68 ダンジョン 3
すみません遅くなりました……
ギルドにてパトロン募集の張り紙をしようとしていたところ見知った声が聞こえてきた。
「ノワールさん!」
メリノ君だ。どうしてこんな所にいるのだろうか?
「メリノ様。お久しぶりです。」
そう言って見てみると、メリノ君と誰か知らない貴族の人が一緒にいた。金髪縦ロールなんて貴族だろ絶対。あとはメイドと思われる人が一人と、どちらかの護衛と思われる剣と鎧で武装した人が3人だ。
「はい、ちょっとこちらのメープルローズ伯爵家のアリシア様にダンジョンについての話を聞きに。あと僕も冒険者登録をしてみたいと思いまして……、あ、アリシア様、こちらノワールさんです。」
そう言って、金髪縦ロールに私たちを紹介する。金髪縦ロールは伯爵(家の娘)らしい。
「あ、ノワールです。冒険者をやっています。こっちはパーティーメンバーのティーアとソレイユです。」
変わって私たちの自己紹介を行う。
「私はアリシア・ショコラ・メープルローズですわ。こっちは私付きの侍女のカーマイン」
アリシアさんも自己紹介を返してくれる。無論、手で髪の毛をファサァとするのも忘れない。典型的な貴族のようだ。そして一緒にいたメイドの人も紹介されて一礼する。
「で? メリノ様、ノワール様たちとはどういう関係なのかしら?」
「え、か、関係!? …………休暇中に剣を習ったんです。あと、レベル上げの協力もしてもらいました。」
「あら、そうなの」
(ということはかなりの使い手なのかしら?)
アリシアは、以前の模擬試験でのメリノの動きを思い出しそう考える。
「それでメリノ様、そちらの……アリシア様にダンジョンについての話を聞くとのことでしたが、」
「そうでした。アリシア様が少し前に護衛を付けて6階層まで潜ったそうなので、その話を聞くためと、冒険者登録をするために来たんでした」
アリシアさんは6階層まで潜ったのか。私たちは2階層までしか潜っていないのだから先輩になるのか。
「ではあちらの席で落ち着いて聞いてきたらどうです?」
そう提案して、併設している酒場を指す。あまりお貴族様にはふさわしくないかもしれないがここで腰を掛けられる場所というのはそこしかない。
「そうですわね。では行きましょうか」
そう言って先頭に立って、行こうとするアリシアさん。
「あ、ノワールさんもどうですか?」
「え? いいんですか」
お誘いを受けた。特に急な予定もないし、それに6階層までの情報が聞けるかもしれないと思ったので付いていくことにした。
そうやって大人数用のテーブル席に着いたのは、私、ティーア、ソレイユちゃんにメリノ様、アリシアさん、カーマインというメイドの6名だった。さっきいた3名の護衛の人は立ったままだ。
そうして語られる昔話。と言っても護衛のパーティーに依頼料を払って6階層まで行った話だが、往復4日で5階層までは同じような景色であったことや出てくる魔物も、1、2階層とさほど変わらなかったので、そこまで知らない情報を収集ということはなかった。ただ6階層から景色と魔物が変わるというのは初耳だったので、これは役に立った。
「へぇ、すごいですね!」
一方メリノ君はアリシアさんの話に真剣に聞き入っていた。やはりダンジョンということで男の子にはワクワクするような冒険譚なんだろう。何度か魔物とも戦ったらしいというとメリノ君はいっそう興奮していた。
私も、最初入る時にはワクワクしていたもんな。そうして何時間も同じ景色が続いていたことで現実を知ったのだが。
「目標は30階ですわ!」
そうアリシアさんが意気込んでいる。ちなみになぜ30階なのかというと、貴族が欲しがるような宝が出るのが30階層以降だと聞いたからだとか。
「宝がほしいんですか?」
何故、貴族が自分で潜って宝をとってくるのか、少し疑問に思ったので聞いてみる。
「そう言えばあなたたちは平民でしたわね。ならばあの件も知らないのも無理ないですわね」
「お嬢様ったら婚約破棄されて家を追い出されたんですよーープププッ」
「ちょっとカーマイン! あなた主人を笑うとは何事ですか!」
「大丈夫ですよお嬢様。分かってますよ。プププッ!」
おや? 何か複雑な事情がありそうだ。というかメイドさんがさっきから吹き出しながらしゃべっている。たぶんここもメリノ君の家みたいにフランクな関係なのだろう。
そうしてメリノ君やアリシアさんから聞かされる衝撃の事実……いや別に私たちにとっては衝撃ではないのだが。たぶん貴族界では衝撃なんだろうなーと。
こちらアリシア・ショコラ・メープルローズ伯爵令嬢。なんとこの国の第二王子の婚約者だったのだが、少し前に小憎たらしい男爵令嬢に婚約者を奪われた挙句、大衆の前で婚約破棄を突き付けられた悪役令嬢らしい。しかもその余波で何か偉業を成し遂げてこいと言われて、実家を追い出されたとか。
「そこで、ダンジョンです! ここには王族すら欲しがる宝が沢山あるそうじゃない!」
「そう簡単にいかないからこそ、ダンジョンて言われてるんですけどね」
カーマインの突っ込みもなんのその、アリシアさんは今にも「おーほっほっ」とか言い出しそうな姿勢で言い切った。
「なので、何とかして30階以下に行こうと思っていますの!」
「でも、お嬢様の実力じゃ、仲間を集めてもキツくて困り果てているんですよね」
「くっ!」
アリシアさんが唇を噛みながら侍女さんをにらむ。
なるほど、事情は分かった。……いいんじゃないのコレ。
「ちなみに潜るための資金はあるのですか?」
重要なところを聞いてみる。無一文で実家を放り出されたのであれば何日かかるか分からない、ダンジョン探索で30階層なんて夢のまた夢だ。
いくらレベルがすごくても無理なのだ。必要な物資が揃えられないので。そう、私たちのように!
「ええ、資金ならありますわよ。でもこれは元手という意味なので、これ以上の成果を出さないといけないのです。」
おお、欲しい答えが返ってきた。それならば! いやらしい笑みと揉み手を心の中でやりながら
「へへへ、良いもの――「おお、お嬢ちゃん達、ちょうどよかった」
パトロンの話をしようと思っていたところに声が割り込んできた。……心の中で揉み手までしていたのに。
誰かと思ってみると、ギルドマスターのおばあさんだった。
「えっと、私たちですか。」
「そうだよちょっとこっちへ来ておくれ」
そう言われて、私とソレイユちゃん、ティーアが受付の方へ連れて行かれる。
「いや、悪いねぇ。あんたのことは王都側のギルドマスターとフーカ領のギルドマスターからも一応聞いたよ。でだ、ランクアップ審査についてはまだ時間がかかるんだが、先にこっちをやっておいてくれないか。おい、あれを!」
と言いつつ、その場にいた受付嬢に声をかけると、受付嬢が金色のカードを差し出してきた。大きさやデザインなどはギルドカードと同じなんだが、色が違う。ギルドカードは銀色なのだ。
「これは?」
「これはレベル100以上の奴の特別なカードさ。今までレベル100の奴なんていなかったからね、手配に時間がかかっちまった。」
そう言いつつ、受付嬢がおなじみの黒い板の謎道具を取り出す。ただ、いつものやつとは違い少し大きめだ。
「さあここに手を置いて」
ギルドマスターに流されるまま手を置く私。置いてしまってから、しまった! と思ったがもう遅い。シャコン! と以前と同じようにカードが出てくる。
「おう、どれどれ――」
そう言って出てきたカードを受付嬢より先に奪って記載内容を見たギルドマスターが目を剥いた。
「……これは」
そう言いつつも額から汗が一筋二筋と流れているし、目玉がこぼれるんじゃないかってくらい目を見開いている。
……やはりレベルか。ここはやはり「やれやれ大したことじゃないさ」とか言う所だろうか。
「あ、ああ、悪いね。しかしこれでも測れないとは――」
そう言って、ようやく我に返ったギルドマスターがカードを差し出してきた。
今後も更新が開きそうだと思ったら、閑話でつなぐということをするかも
まあ、本気でヤバかったら音沙汰なくなりますが……