に対して問いかける
この世界の正当防衛の基準はかなり甘い。こちらに武器を向け、危害を加える発言をした時点で正当防衛成立となる。(王侯貴族他一部例外を除く)
「おう。そうだぜ。こわーい盗賊様だぜ。へへへ」
「お嬢ちゃん達で間違いないぜぇ」
言質もとれたな。アリシアさんという貴族様も聞いているので言い逃れは出来ないだろう。
こういった連中は、下手に痛めつけるだけで、逃がすと、また同じようなことをするかもしれない。衛兵に突き渡すという道もあるが、ダンジョン内に衛兵はいないので、来た道を何日もかけて戻ることになる。そのためダンジョン内に出た盗賊については半ば殺すことが推奨されていたりする。
「最初は誰から――「タイム!」――はぁ?」
盗賊の言葉を遮りパーティーメンバーを手招きする。
パーティーメンバーが集まり円陣を組んでから、ひそひそ声で話しかける。
「この中で人を殺したことある人は?」
しーん……
誰もいないわけね。まあ、予想通りだろう。ティーアについては分からなかったが。
「あれは殺した方がいいと思うんだが? どう思う?」
「別にかまわないのではなくて?」
おぅ、アリシアさんからドライな反応が。
「いや、でも人殺しとかやったことないんだろ? 誰がやるんだ?」
「…………」
「私がやりましょうかぁ?」
ティーアが提案してくれる。おそらく、この中では精神的に一番強いのはティーアだろうけれど、
「……いや、私がやろう。聞かなければならないこともあるしな」
そう言い、円陣を解き私が前に出る。
「おい、コラァ! こっち無視してんじゃ――ガヒュッ!」
ベチコーン!
「ひでぶっ!」
バチィーン!
「あべしっ!」
とりあえず剣の腹で殴っていくと、頭を地面に突っ込ませてピクピクと痙攣しだす男たち。
そうですよ。まだ人を殺す覚悟ができてないんだよ。魔物なら殺せるんだけどな……ただの自己満足だと分かっていてもどうもなぁ……
「なっ――おぶぅっ!」
「てめぇ――げふぅっ!」
残っている男たちもあわてて武器を構えて向ってくるが非常に動作が緩慢で相手にならない。
相手の攻撃を避けつつカウンター気味に剣をたたき込む。
ゴンッ! ガンッ! ギンッ! ゴッ!
「「「「ぷべらっ!」」」」
結局物の数秒で9人が御用となった。