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66 悪役令嬢 3

 あの後アリシアたちは平民街にて武器防具を買い、ダンジョンに潜り始めた。


 アリシアはドレスはそのままにその上から革の胸当てと籠手を装備し、武器は貴族の嗜みとして習ったことがあるレイピアを選択した。

 カーマインは同じく、メイド服の上から付けられる革の胸当てと籠手。武器についてはカーマインは素手での護身術は習得しているが武器はあまり扱ったことがないので扱いやすいメイスを選択した。


 武器防具としては2人は初歩的なものだが、今回は護衛される側なのでこれでも問題はない。


 この2人の前にポーターがおり、その3名の前後左右を囲むように『ハウンドドッグ』のメンバーが布陣して先に進んで行く。


「何か不気味なところですわね」

「そうですねお嬢様。人の居ない坑道のようです。」

「ああ、お嬢様方、第5層まではこれと同じような景色が続きますからね」


 ダフィットがそう言うと、アリシアはあからさまに嫌そうな顔をした。いくら道幅が広くてもこんな岩肌がむき出しの閉鎖空間などには来たくなかったといった顔だ。


 1階層は特に問題なく進んだ。冒険者の数も多く、魔物にも1回出会っただけで、しかもすぐに『ハウンドドッグ』――先頭を歩いているダフィットによって倒された。


 2階層も同じく問題なし。ここもまだ冒険者の数が多く、魔物に出会った回数も3回。いずれも小動物のような見た目のザコばかりだった。


 3階層もまた同じ。冒険者が多く魔物もザコばかりだ。魔物に出会った回数5回

 『ハウンドドッグ』のメンバーに頼んで一度魔物を倒させてもらったがアリシアのレイピアの一突きであっさりと倒れてしまった。


 そうして3階層のセーフティーゾーンで一時休息となる。夜になったので探索は終了ということだが、ダンジョン内は昼と夜の区別があいまいなためあまり夜営という感じはしない。


「今日はここで休みます。テントを立てますので、お嬢様方はその辺で休んでいてください。」


 そう言ってダフィットはポーターが運んでいたテントを立てる。いつもならこんなものは立てず、その場でマントにでもくるまって交代で睡眠をとるのだが、今回は貴族のお嬢様の護衛ということでテントを持ってきている。護衛対象にはこちらで休んでもらう予定だ。


 セーフティーゾーンについてはアリシアとカーマインはすでに説明を受けている。

 いわく魔物が湧かない場所。魔物が忌避する場所。などで出入り口が1か所ないし2か所しかない場所だ。別にセーフティーゾーンにまったく入ってこないわけではないが、低階層で入口が限られているとなればとどうとでもなる。


「テントですか。不便ですわね。」


 そう漏らしたアリシアに苦笑しながらダフィットが返事をする。


「ハハ、まあ低階層はザコばかりですからね。お嬢様方でもこの辺りならよほど運が悪くない限り死にやしませんよ。それよりもこの広さが問題ですね。たった3階層で1日が暮れてしまうんですから」


 そんな会話をしていると、次々と冒険者たちのパーティーがセーフティーゾーンに入ってきた。この場所で今夜を過ごす者たちだ。

 そうして入ってきた者たちは思い思いの場所に座り込み荷物から食料をだし食べだしたり、すぐに眠ってしまったりしている。


 アリシアとカーマインはそんな光景をもの珍しそうに見ている。


「よっと……テントができました。お嬢様方には今日はここで眠ってもらう予定ですが……大丈夫ですか?」

「自分から言い出したことですもの、その程度で弱音は吐きませんわ」

「そうですね。まあ、テントがあるだけましとしましょう」


 弱音は吐かないとか言いつつ、さっき不便だとかぼやいていたが気にしない。


 ダフィットは感心する。たまに勘違いした貴族がいるのだ。ダンジョンの中でもベッドで眠れると思ってくるようなおめでたいヤツが。あいつらは、そんな馬鹿な!? と思うような要求を平気でしてくる。

 それに比べればこのお嬢様方は立派だ。女性ならなおさらに。


 事実、アリシアは保存食はまずいと言いながらもちゃんと食べきった。


 ◇◇◇


 そうして2日目。4階層へ降りて行って魔物を倒す。最初にダフィットが言っていた通りここも洞窟型のダンジョンだ。

 ここへ来ると多少大きな魔物が混じってくる。といってもせいぜいが中型犬程度の魔物でありCランクを主体とした『ハウンドドッグ』にしてみれば、何ら問題はない。それにいまだギルドの認識では低階層であり他の冒険者も周囲に多数いる。

 結局ここも難なく突破し5階層へ行く。そうして5階層のセーフティーゾーンで2度目の夜営となる。


「それでどうでした、お嬢様方? ここで探索は終了。明日からは帰りとなるわけですが」

「そうですわね。やはり少し物足りませんわ。ちょっと6階層を見ていくことってできるかしら?」

「まあ見るだけなら、明日階段を下ってちょっと見てから、すぐに帰り支度を始めれば何とかなると思いますが」

「そう、ではお願いしますね」


 アリシアの提案で、次の日に6階層を一目見て帰ることになった。

 なおこの日も、アリシアは食事をまずいですわ~と言いながら食べていた。


 ◇◇◇


 周囲は石の回廊が続いている。石を四角に切り出し積み重ねて行ったような、石造りの建物なんかでも見ることができる風景だ。ただしその広さは段違いではあるが。

 現在一行は6階層の入り口に来ている。


「ずいぶんと雰囲気が違いますわね」

「このダンジョンは5階層ごとに風景が変わりますからね。」


 アリシアの感嘆の声に、ダフィットがそう返す。

 このデザルクのダンジョンはダフィットが言ったように5階層ごとに風景と出てくる魔物がガラッと変わる。この石の回廊も10階層までで、11階層からはまた違った風景が見られるわけだ。


「さて、じゃあ帰りますか」


 ◇◇◇


「と、まあ、今回は護衛される側でしたが、お嬢様方が本気で挑むのでしたら、今以上の装備もいりますし、それなりの準備もいります。持ち込む荷物だって大量になりますので、ポーターだって何人か雇わなければなりません。それにあの不味い保存食やテントでの生活を1週間単位で続けなければならないですよ。正直諦めることをお勧めしますね。」


 ダフィット達、『ハウンドドッグ』のメンバーは、ギルド側からさりげなくアリシア達のダンジョンへの挑戦をあきらめさせるように頼まれていた。当初、普通に潜るだけでその不便さから諦めるだろうと思っていたダフィット達だったが、これはもしかしたらと、今こうやって説得して諦めさせようとしているのだが。


「確かに不便ではありましたわ、しかし何かを得ようとするならそれなりの苦難を伴う物でしょう」


 と、至極まっとうなことを言うアリシア。貴族にしてはまっとうだとダフィットは感心したが、今回はあきらめさせるのが目的だと思い直す。


「確かにそうですが……そうしても得られる物が無い場合もあります。宝箱なんて運ですし、ここで一獲千金を狙って達成する奴なんてほんの一握りです。」


 とにかく諦めさせようと、何とか言葉を紡ぐダフィット


「問題ありませんわ。私はアリシア・ショコラ・メープルローズですわ。運なんて向こうからやってきますわ。」


 何が大丈夫なのか分からない理論を展開し大丈夫だというアリシア。会話が成立しているのか疑問である。


「でも婚約破棄されたんですけどね」


 カーマインがボッソッとツッコむ。


「そこ、うるさいですわよ!」


 その後も何とか諦めてもらおうと、慣れない敬語を使って色々とダンジョンの難しさを語っていくダフィットだが、アリシアは何故か自信満々で聞く耳を持たない。こういった自分の我を通そうとするところは貴族だなとダフィットは思いながらも最低限の義理は果たしたと説得を諦めた。


 余談だがダフィットは言っている途中で、あれ? そんなに難しいなら、俺ら何でダンジョンに行ってるんだっけ? とか思ってしまった。

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